マイスターです。
「経験経済」という考え方があります。
これから、より重要になっていくのではないかなと個人的に思っている概念です。
これがどのような考え方であるかは、過去の記事で書きましたので、よろしければご覧ください。
(過去の関連記事)
・「経験経済」の発想を武器にしよう(2005年11月22日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50049331.html
普段嫌々やっていること、お金を払って他人にやってもらうのが当然とされていることを、高品質の「体験・経験」として提供することができると、その経済的価値は跳ね上がります。
同じ卵やミルクでも、そのまま売ったら、二束三文にしかなりません。
ケーキなどの加工品にして売れば値段はあがりますが、さらに高く売る方法があります。
「子供達に、卵やミルクの収穫を体験してもらう」
という「経験・体験」を売ることです。
原価数十円~百円程度だった卵やミルクが、発想を変えると、数千円支払う価値のある「経験」になるのです。
単に「儲かる」というだけの話ではありません。より高い価格をつけられるということは、顧客がより満足しているということです。単なる消費物を購入するよりも、得難い体験や経験に、人は満足するのですね。
こうした「経験経済」の発想が最も活かされると考えられている領域の一つが、「教育」です。
価値の高い経験を通じて顧客が満足し、しかもその経験が、何かを学び身につけることとつながっていたとしたら、それはすばらしいですよね。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「キッザニア、来夏に関西へ」(日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070622/128121/
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昨年10月に東京・豊洲に開業した子供向け社会体験型テーマパーク「キッザニア東京」が来年夏、関西に2カ所目の施設を開くことが日経ビジネスの取材で明らかになった。候補地は大阪市内と兵庫県側の阪神地区の2カ所に絞って最終調整に入っており、7月初めまでに正式決定する見通しだ。
キッザニアはショッピングセンターなどに入居する屋内型の施設で、東京では約6000m2の敷地に子供の身長に合わせて3分の2に縮めた町を作り、約50のパビリオンを並べている。各パビリオンは、ファストフード店や病院、宅配業者の集配センターなどを模しており、子供たちは施設内で使える通貨を用いて、実際の社会にある約70種類の仕事を疑似体験することができる。
こうしたユニークな内容が子供のみならず学校関係者などにも評価され、開業から今年3月末までに地方からの修学旅行生や親子連れなどで約34万人を集めた。今年の夏休みについては、インターネットを通じた先行予約が既に完売となっているほどの人気ぶりだ。
(略)最終的な出店先は日本側が決定するものの、ロペスCEOは「日本は子供の教育への投資を惜しまない家庭が多い。大阪近郊ではそうした家庭がより多い地域が次の出展先としては魅力的」と見ている。この点からは、芦屋市などの高級住宅地を後背地に抱える兵庫県側が、メキシコ側からの評価が高いこともうなずける。2カ所目も東京とほぼ同じ面積で、新たにスポンサーを募ってパビリオンを用意する。ある程度は地元系の企業を巻き込むことで、地域の独自性を出す考えだ。
日本では2015年頃までに、この2カ所目に次いで名古屋、横浜、関西、福岡にも順次、新施設を開いていく。最終的には稼働している東京・豊洲と合わせて全国で6カ所の施設を展開していく計画だ。
(上記記事より)
既にお子様を連れて行かれたことがある方もいらっしゃることでしょう。東京にある「キッザニア東京」は、「エディテイメント」をコンセプトにした、日本初のテーマパークです。
■こどもが主役のこどもの街。キッザニア東京オフィシャルサイト
http://www.kidzania.jp/
エデュテイメントとは、「エデュケーション(学び)」+「エンタテイメント(楽しさ)」を合わせた造語。
以前から提唱されてきた概念ではありましたが、この「キッザニア」の登場で、一気に具体的なイメージが拡がったように思います。
「実際の仕事を体験する」「人のために働く」という体験・経験を、「楽しいこと」として提供する、逆転の発想。
こうしたエディテイメントの発想は、まさに経験経済の考え方に基づくものです。
上記の記事によると「キッザニア東京」は、今年の夏休みはインターネットを通じた先行予約が既に完売となっているほどの人気だとか。
