大学の財務強化 後に大きな差を生む?

マイスターです。

最近、お金の話ばっかりですみません。
この一年くらい、学費やら研究費やら寄付金やらのニュースをよく見かけている気がします。
2007年は、大学の「財務改革元年」だったのかも知れません。

思うに、財務の状況を積極的に変えようとしている大学というのは、この先、教育や研究などの主要事業において、何か大きなことをやってやろうと密かに計画しているんじゃないでしょうか。
他の大学に先駆けて改革を進めている場合は、特にそうです。

そんなわけで、今日もそんな、お金に関する興味深い事例を2つほどご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「東大に財界が基金 トヨタなど15社、120億円」(Asahi.com)

東京大学の国際競争力を高めるため、三菱東京UFJ銀行やトヨタ自動車など大手15社が計120億円の基金をつくり、運用益の一部を毎年、大学側に寄付することになった。東大の首脳が23日、計画を明らかにした。東大は、優秀な留学生を招くための奨学金などに寄付を生かす考えだ。国の十分な財政支援を期待できないため、経済界から広く支えてもらう態勢をとる。
協力するのは両社のほか、電機や化学、電力など各業界の有力企業。各社が5億~15億円を出しあい、三菱UFJ信託銀行に運用を委託、今月下旬にもスタートする予定。
目標利回りは年3.5%程度。比較的安全な国内債券を中心に運用し、各社が得た収益の一部を毎年、東大に寄付する。運用不調のときは、各社が損失のリスクを負うものの、好調のときには企業側にも収益が入る仕組みだ。目標通りの利回りなら毎年、2億5000万円ほどが東大の寄付収入になるようにする。
欧米や豪州の有力大学は、寄付や国の支援による潤沢な資金をテコにアジアの有望な学生招致に乗り出しており、東大は危機感を募らせていた。小宮山宏総長ら首脳陣が各社を回り、支援を要請。企業側にとっては社会貢献にもつながることから、基金が実現した。
東大はすでに基金の2次募集を始めているほか、運用方法の違う基金を別途募ったり、一般の人からも資金を信託、運用、寄付してもらう仕組みを検討したりしている。こうした様々な基金を集め、東大としての運用総額を08年度中に500億円、10年以内に2000億円にまで拡充したい考えだ。
(上記記事より)

まず一本目の話題です。

東大は、130周年事業の一環として、「東京大学基金」のための寄付金募集を進めています。
2007年度までに130億円を集めることを目標にしていたと思いましたが、上記の記事によれば、既に2次募集を始めているとのこと。
で、その上、上記の記事にあるように、新たに120億円の基金を設立するとのことです。

協力企業の面々といい、120億という額といい、他大学に先行する取り組みであるように思います。
思わず、「さすが東大」と、つぶやく大学関係者は多そうです。

120億円という今回の新しい基金の規模もさることながら、08年度中に500億円、10年以内に2,000億円という今後の目標値も、興味深いです。
これまで、2~3年間で130億、くらいのペースで目標を立てていたことを考えると、一気に飛躍した感があります。他大学の寄付金担当者に、「ゲッ」と言わせるくらいのインパクトはあります。

寄付金を集めるノウハウがたまり、また寄付を今後も安定的に確保できるという目算も立ってきたのでしょうか。
今回120億円を拠出した「大手15社」は、新しい基金のスポンサーとして組み込まれた関係上、今後も毎年、一定の寄付をすることになっているのかもしれません。

(今から、他大学がこの15社に「うちにも寄付を」と言ってみても、「弊社は、もう東大に寄付をするだけで大変だから、申し訳ないが協力は難しい」なんて言われてしまいそうな気も……)

最初に挙げた目標の額になかなか到達できないでいる大学がある中、攻めの姿勢で次々とプランを発表し、それを行動に移している東京大学。
ここ数年、大学業界では、「大胆な改革策を最初に打ち出してくるのは、実は東大」という評価が広まりつつあるように思いますが、今回もそんな印象を受けます。

■東京大学基金

↑上記は、東京大学基金のサイトです。
マイスターはいつもこのサイトに感心させられているので、ついでにちょっとだけご紹介を。

ここ数年、東大や東北大を始めいくつかの大学が、立て続けに基金を設置しました。で、各校とも「目標:○○億円」といった数値を掲げ、寄付金集めに励んでいます。
マイスターも、その辺りの様子を知るために、いくつかの大学のwebサイトをたまに見て回るのですが、東大のコンテンツが、最も良くできています。

愛校心をくすぐってみたり、日本における東大の必要性を訴えてみたり、税制上のメリットを丁寧に説明したり。「寄付した方がいい理由」を、様々な面から伝えようとしているのです。
寄付者のインタビューを掲載したり、寄付者向けのイベントを開催し、そのレポートをwebに掲載したりと、余念がありません。

■「寄附実績データ」(東京大学基金)

↑こんなページも、他の大学では見かけません。
「案外、身近な人達も寄付しているのだな」、と思わせられそう。
なかなかうまいですよね。

■「総長ごあいさつ」(東京大学基金)

↑この挨拶も、率直でわかりやすく、好感が持てます。

このように、サイト全体のコンテンツ構成が工夫されており、情報量も豊富。
サイト一つとっても、他の大学と比べて、とても丁寧に作りこんであるという印象をマイスターは受けるのです。

現在までのところ東大は、とても順調なペースで寄付金を集めているように思われます。
こうした実績は、「東大」という、これまで形作られてきたブランドによるところも小さくないでしょう。

