広報プロデューサーとして働いていたこともあり「大学のブランディング」についてよく考えます。
「○○大学」というブランドを、どのように構築し、どのように浸透させるか。
世間一般の人達に、どのようにブランドを伝えるか。
受験生やその保護者、高校の教員達に、どのように大学のブランドを知ってもらうか。
企業のリクルーターに大学名を覚えてもらうためには、どのような手段をとればいいか。
最初は、そういうことをメインに考えていたのですが、大学で働き始めて、すぐに気づきました。
まず誰よりも先にブランディングのターゲットとすべきは、
他でもない、自分達、大学の構成員達なのだということに。
世間一般でのイメージも、
受験生からの評判も、
産業界での評判も、
すべては、まず在学生や教職員、そしてOB達に対して、確固たるブランディングを行うところがスタートなのだとわかったのです。
一言で言うと、「母校への愛校心が勝利のカギだ」ってことです。
【教育関連ニュース】—————————————-
■「薄れる愛校心 講義に「自校教育」取り入れ鼓舞 ≪大学の歴史や校歌…早慶戦観戦必修まで≫」
http://www.sankei.co.jp/news/060521/sha004.htm
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愛校心を育てようと、自校の歴史を学ぶ「自校教育」を講義に取り入れる大学が相次いでいる。愛校心が発露される場でもある東京6大学野球の平均観客数(春季)は過去5年間で4割も減少しており、早稲田大では昨春から早慶戦の観戦を必修とする講義も登場した。自校教育増加の背景を探ると、学校だけではなく、共同体意識が欠落傾向にあるといわれる現代の学生気質も浮かび上がってくる。
(略)
秋田大の大川一毅助教授による昨年度の調査によると、国立大学の4割で「自校教育」の講義を実施。目的(複数回答、私大も含む)としては「自学の目的・理念・使命の周知」が61%で最も多く、42%の学校が「愛校心・帰属意識の涵養(かんよう)」を理由にあげている。
愛校心の希薄化は、東京6大学野球の観客数にもあらわれている。試合ごとの観客数に基づき算出した過去5年間の春季リーグの平均観客数は、平成13年が1万885人だったが、翌14年には1万人を割り、昨年はわずか6646人にまで落ち込んだ。5年間で4割減ったことになる。
(上記記事より)
最近、「自校教育」がにわかに注目を集めています。
上記の記事に登場する早稲田、慶應などの他、国立大学の4割が「自校教育」に類する講義を行っているとのこと。正直言って、個人的な印象よりもかなり多いです。
「愛校心」という言葉はそうとう昔から存在しております。
また、「卒業生達の愛校心が強い」なんて世間一般から言われるような大学も、いくつか存在しています。
実際、マイスターは4つの大学(あ、科目履修中の大学の含めたら5つかな?)のステークホルダーなので、大学によって「愛校心」の強さが全然違うということを、身近に体験しています。
参考:大学の歴史をアピールしよう!(4):アピールする相手として一番大事なのは、実は大学内部の関係者達
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50172642.html
しかしこれまでは、そういった愛校心は本来、先輩や教員達から自然に伝承されていくような性質のものであって、授業で学ぶものではないとされてきたのではないでしょうか。
いま「自校教育」の必要性が叫ばれているということは、裏を返せば、これまで愛校心涵養のキッカケとなってきた場所やイベント、人間関係などが、これまでのようには機能しなくなってきているということに他なりません。
そこで危機感をもった大学が、こうした講義を用意して学生達に学んでもらっているというわけです。
このように対策をとるくらい、愛校心を維持・涵養するというのは、大学にとって重要なのですね。
そもそも、「愛校心」ってなんでしょうか?
「愛校心がある状態」って、どういう状態のことでしょうか?
(最近は「愛国心」「国を愛する心」の表現をめぐって延々議論している人達もいるようですが、あれも、どういう状態を目指しているのかわかりませんよね)
ストレートに考えれば、愛校心というのは、「その大学に対してなんらかの帰属意識を持っている状態」のことをさすのでしょう。
じゃあ、帰属意識を持たせれば、自校教育の目的は達成されるのでしょうか?
様々な意見があるでしょうが、「組織の構成メンバーの間で、特定のアイデンティティが共有されている状態」を作り出すことが、自校教育の目的だろうと、マイスターは考えます。
アイデンティティの「共有」。
つまり、一人一人がただ大学大好きになればいいのではなくて、お互いに特定の大学像を共有することが大切なのです。学生、教職員、そして卒業生。こういった大学構成メンバーの間で、「これこそ○○大精神だ!」といったイメージが共有されることに意味があるのです。
「あなたも○大卒ですか、わたしも○大です」
こういう会話をする時、○大卒という事実に何か特別な意味が込められていて、お互いに言わなくてもその意味が共有されているという状態です。
もっと言うと、こういうことです。
大抵の大学は、どこかにキャンパスを持っています。
ですからその場所を訪れれば、誰でも一応、大学が存在している姿を見ることは出来ます。
しかし、大学の財産とは本来、物理的なキャンパスではなく、「人」です。
大学の教育や研究を担うのも、授業を受けるのも、大学のサービスを供給するのも、大学を経営するのも、受験生に大学を紹介してくれるのも、○大卒の肩書きを背負って社会で活躍してくれるのも、みな、「人」です。
ですから、きれいなキャンパスが駅前一等地にあるということより、「人」の中にちゃんと大学が存在しているかどうかということの方が、はるかに重要であるはずです。
それが、自校教育の目的なのではないでしょうか。
この「愛校心」「自校教育」って、大学の広報やブランディングを考える上で、非常に重要な要素です。
学生の愛校心を育てるということは、大学にとって、非常に大きな意味があるのです。もしかしたら、その大学の命運がかかっているくらい、重要なことかもしれません。
昔に比べると強い愛校心を持っている学生は少なくなった、そんな声を聞くことも多い昨今、改めて、このテーマを考え直してみる必要がありそうです。
というわけで、今回からしばらく、「愛校心」「自校教育」について書いていきたいと思います。
ちょっと短めですが、とりあえず、今日はここまでに…。
(ちょうどいい長さを研究中です)
以上、マイスターでした。
大川一毅助教授の調査結果は、恐らく今週末の日本高等教育学会で発表されるのではないかと思います。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaher/9kai/2006conference.html
会員さま:
マイスターです。
情報、ありがとうございます!
日本高等教育学会のサイト、拝見しました。
…確かに! これは、国立大学に関しては、できるならぜひ発表を聞いてからにしたいところですね。
どうしよう、有給をとって学会に参加しちゃおうかな…?
もしかしたら、30日付けの記事、差し替えるかもしれません。
いい情報、ありがとうございました!
どういたしまして、です。他にもご関心のある発表がありましたらぜひ。
本来は出勤日なのですが、上司に掛け合った結果、一日、学会に参加する許可をもらえました!
色々と聞いて回りたいと思います。楽しみです!