エデュテイメントというコンセプトが、日本で受け入れられるのだということを実証しました。
「キッザニア」はもともとメキシコの企業で、現在、メキシコシティーとモンテレーにあります。
キッザニアのグローバルサイトによれば、今後、ジャカルタ、ドバイなどのアジアの諸都市の他、ポルトガルにも進出することが決定されているようです。
冒頭の記事によれば、日本では関西の二号店に次いで、名古屋、横浜、関西、福岡などでもキッザニアを展開する予定だとのことですから、日本は、アジアでも特に大きな市場になると考えられているのでしょう。
学びというのは、忍耐や苦痛を伴うものだと一般には考えられています。
というより我が国では、「勉強すること」=「忍耐力や集中力をつけること」だと考える傾向があるように思います。
かつては、難関大学に入学した学生は、例えその後の四年間遊びほうけていたとしても、就職活動では大いに評価されました。
その際に、
「有名大学の学生は、受験勉強で目的に向かって我慢しながら努力することや、忍耐することを身につけたはずだ。だから評価する」
……というロジックが、しばしば使われていたようです。
大学に入ってから学んだ内容よりも、受験勉強によって身についた(はずの)忍耐力や集中力を評価するというのは、日本的だなぁと思います。
「学習=我慢・忍耐を知ること」という考え方がわかるエピソードです。
こうした考え方は、事実を言い当てている部分もありますし、否定できません。
忍耐力や集中力を身につけるのも、勉強の大切な役割です。
ただ個人的には、「学びって、それだけかなぁ?」という疑問も感じます。
より難易度の高い大学に入学することが良しとされ、大学での学びの内容の違いは軽視される我が国の受験指導の「常識」も、こういった発想に端を発しているような気がしてなりません。
こういった発想は、行きすぎると良くないのではないか、という気がしてしまいます。
普段そんなことを思っているマイスターにとって、「エデュテイメント」という発想で人気を博しているキッザニアの快挙はなんだか痛快で、興味深いのです。
そうだよなぁ、楽しく何かを学んだっていいんだよなぁ、と思えるのです。
もちろんエディテイメントも万能ではありませんし、何にでも活用できるというわけではないでしょう。ただ、現代日本の教育を支え補完する、重要な要素の一つにはなるような気がするのです。
目標や環境をうまく設定することによって、学びそれ自体が前向きのエネルギーを帯びることもあるんじゃないかとマイスターは思います。
「楽しく学べる」ということに、私達はもっと価値を見出していいのではないでしょうか。
それに、学びが楽しい「体験・経験」とつながることで、大きな成果を発揮するということもあるのではないかと思います。
楽しさというのは、色々です。
小さな子供なら、キッザニアのような楽しさのあり方が効果的かもしれません。
実際に経験した仕事は、深い印象となって体に残るでしょう。
大学生なら、インターンやボランティアとしてプロジェクトを立ち上げ、実社会に関わっていくことに楽しさを覚えるかも知れません。
そういった経験に「楽しさ」をもって参画した学生は熱心に活動しますし、生き生きとプロジェクトのことを語ります。
また鳥人間コンテストやロボコンなど、ものづくりの挑戦に取り組んでいる学生は、ものすごく楽しそうです。彼等は楽しさの中、授業で学んだ知識や技術をそこで活用し、自分のものとしているようです。嫌々やっていたら、あそこまで熱心に打ち込めるでしょうか。
既に職に就いている方だって、楽しく学んで良いと思います。
事実、携帯ゲーム機による大人向けの学習ソフトが売れているようです。
誰だって楽しく学びたいのです。
今後は大人向け、大学生向け、あるいは受験生向けの「エデュテイメント」が議論され、具体的なサービスとしてどんどん世の中に出てくるような予感がします。
(というより、ゲームソフト売り場を見てみると、既にそうなっているような気がします。山川出版の教科書が、もうDSのソフトになっているようですし。)
もちろんそうした中には、本当に「ただ楽しいだけ」の、見せかけだけのエデュテイメントもあるでしょう。
何がエディテイメントとして良質かを見抜き、評価するということが、今後は新たな課題になってくるかと思います。学校などで働いているプロの教育者の方々に、そうした役割が期待されると思われます。
良質なエデュテイメントを皆で創る社会というのは、なかなか素敵だと思うのですが、いかがでしょうか。
キッザニアの関西進出を報じる記事を見ながら、そんなことを考えたマイスターでした。