しかし、過去のブランド資産だけで、こういったお金を獲得しているわけでもないようにも思われます。

例えば、他の大学の首脳陣は、ちゃんと企業まわりをしているでしょうか。
寄付金のサイトを、ちゃんと丁寧に運営しているでしょうか。
130億円、120億円というのは、過去の栄光だけではなく、こういった細かな工夫もそろって、初めて集まる金額なんじゃないかと思います。

この攻めの姿勢は、他大学にとっても、見習うべき部分があるように思います。

さて、本日二本目の話題です。
こちらも、東大に関するニュース。

上でご紹介したニュースとほぼ同じタイミングで、以下のような記事が報じられました。

■「東大、院生2000人に年30万円の研究支援」(読売オンライン)

東京大学は、博士課程に在籍する大学院生への経済支援策を発表した。
研究遂行協力費として、年30万円を2000人に支給することが柱。授業料(年52万800円)の半額免除も1000人に拡大する。新年度から実施する。
従来の制度と合わせ、約6000人いる在籍者の9割が授業料の半額程度の支援を受けられるようになる。大学独自の経済支援策としては、国内最大規模という。
新施策に必要な年8億4000万円の費用は、積み立てた寄付金の運用益や経営の効率化などでまかなう。
(上記記事より)

東京大学が博士課程の学生への支援策を固めたという報道です。

■「大学院生に対する経済支援 各大学が競う」(2008年01月24日)

↑以前の記事で、「東大が大学院の学費を実質的にタダにする」とご紹介しましたが、どうやらその計画が、上記のように縮小された模様です。

その理由を、記事では、

東大は当初、年間授業料を実質無料化する大規模な経済支援も検討していたが、財源確保が難しいうえに、他大学も参考にできる内容にしたいとの配慮から、今回の支援策を決めた。
(冒頭記事より)

……と書いていますが、実際のところはどうかわかりません。
財政的に難しくなったのかも知れませんし、外部から批判が寄せられたりしたのかも知れません。

ただそれでも、現時点の日本国内では、十分に充実した水準の内容だと思います。

東大のwebサイトには、今回の支援策が、以下のようにまとめられています。

Ⅰ.経済的に困窮する院生の修学を支援し、教育の機会均等を実現するために、困窮度の高い院生が経済的理由により研究を断念することのないように、授業料半額免除者の500名程度の増を図る。
(授業料免除制度:http://www.u-tokyo.ac.jp/stu02/h01_02_03j.html
Ⅱ.優秀な私費外国人留学生に対し、本学での学術研究への取組みを支援するとともに諸外国からの留学生の受入促進に資するために、外国人留学生特別奨学制度(東大フェローシップ)対象者を60名増員する。
(外国人留学生特別奨学制度:http://www.u-tokyo.ac.jp/stu02/i04_03_j.html
Ⅲ.優秀な博士課程院生に対して学業を奨励し、東京大学全体の学術研究の質的レベルの向上を図るために必要な学術研究業務を委嘱する「東京大学博士課程研究遂行協力制度」を新設して、優秀な博士課程院生が行う学術研究活動に対し、その対価として年間30万円を支給するもので、対象者は2,000名とします。
ただし、国費留学生及び日本学術振興会特別研究員は、当面の間、対象になりません。
(新たな制度のため、募集期間等の詳細は4月以降にお知らせします。)

支援策のⅠ、Ⅱにつきましては従前からの制度の拡充を図ったもので、Ⅲについては、新しく制度を創設したものです。これらの制度を活用することで、支援を必要としている大半の博士課程院生へ少なくとも授業料の半額程度の経済支援ができると考えています。
しかし、今回の支援策は、本来本学が目指す水準に比べれば十分とはいえない支援となっていることから、今後も財政状況等を見極め、一層積極的かつ継続的に博士課程院生への経済支援策の検討を進めていきます。
■「博士課程院生に対する経済支援策の拡充について」(東京大学)より)

東大フェローシップと名付けられた留学生支援の拡大も盛り込まれており、世界の大学に並ぶ支援を目指す方針であることが伝わってきます。

また、この内容はまだ不十分であり、財務状況を見極めながら、今後も積極的に経済支援策の検討を進めるとあります。

博士課程学生の経済支援策は2月22日付のニュースで公表。
一方、「企業からの基金」を東大首脳が明らかにしたのが、その翌日の2月23日ですから、タイミング的にはほぼ同時と言って良いでしょう。

学生への経済支援策を拡大・強化しながら、
その後ろでは、基盤となる財務体制の構築を進めている。

なんだか二つの記事を一緒に読むと、東大がじっくり、しかし着実に変わろうとしている様子が伝わってきませんか?
それも東大の場合、付け焼き刃的に華やかなアイディアをだすというレベルではなく、世界の強豪大学と競うための強靱な足腰を作る取り組みですから、いっそう本気度が読み取れます。

今回はたまたま東大の取り組みが報じられていたので、こちらをご紹介しましたが、他の大学もメディアが報じていないだけで、東大同様に足腰の強化を進めているのだろうと思います。

というかおそらく、強化している大学と、していない大学とに分かれているのでしょうね。

今はひっそりと各大学がこうした点を強化していて、これが数年後、大学組織の実力の差として現れてくるんだろうと思います。
そうなってからでは、いよいよ本当に、その差を覆すのは難しくなるのではないでしょうか。

……なんてことを、二つのニュースを読んで思った、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。