マイスターです。
そろそろ皆様、入試も本格化している頃でしょう。
そうなってくると肌で感じるのが、
「入試日程のバッティング」
でありましょう。
ライバルのあの大学とバッティングしてドキドキ。
自分達の受験生を吸収しようとしているのが明らかな人気校とバッティングしてヒヤヒヤ。
いつの間にか偏差値を上げていた意外な大学が意図的に日程をバッティングさせてきてビックリ。
あぁ、3月まで続くこの緊張感。
なにしろ試験日の設定を間違えると、それだけで受験者数大幅ダウンは免れません。
あの大学になら日程をぶつけても勝てる……あの大学とはかち合いたくない……
そんな生々しい「戦術」の成果が今、あちこちで「結果」として表れています。
(「戦略」ではなく「戦術」というところがミソです。この軍師同士の戦術争いがあまりに激しいためか、長く入試課にいると、戦略の重要性を忘れて戦術だけに走ってしまったり、受験生が減った理由を受験日設定や隔年現象だけのせいにしてしまうという症状が出るとか出ないとか)
さらに最近では「サテライト入試」が普及し試験会場が全国にデリバリーされる時代になったため、競争の要素が一つ増えました。
いそいそとサテライト入試会場である予備校に行ってみると、なんと隣の教室はライバル校の試験会場!
……なんて場面に出くわした大学関係者は多いはず。
日程戦術に加え、今や試験場所の設定においても「あそこの大学は○○市ではやってない」「あの地域は競合がないからねらい目」といった戦術が競われることに。
そこはまごうことなきガチンコ勝負の場。
全国の入試課さんたちが知謀策謀を巡らす、受験会場という名の戦場です。
そんなわけで、↓こんなニュースをご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「薬学部 空白県で学生争奪」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070129ik08.htm
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私立の薬科大や薬学部が2007年度入試で、薬科大、薬学部のない県に試験会場を設ける動きが広がっている。薬剤師への人気の高まりから急増した学部数、総定員に対し、少子化に加えて薬学部の6年制移行で志望者の頭打ちが見えてきたからだ。「学生を掘り起こせ」と“薬学空白県”を舞台に綱引きを繰り広げる。
つくばエクスプレス(TX)が05年8月に開通し、首都圏とのアクセスがよくなった茨城県。今月24、25日、日本薬科大(埼玉県伊奈町)は水戸市に初めて、入試会場を設けた。
(略)水戸市ではほかに、国際医療福祉大(栃木県大田原市)、横浜薬科大(横浜市戸塚区)、新潟薬科大薬学部(新潟市)が新たに試験会場を設けた。新潟薬科大は「5人でも、6人でも受験生がいれば出向く。攻めの姿勢で臨む」とする。日本私立薬科大学協会などによると、国公立も含めて薬科大、薬学部がないのは、茨城のほか、秋田、和歌山など17県。
東北薬科大(仙台市)は1949年の開学以来初めて、秋田県に試験会場を設ける。秋田県内で働く薬剤師の3割以上を輩出してきたが、背景には東北地方に今年4月、いわき明星大(福島県いわき市)、岩手医大(盛岡市、矢巾町)が薬学部を新設する動きがある。
秋田には新潟薬科大が10年以上前から、青森大薬学部(青森市)が04年度から試験会場を設け、今回、岩手医大も“参戦”する。
大阪大谷大(大阪府富田林市)などが乗り込むのは和歌山県。学部開設から35年にして進出する神戸学院大(神戸市)は、「競争が激しくなっているのは確か。一人でも多くの学生に受験してほしい」と必死だ。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)
「薬学空白県」という言葉は、なるほどなぁと興味深いです。
単なるバッティングどうのこうのではなく、需要供給の状況を調べた上で、いかに自校のサービスを売り出すかという競争ですから、これは「戦術」を超えて「戦略」と呼べるレベルですよね。れっきとしたマーケティング戦略です。
生き残りをかけた競争がない限り、マーケティングというのは発達しません。
市場環境が変わり、それまでのやり方ではやっていけない事態になって初めて、合理的な改革や改善が進むというものです。
経営が安定していると、市場ではなく、組織内部の事情に目を向けがちになる……どんな産業でもどんな国でも、基本的にそこは同じです。
記事にもあるように、薬学部は一時期の人気ぶりから一転、6年制への移行に伴い受験生を集めあぐねているようです。そこで、まず市場を分析し、できることからどんどんやっていこうという動きが活発になっているのかなと思います。
この「○○学空白県」という見方は、他の学部学科でも応用できそうです。
教育学部や医学部のように、「全国各地に養成機関をつくる」ことが国策で進められた学部もありますが、学問領域によっては、空白地帯がまだまだ残る学部もあるはず。
自校の学部構成を元に、全国を精査してみると良いかもしれません。
「あれ、○○県って、まだウチみたいな大学がないぞ!?」
なんて気づくことがあるかも知れません。
例えば沖縄県なんて、理系学部のほとんどが琉球大学にしかありません。私立で理系に進学するとなったらどうしても県外に出なければならないわけで、それなら遠くの大学でもサテライト会場を設けて学生を呼び込むチャンスがあるんじゃないかと思えます。
また、「○○空白路線」という調査方法も重要ですね。キャンパスに通えるか通えないかという場合、都道府県という行政区分より、こちらの方がリアルです。
このように調べ方一つで、実は重要な市場があったことに気づくかも知れません。
やはり市場調査は大事です。薬学部関係者もそうでない方も、試しにまず手つかずの市場を探してみてはいかがでしょうか。
今回ご紹介した薬学部の報道を読んで、日本の大学にもこうやって少しずつマーケティングが普及していくのかな、なんて思ったマイスターでした。