進学に影響するほど、日本の大学の学費は高い? :「『経済格差』高校・大学で認識差」

学費ローンがまだすんごく残っているマイスターです。

大学院修士課程の学費、およそ250万円。
それを、銀行の学費ローンで10年払い。
毎月、月末になると、銀行から引き落とされてます。

そう言えば、今、どれくらい返せていたかな…。
とりあえず、まだ100万以上、借金をしている身です。

高校、大学と、私立でした。
大学院くらいは自分で払わねばと思って借金したわけですが、なかなかたいへんです。

自分でお金を借りて進学することには、学習上のメリットとデメリットがあるかなと思います。
以下は、自分なりに感じたこと。

<メリット>
○自分が受けた教育の「コストパフォーマンス」を考えるようになった。
 結果、「この勉強は学生にとって割に合うか?」と考える癖がついた。
○「元を取れるくらい学ばねば」と思うと、自然と勉強にも集中力が発揮された(笑)
○学びも仕事選択も自己責任、という意識が身についた。「留学」や「働きながら学ぶ」といった選択肢を、社会人の目で客観的に見られるようになった。

<デメリット(?)>
○「次は博士だ!」とか、「海外留学だ!」とかいう選択肢が浮かんだとき、
 「いや待て、俺にはまだ○○万円の借金が!」と、心のブレーキがかかりがち。
○コストがかかったので、それに見合う仕事内容と給与水準を求めてしまう。

実際には、メリットなのかデメリットなのかわからないことも多いわけですけれど。

いずれにしても、こうした個人的な体験から、高等教育というものにはお金がかなりかかるのかな、という認識があります。

でも、国公立の学校ばかり通ってきた方や、海外の学校を卒業された方だと、
「学費」のイメージがマイスターとはかなり違うのだろうな、と思うわけです。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「『経済格差』高校・大学で認識差 大学学費の民間調査」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200602130043.html
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この記事、読まれた方も多かったのではないでしょうか。
高校と大学とで、学費や奨学金に関する認識がズレている、という内容です。

- 「家庭の経済力によって、高等教育を受けられる格差が広がっている」と考える高校は、「とてもそう思う」が37.3%、「ややそう思う」が46.1%と計8割を超え、「あまりそう思わない」「そう思わない」の合計6.4%を引き離した。
 同じ質問に対する大学側の回答は「とてもそう思う(10.5%)」、「ややそう思う(46.2%)」と比較的低めで、「あまりそう思わない」「そう思わない」の合計も12.5%あった。
 調査担当者は、こうした「格差」への認識のずれについて、「高校に比べると、大学側は入学してくる生徒しか見えないからではないか」と分析している。 –
(上記記事より)

…と、なんだか大学、非難され気味。

記事では学費の決定に関する考え方や、奨学金の整備に関する認識についても触れていますが、やっぱり

「大学は学費に無関心」

と言われそうな内容が続いてます。

そういえばマイスターも、大学院を決めたとき、学費のことをかなり考えました。
マイスターが通った大学院には、親の収入などにかかわらず、希望者全員が、学費を全額貸りられる仕組みがあったのです。
それも、その大学院に決めた理由の一つでした。

入学する側は、そういうことをかなり考えているわけですが、
大学の方が、十分な対応をしてくれているかというと、そうでもないですよね。
大学に勤める者としては、耳が痛いです。

ただこのアンケート、気になる点もあります。
「高校は、主に進路指導担当の教員に答えてもらった」とありますよね。
では、大学の方は、いったい誰が回答したのでしょうか?

学長? 理事長?
教員でしょうか?
あるいは入試部門や、奨学金を扱う部門の担当者でしょうか?

どこの誰に尋ねるかによって、当然、認識は違ってきますよね。
Asahi.comの記事では、そのあたりのことに一切触れていないのですよ。

で、マイスター、

調査を実施した「株式会社ライセンスアカデミー」の普段の業務を考えると、入試部門のネットワークを使ったかな?

