日本の合計特殊出生率は下がる一方です。
合計特殊出生率、という言葉を聞いたことがない人は、教育産業の人間にはいないと思いますが、いちおう、厚生労働省による説明を紹介しておきますね。
・「用語の解説」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo-4/syussyo6.html
簡単に言えば、「一人の女性が一生のうちに、何人の子供を産むか」を表す数字です。
一人ずつの男女がペアになって、子供をつくるのだとしたら、
ひとりの女性が最低二人は産まないと人口が減っていく、というのはすぐわかります。
実際には、現在の人口を維持するには事故や病気で亡くなる方などの分も考慮して、この合計特殊出生率が2.08以上でなければならない、なんて話を聞いたことがあります。
いま現在の日本の合計特殊出生率は、だいたい↓こんな感じです。
・「合計特殊出生率の推移(日本および諸外国)」(社会実情データ図録)
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/1550.html
こうした数字を見るたび、教育関係者は戦々恐々としているわけです。
「あぁ、私達の市場が衰退していく」と。
今日は、以前からずっとご紹介しようと思いながら、なかなかブログで取り上げられずにいた本をご紹介します。

この本のテーマは、そう、「少子化」です。
何しろこの3文字のせいで、我々教育産業に従事する者は日々、眠れぬ日々を過ごしているわけですね。(やや誇張表現あり)
この本は、一般の方々が少子化を広く知るのにいい資料です。
さすが日経の本らしく、データが豊富です。
少子化を理解するには、
「いち生活者のみなさまの率直な声を拾い集める作業」と、
「経済成長率への影響といった、マクロなデータを分析する作業」の、
両方が大事なんだと思いますが、この本では、そうした視点が両方、取り上げられています。
また様々な立場の方の、様々な意見が掲載されているという意味でも、少子化問題の入門書に最適です。
ところでたまに、「少子高齢化」という言葉が使われること、ありますね。
気を付けなければならないのですが、「少子化」と「高齢化」は、違う現象です。
子供が減ることと、人口に占める高齢者の比率が高まることは、その原因も、社会へ与える影響も、色々と違います。
ただ、少子化と高齢化が同時に進行することで、社会全体のバランスが悪くなるので、両方併せて「少子高齢化問題」と表現されることがあるのですね。
ただ、この二つをいっしょくたに考えると、問題の構造が見えにくくなるので、マイスターも意識して切り分けるよう、気を付けてます。
さて、そんなわけで少子化。
これについては、日本国民のそれぞれが、自説を持っていると思いますので、あまり「これが正しい」とか、「これがおかしい」ということは申し上げません。
現在のところ、マイスターの個人的な考えは、↓こんな感じです。
○子供を増やしたくないと思わせる社会は、何かおかしい。こうした事態を解決するための何らかの対策は、必要である。
○しかし、合計特殊出生率を上げて人口を増やし、かつての状態に戻るというのは、現実的に、ちと無理がある。
少子化対策、つまり人口を上げる対策を、まったくしないというのはいけませんが、
かといって「少子は回復する」という前提で、昔ながらの政策を実行し続けるのも、もはやおかしい、
そんな風に考えています。いかがでしょうか。
「現在の政策が成立しなくなるから、少子を回復しなければならない」
という論理は、現実的にもう無理があるんじゃないでしょうかね。
少子化対策は立てつつも、「人口が減った後の社会」に合わせた政策にシフトしていかなければならない、というように思います。
こういう言い方で申し上げると、かなりの人が
「うん、その通りだよね」
と言ってくれるのですが、その割には世の中、シフトする気配がありません。
なんだかみんな、少子化について、見て見ぬふりをしているように思います。
教育業界では、特にそれが顕著です。
(こういう姿勢が、先送り体質とか、マネジメント不在とか言われてしまうゆえんなのですが)
マイスターの勤め先も、少子化に足並みをそろえて、入学希望者は年々減少しています。
でも、
「数年後には入学者が半分になるから、そのときに大学を維持運営できるような体制を今から考えよう」
といった話は聞きません。
非営利組織のマネジメントとしては、こうした発想もアリだと思うのですが、業界中見渡しても、そんな学校はありません。
どこの大学も、なんとな~く受験者を増やせるようにがんばろう、みたいな目標だけを空転させているように見受けられます。
たとえば夜間部の社会人受験生をメインに据える、とか、
科目履修生相手の商売で食っていく大学になる、とか、
そうした対策を、本気で打ち出してシフトしていこうとしている大学は見かけません。
(かけ声としてだけなら、いくつもの大学が試みていますが…)
マイスターは個人的は、若者が学べるのと同じくらい、
社会人が好きなときに大学を訪れて学べる社会が理想だと考えていますが、
大学人のみなさんは、あまり本気でそうは考えていないようです。
マイスターにはその結果、
・少子で学生が集まらず、このままではジリ貧
→・学部学科を増設し、教職員を増員して学生をもっと集めようとする
・学費を抑えて、学生の数を集めようとする
→・どこの大学も同じような対策を実行するので、
全体としてはかえって供給過剰になり、利益構造が悪化
という、経済学の教科書で取り上げられそうな状況が進行しているように思えます。
基本的にマイスターは、市場競争主義の人間ですから、
「他の競合組織がダメでも、自分のとこは生き残るような行動をとりゃいいだろ!」
という過激な発想をよりどころにして生きていますが、それは経営者の視点で見たらの話です。
世の中すべてを相手にすれば、大学が生き残る方法はいくらでもありそうですが、
相変わらず18歳だけを相手に商売していては、少子化の進行には対抗できません。
少子化の進行に合わせて、組織が存続し続けられるような体制にシフトしていくことも必要だと思います
それで生き残れれば、それは戦略的なマネジメントです。
むやみやたらに、
「少子化に負けるな!」
「もっと受験生を集めろ! 死ぬ気で高校を訪問しろ!」
とか言っているだけの経営陣がいる大学は、要注意だと思います。
「世界がもし100人の村だったら」という本が以前ベストセラーになりましたね。
それにならって、現在の日本の少子化の進行状況を表すと、こんな感じになります。
今の日本を人口100人の島にたとえると
高齢者は19人、
子供は14人。
最も厳しい政府推計によると
2050年には人口は72人に減る中、
高齢者は28人に増え、
子供は6人と半分以下になる。
以上、今回ご紹介した『少子に挑む 「脱・人口減少」への最後の選択』からです。
ね、こりゃ、現状維持はどう考えても不可能ですって。
それなら、少ない人口の中で質の高い教育サービスを安定的に供給する方法を考える方が、はるかに生産的な作業です。
利益の最大化を目的とする営利企業なら、こんな戦略は容認されないでしょうが、
非営利組織のマネジメントでは、有効です。
「非営利機関は、人と社会の変革を目的としている」と、かのピーター・ドラッカーも著書「非営利組織の経営―原理と実践」で述べています。
人口が減った後の日本を先導する組織になる、
これもひとつのミッションではないかと思いますが、いかがでしょうか。
5年後のことを考えるなら、入学者を増やすことだけ考えていればいいでしょうが、
15年後のことを考えるなら、こうしたミッションも設定しておいた方がいいように思います。
15年後の体制作りのため、今から準備しておくべきこともあるはずですからね。
とはいえ、もちろん子供が増えるならそれに超したことはありませんが…。
以上、自分なりに日本の将来イメージを思い浮かべるマイスターでした。