「4大学講義 単位に 京都府教委 高校ネット配信授業で」

各大学がネットで配信している授業映像をたまに見るマイスターです。

マイスター、画面表示のない「iPod shuffle」しか持ってないので、残念ながら東大講義のPodcastingはまだ試せていません。すべて、PC上での閲覧です。移動中に見られないのは残念ですが、それでも、様々な大学の授業を見られるのは便利です。
いい時代になったもんだ。

さて、今日はこのような報道をご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「4大学講義 単位に 京都府教委 高校ネット配信授業で」()
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2006060500273&genre=F1&area=K00
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京都府教委は5日、京都大や同志社大など大学教員の講義をインターネットで府立高に配信する高大連携事業を充実させ、配信を受けた授業について各高が単位認定できるようにする、と発表した。本年度は「21世紀の科学」をテーマに、4大学の計16講座を配信し、ネットを通した双方向授業も取り入れる。
(略)
京都大、京都府立大、同志社大、立命館大の4大学が統一のテーマ「21世紀の科学」に沿って4講座ずつを担当。府立高は、ビデオに収録された全16講座をネットを通して受信する。全16講座を受けた生徒には、各高の判断で高校の独自科目の単位を与えられるようにする。
(上記記事より)

というわけで、
府立校の高校生が、インターネットで大学の講義を受講できるようにするという試みです。

高校生にとっては、入学前に、大学教員の授業を体験することができます。
学習意欲を高めるのに一役買いそうですし、進路選択のキッカケになるかも知れません。

また、「21世紀の科学」がテーマの講義ということですから、高校教員にとっても、最近の研究成果に触れる良い機会になるでしょう。
それに、普段の高校の授業内では、なかなか最新の科学トピックについて解説をする時間がとれないかもしれませんが、そうした点を補う副教材として、こうした大学の講義を使うこともできそうです。

例えば物理の講義なら、

「こないだの府立大の講義で、原子核に関する内容があったよね。その原子核の基本的な構成を、今から解説します。なお、再来週、関連する内容が立命館から配信されるから、興味がある者はそちらも受講しておくといいぞ」

…みたいに使うとか。
高校の授業内容と大学の講義の内容の両方を、つなげてくれるコンテンツにできるんじゃないでしょうか。

ところで、普段から大学の広報について考えているマイスターですが、
大学という「商品」を認識する上で、最も基本的な前提条件があります。

それは、

大学のサービスの価値というのは、購入する前(入学する前)には、ほとんどわからない

ということです。

「その大学がどのようなレベルの授業を行っているか、ということは、入学して、はじめてわかる」ということなんです。

クルマやパソコンを買う時は、買う前から、「大体こんなスペックの製品」ということがわかっていますよね。ですから、買った後、「期待はずれだった」ということはあまり起きません。
住宅を買うときもそうです。設計時点で、図面や模型が存在していますし、ハウスメーカーならモデルルームがあります。ですから、購入後に「こんなはずじゃなかった!」と思うことは、そんなに起きません。(欠陥住宅、つまり、設計通りのスペックを製品が発揮していなかった場合は別です)

しかし、大学という商品では、ちょっと事情が違います。
入学するまで、大学の様子はわかりません。

え?
オープンキャンパスで、受験生には様子を伝えている?
webサイトやパンフレットでも、学生のありのままの姿を紹介して、大学の雰囲気を伝えるようにしている?

それは確かに重要ですよね。

ただ、オープンキャンパスで伝えられるのは、「大学キャンパスの雰囲気」です。
授業の質や教員の質を伝えることは、ほとんどできません。
公開授業を用意しているところもありますよね。もちろんやらないよりはやった方がいいのですが、しかし一回こっきりの体験コースでは、なかなか高校生には、その大学の実力はわからないと思います。
(エクステンション講座は、地域住民のためにカスタマイズされた講義ですから、普段の講義の内容とはまた異なりますし……)

どんな構成の教員がいて、それぞれがどのようなレベルの講義を行っているか、ということは、入学しなければ基本的にはわからないのです。

webサイトやパンフレットでも同じです。
カリキュラム表は掲載されているし、教員の名前も一応わかります。入学者の基礎データもや就職先情報なども、基本的な数字は載っているでしょう。どんなサークルがあるかも、写真付きで紹介されているかもしれません。

でも、何百万円も取って大学が売っている価値、その中心は、講義や演習によって構成される「授業」の部分に他なりません。
大学の雰囲気や、就職率は、確かに重要ではありますが、副次的なものです。

現在のところ入学希望者には、授業の価値はほとんど伝えられてないと思います。
でも本当は、入学者がもっとも興味を持っているのは、「どんな授業を受けられるか」であるはずです。だって、この部分に大金を支払うわけですからね。

大学というのは、レストランの食事と同じで、「食べてみるまでわからない」類の商品です。
もっとも、高級レストランならある程度、味の保証がされていると思うのですが、大学ではそうでもありません。クルマ以上に高価な「商品」であるにも関わらず、ひどいサービスしかしていない大学だって、たくさんあるでしょう。

仕方がないので、受験生の側は、その大学に通う先輩から評判を聞いたり、各メディアを元に、大学の認知度を測ったりして、なんとか大学の教育力を推測しているというのが、現状ではないでしょうか。

購入してもらうまで、買おうとしている商品の価値がわからない。
大学受験では、当然と思われていることですが、こうして改めて考えてみると、何だかとんでもないことのような気もしませんか?
(でも私達は、そういう商品を売っているわけで、学生さん達は、こうした買い物をして、大学に入学してきているのです)

こうした商品としての大学の特質については、ある程度は仕方がない部分もあります。しかし、広報のやり方次第で、少しでもその情報不足を埋めていくことはできます。
(「体験しないとわからない価値」を伝えるための広報活動というのは、企業も日々、試行錯誤しながら取り組んでおりますので、実は様々な手法があるのです)

また、高大連携の取り組みによって、講義の情報をあらかじめ高校生達に伝えていくことも、できるはずです。

今回の京都の取り組みは、

○一続きの講義を最後まで受講し、「単位を得る」ところまで経験できる(おそらく、期末試験やレポート提出なども行われると思います)

○複数大学の講義を比較することができる

…という点で、マイスターが普段から感じていた、「受験生に講義の価値を伝えられない」という問題をカバーしうるものだと思います。

ですからぜひ、全国で、このような取り組みを参考にしていただきたいなと思います。

高校生の学習意欲を高めるのはもちろんですが、大学にとっても、これは大いに可能性のある取り組みだと思います。

講義の質には自信があるのに少子化で志願者が激減中、なんて大学にとっては、起死回生の一手になるかも知れませんよ。

と、そんなことを考えた、マイスターでした。

1 個のコメント

  • 某大学に勤めておりますものです。興味深く大学の価値について学ばしていただきました。ハーバード大学では、約6割の昨年度の講義を配信してるようなことを聞きました。(事実であるか知っていれば、教えてください)
    このように大学はこれから、OCWなど大学が顧客である学生にそれぞれの大学の価値を提供できると思われます。
    大学の存在価値を高めていきたいと思います。