「大学や企業、都心に回帰・06年版首都圏白書」

3月まで東京都港区に住んでいたけど、今は神奈川県民のマイスターです。

今日は、資料をひとつご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「大学や企業、都心に回帰・06年版首都圏白書」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060530AT3B2900X30052006.html

★「平成17年度 首都圏整備に関する年次報告(平成18年版首都圏白書)」(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/syutoken_hakusyo/h18/h18syutoken_.html
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政府は30日の閣議で、1都7県を対象にした2006年版首都圏白書を決定した。白書では住民のほか、企業、大学の都心回帰を報告。
(略)
05年度の大学の数は東京都が前年度比3.4%増の123となり、東京圏全体(202)の2.5%増を上回った。少子化が進む中、利便性の高い校舎の立地を売り物に学生を確保する大学側の狙いに加え、都心の地価下落や立地規制の緩和などをあげている。
東京都心3区(千代田、中央、港)の最近5年間(2000―05年)の人口増加率は、21.5%に達し、首都圏全体(2.5%増)でも突出している。
(上記記事より)

…と、都心部での大学数増加が目立っているようです。

大学関係者なら、こうした現象が起きていることはなんとなくご存じでしょう。
その要因として「社会人向け大学院」の増加が背景にあるということも、多くの方は知っておられるのではないかと思います。

ご存じでない方のためにご紹介しておきますと、かつては「工場等制限法」という法律で、首都圏および近畿圏では、大学等の教室の新設・増設が制限されていたのです。

「首都圏の既成市街地における工業等の制限に関する法律」および「近畿圏の既成都市区域における工場等の制限に関する法律」のことを指しています。ともに、既成市街地への産業及び人口の過度の集中を防止し、都市環境の整備及び改善を図る、という目的でつくられた法律です。

「都市部に人口が集中しすぎているから、人口を増やす原因である大学はもう作るな」

ということですね。「首都圏の…」の方は、1960年(昭和34年)に、「近畿圏の…」はその5年後に作られました。まさに、高度経済成長期の出来事でした。

この法律があるため、長い間、大学は都心部に学部を増設することができなかったのです(大学院は除く)。都心にあった歴史ある大学が、こぞって郊外に移転していった背景には、この法律があるわけです。大学の規模を拡大していこうと思ったら、郊外に出るしかありませんからね。
(もちろん、都心部の地価の上昇なども大きな要因だったと思います)

しかし、状況は違ってきました。

大学で言えば、18歳人口の減少で、悠長なことは言ってられなくなりました。社会人学生への対応や、産学連携などを進めていく必要も生まれてきましたし、「都心の魅力あるキャンパス」というポイントで学生を集めなければならなくなりました。

一方都市の側も、バブル崩壊後は企業が本社を都心から移転させるなどの動きが相次ぎ、空洞化が問題視されるようになりました。都市の競争力が落ちてきたのですね。
(だから昨今、品川や汐留、六本木などをはじめとした大規模開発をやって、また人を都心に呼び込もうとしているのです)

そんな時代の変化もあり、2002年(平成14年)に、この工場等制限法は廃止されたのです。大学が今、「都心回帰」を起こしている背景には、こんな法律の影響もあるのでした。(以上、ご存じの方には、今さら申し上げることもない解説でした)

こうした動きを見ていく上で、今回ご紹介する「平成17年度 首都圏整備に関する年次報告(平成18年版首都圏白書)」は、けっこう使えそうです。

■「平成17年度 首都圏整備に関する年次報告(平成18年版 首都圏白書) 第1章第2節:産業及び大学の立地の動向(PDF)」(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/syutoken_hakusyo/h18/images/03.pdf

この最新版の首都圏白書では、大学の都心回帰について、以下のように分析しています。

東京圏と東京都の大学数や学生数の増減率を比較すると、これまで概ね東京都よりも東京圏の方が増加率が高い傾向にあったが、平成17年度は東京圏よりも東京都の増加率が高くなっている。
(略)
また、平成16年度より設置されている法科大学院や専門職大学院は、東京都に立地する割合が高くなっている。東京都に立地している法科大学院の対全国シェアは32%、専門職大学院の対全国シェアは50%となっている。
「平成17年度 首都圏整備に関する年次報告(平成18年版 首都圏白書) 第1章第2節:産業及び大学の立地の動向(PDF)」(国土交通省)より)

つまり、首都圏内でも特に「東京都内」で大学生が増えていること、その要因として専門職大学院の存在を指摘しています。

上記リンク先のPDFにある「図表1‐2‐3」は見やすいです。
これを見ると、大学院の設立が、大学を引っ張っているのがよくわかります。
また「図表1‐2‐4」は、都心にできた大学の位置をマップにプロットした図なのですが、冒頭でご紹介したNIKKEI NETの記事の通り、港区、中央区、千代田区周辺に集中しているのがよくわかります。

近年、東京圏の大学等は、郊外から都心への移転や都心における機能拡充の傾向が見られる(図表1‐2‐4、図表1‐2‐5)。大学等は、都心への立地や機能拡充を行うことにより、学部学生の確保を図るとともに、社会人学生の確保、産学官の連携推進といった新たな大学機能の付加を図っている。
大学等が都心への移転や機能拡充を行う要因として、18歳人口の減少により学生確保が困難になりつつあること、平成14年7月の工場等制限制度廃止による大学の立地に係る規制の緩和、地価下落と土地の流動化、公共交通の利便性などがあげられる。また、OB等との交流のしやすさ、外部人材の講師等としての活用のしやすさ、キャンパスの集約化によるコスト削減などもあげられる。
「平成17年度 首都圏整備に関する年次報告(平成18年版 首都圏白書) 第1章第2節:産業及び大学の立地の動向(PDF)」(国土交通省)より)

と、先ほど申し上げた工場等制限法に加え、

○18歳人口の減少により学生確保が困難になりつつあること
○平成14年7月の工場等制限制度廃止による大学の立地に係る規制の緩和
○地価下落と土地の流動化
○公共交通の利便性
○OB等との交流のしやすさ
○外部人材の講師等としての活用のしやすさ
○キャンパスの集約化によるコスト削減

などを挙げています。

というわけで、高度経済成長期には迷惑がられていた大学が、今や、都市に魅力を与えるための切り札みたいになっているのですね。

日本が大きく経済的に成長した時代、大学は、社会人達のそばになかったんだよなぁと、つくづく思います。でも、これからは、「日本が奇跡の復活を遂げられた背景には、人々が大学や大学院に通いやすくなったことがある」なんて言われるようになるといいなぁ、と思います。

以上、今日は資料をご紹介した、マイスターでした。