京都市立看護短期大学、佛教大学に統合 公立から私立へ?

マイスターです。

生き残りをかけて私立から公立大学に変更され、受験生を急増させた高知工科大学。
その後、同じ路線を模索する大学も出てきています。

(過去の関連記事)
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私立大学を公立大学にできれば、学費は大幅に下がり、受験生は一気に増えます。
元々、国公立大学志向が強い地域などでは、高校側が意図的に国公立大学を受験させるということもあります。

個人的には、支持を得られなかった大学に対してあまり安易に税金を注入するのもどうかと思います。
ただ、そんな最終手段を講じてでも、守らなければならない大学もあるのでしょうから、一概には言えませんけれど。

さて、今日は、こんな話題をご紹介したいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「財政難で市立看護短大廃止へ 京都市、佛大新学科に協力」(京都新聞)

京都市は25日、市立看護短大(中京区)を2011年度末に廃止する方針を明らかにした。医療の高度化への対応や財政難などが理由で、10年度以降は学生を募集しない方針だ。教員は佛教大が11年度に中京区の二条キャンパスに新設する予定の看護学科が受け入れる。市は奨学金制度の創設や実習先の提供などで佛大の運営に協力していく。
市立看護短大は全国初の公立看護短大として1954年4月に開設。現在は看護科で約150人の学生が勉強している。受験者数は毎年、定員(50人)の約7倍に上る。
(上記記事より)

四年制大学が、短大を統合し、新しい学部・学科とする例は、以前にもありました。
例えば、武蔵工業大学が、東横学園女子短期大学を統合して「人間科学部」、「都市生活学部」にしたケースがそれです。

(過去の関連記事)
■武蔵工業大と東横学園女子短大が統合 東京都市大学に

ただこの2つは、もともと同じ学校法人の中にある学校同士。
理工系単科大学が総合大学化の道を歩むという点ではインパクトがあったものの、統合という行為自体は自然だ……という反応をされていたようです。

今回は、手続き上はどうあれ事実上は、公立の短大のリソースが私立大学に統合されるわけですから、また違った衝撃があります。

■「京都市立看護短期大学」(京都市)
(※短大のwebサイト、もうちょっとなんとかならなかったのでしょうか……うーむ)
■「佛教大学」

冒頭の記事では、「受験者数は毎年、定員(50人)の約7倍に上る」とありますが、ではなぜ、そんな短大を市は手放すことになったのでしょうか。

近年、医療の高度化とともに、全国的に3年課程の短大から4年課程の大学に移行するケースが増えており、市も約1年前から4年制移行を含め運営の在り方を検討してきた。
市によると、市立看護短大を4年制大学にすれば、建物の改修費などで20億円以上の経費がかかるため、4年制への移行を断念。昨年末に市内の大学を対象にしたアンケート調査で、看護学科の開設時期など条件に合う佛大に協力を求めることで合意したという。
(冒頭記事より)

「4年制に移行する」というトピックが浮上したが、それが単独では不可能だと判断した。
そんな経緯があるようです。

日本の看護教育は、これまで複線方式で行われてきました。
現在も、

・3年制の養成校
・5年制の高校
・3年課程プラス保健師・助産師統合カリキュラムの4年制大学
・准看護師から2年間の進学コース

……など、同じ「看護師」になるために、様々なルートが存在します。
ただ、看護系の学部学科を新設する大学も増えていますし、今後は四年制大学が看護教育の中心になっていくでしょう。

(過去の関連記事)
■中心は4年制大学に? 変わりつつある、看護師養成教育
■新設諮問大学の3分の2に、看護系の学部学科

もはや「看護系の短大として、自分達はどうするか?」……ということを、考えないわけにはいかないのだと思います。

そして同時に、公立大学には多くの税金が投入されますから、市の財政状況も考えなければなりません。

残念ながら京都市の財政は、現在、決して順調ではないのです。

■「京都市、財源不足964億円 09-11年度 再生団体転落も」(京都新聞)

09年度は278億円、10年度320億円、11年度366億円の財源不足が発生し、11年度の実質赤字比率が27%になり、地方財政健全化法の財政再生基準(実質赤字比率20%)を超えるという。
市は01年度に財政非常事態を宣言し、翌年度から2年間で新規施設の建設凍結や職員給与カットなどを進めている。福祉や医療の削減が困難な中、同プランでは、さらに職員数削減や大幅な給与カット、公営企業や特別会計、外郭団体も含めた支出見直しを迫られる。会議で門川市長は「放置すれば第2の夕張市になる。危機感を市民と共有しながらプランを策定したい」と述べた。
(上記記事より)

このように、財源不足が発生。
このままでは夕張市の二の舞になる……ということで、現在、効率化の真っ最中なのです。

■「京都市歴史資料館、閉館を検討 市財政健全化で11年度めど」(京都新聞)

↑このように、既存の施設なども閉館、または別の施設と統合するなどの方策を検討中。
こうした状況下で、京都市立看護短期大学の四年制化を市だけで行うというのは、いかにも難しそう。

今回、佛教大学に同短大を託す背景には、こうした京都市の事情もあるのだろうと想像します。

私立は公立よりも入学金や学費が高くなるため、市が佛大看護学科の学生を対象にした奨学金制度の創設を検討している。
看護短大の廃止に伴い、教員(現在16人)は佛大に再就職でき、うち1人は初代学科長に就任する予定。
(冒頭記事より)

↑こんな記述も。

(佛教大学)看護学科の学生を対象にした奨学金を市が創設する、
短大の教員を佛教大学がそのまま再就職させる、

……等々。
このあたりは統合にあたり、色々と双方で調整がはかられた部分でしょう。

正直、特定の私立大学の学生に対して、市が奨学金を提供してあげるというのは、他の看護系大学から不公平に思われるのでは……なんて気もします。

でも、こうした学費上の強みは、同短大の関係者にとっては非常に重要なポイントでしょう。
毎年、定員の約7倍に上る受験生を集められている理由として、公立大学の「学費」設定というのは大きいはず。
学費も含めて一切を私学化した結果、一気に受験生の支持を失い、定員割れを起こす、なんてことになったら目も当てられません。

学費を安くすることで学生を確保しようと考え、むしろ公立大学化を狙う私立大学が多い中で、この京都での動きは真逆のようにも感じられます。

さて、予想される問題について、既に以下のような報道もなされていました。

■「公私格差が課題 京都市立看護短大、佛教大に『統合』 京都」(Asahi.com)

単独での4年制化を断念した背景には、少子化で競争が激しくなっている大学経営への懸念がある。
市によると、市立のまま4年制に移行した場合、年間数億円の運営コストがかかるうえ、教室の増築などハード面の整備に20億円以上が必要となる。また、佛教大以外の大学も看護系学部を設置する意向があり、将来の運営が厳しくなる可能性が高いという。門川市長は「公立が単純に4年制化すれば、私学と競合してしまう。私学と協調しながら発展するのは大事なことだ」と述べた。
一方で、授業料の公私格差が今後の課題となる。京都市内に3校ある4年制の看護コースで比べると、1年間あたりの学生負担は、公立の府立医大と京大が約55万円なのに対し、私大の京都橘大は約160万円。市は、こうした負担増について「成績などを勘案した奨学金制度を創設して対応する。佛教大にも奨学金制度を拡充してもらう」とする。
ただ、市が拠出する具体的な金額や格差をどこまで縮めるかについては「今後の詰め」としており、大学関係者からは「市の助成があっても、学生の費用負担が少ない公立の廃校には納得できない」との声も出ている。
(上記記事より)

やはり学費のことが大きなトピックになっている模様。
奨学金の額、まだ詰まっていないようです。
公立が単純に4年制化すれば私学と競合する……と説明されていますし、学費が公立大学並みになるような金額ではないのかもしれませんね。

どのように今後の調整が進められるのか、それが気になります。
大学同士の合併では、教職員の待遇などを巡って話がまとまらず、合併が延期されるなんてこともありました。
こちらのケースがどうなるかに注目です。

以上、気になる動き、ご紹介させていただきました。

マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。