なーんて思いながら同社のサイトを見てみました。
そしたら、アンケート結果がPDFで公開されていました。

■「『大学の学費に関するアンケート』結果ご報告書(PDF)」株式会社ライセンスアカデミー 進路情報研究センター
http://licenseacademy.jp/pdf/01_17.pdf

上記アンケート結果の最後に添付されている質問票には、
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学園広報ご担当者様
入試広報ご担当者様

—————————-

とありました。

入試業務の担当者が「大学に来ない原因は学費じゃない」と回答されるのは、無理もないことなんじゃないかな、って気がしなくもないです。
学費のことを聞くのなら、学費や奨学金関係の部署に聞くという手もあったんじゃないかと思います。

しかしそれでもまぁ、広報担当者が回答したなら、結果に対して文句は言えませんね。
広報は、社会に対して開けている窓です。
社会は、広報を通じて大学を見るわけですから、広報がそう答えたなら、そういうことになるのです。

でもアレですね。
なんていうか、大学の広報の方って、「大学の学費は高い」という認識を持っていないのでしょうかね…。
「高校に比べると、大学側は入学してくる生徒しか見えないからではないか」
という記事内のご指摘も、ある意味、そう外れていないかも知れません。

ちなみにマイスターは現在、在学生の皆様や保護者様が、学費延納の質問をしてくるカウンターにいます。
学費の延納手続きをとる学生さんや、延納に関する質問のお電話をかけてこられる保護者の方、結構いらっしゃいます。

自分が大学で働くまで、学費を延納する方がこんなにいるなんて、想像もしていませんでした。
あくまで個人的な印象の域ですが、そういう体験をすると、どうも「学費も進学に影響を与える要因の一つらしいなぁ」と感じます。

大学でも、部署によって、かなり認識に開きがあるわけですね。
(その意味でもやはり、Asahi.comの記事がこうした回答者の属性に触れていないのは、やはりいいことではないですね)

ところで、

<日本の教育費、特に高等教育にかかる学費は、先進諸国と比べて非常に高い>

というお話は、みなさん、そこかしこで耳にされているかと思います。

そのあたり、わかりやすく説明してくださっているブログやサイトを、以下にまとめておきますね。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「教育関係国際比較データ」(もじれの日々:東京大学大学院情報学環助教授 本田由紀氏のブログ)
http://d.hatena.ne.jp/yukihonda/20060209

■「世界でも異常な日本の高学費」(日本共産党)
http://www.jcp.or.jp/youth/gakuhi/data.html
■「国際人権規約・高等教育無償化条項の留保撤回を!」(日本共産党)
http://www.jfpu.org/2006data.htm
※特定政党のサイトをご紹介するのは本来、なるべく避けたいところなのですが、わかりやすくつくってあったので今回はご紹介を。

■「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会からの質問事項に対する日本政府回答(仮訳)」(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/kaito/1_5.html
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国際人権規約の中には、
 
「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」(上記訳文は日本共産党のサイトによる)

といった条項があるのですが、日本はその批准を、ずっと留保し続けているわけです。
大学関係者の皆様の多くは、このこと、ご存じかと思います。

確かに、学費が原則として無償という国と、日本とでは、学ぶことに対する障壁の高さが、まるで違うと思います。
250万円の学費を借りて大学院に通い、今もそのローンの引き落としにおびえているマイスターとしては、その環境の違いに愕然となります。

「無償化してもあまり社会階層の格差は縮まらない」なんて意見も世にはあるようですが、現在の高い学費が階層格差を一層広げる原因の一つにつながる可能性は、やはり否定できないでしょう。

ただ、私立大学の比率が他の先進諸国と比べて非常に高いなど、我が国固有の問題もあるので、「現存する大学の学費をすべて公費から出せ!それが当然だ!」なんてことは、マイスターは今はとても言えません。

また、「欧米諸国」なんて、ついひとまとめにしてしまいますが、ヨーロッパとアメリカとでは大違いです。

※アメリカの大学の学費状況については、おなじみ「アメリカの大学事情」さんが詳しく書いておられます。
これらを読むと、「欧米諸国は学費無料だ。それに比べて日本は…」なんて、うっかり言えません…。

■アメリカ大学教育の苦悩① -あがり続ける学費-
http://ameblo.jp/yanatake/entry-10003636352.html
■アメリカ大学教育の苦悩② -アメリカの労働市場-
http://ameblo.jp/yanatake/entry-10003654561.html
■アメリカ大学教育の苦悩③ -貧富の差と卒業率-
http://ameblo.jp/yanatake/entry-10003757401.html
■学費が上がる理由
http://ameblo.jp/yanatake/entry-10003825466.html
■学費上昇をくいとめるために -連邦政府の思惑-
http://ameblo.jp/yanatake/entry-10003845201.html

いずれにしても、とにかく現状では、そう簡単に日本の大学の学費が無償化されるとは思えないわけです。

残念ながら日本では、高等教育を始め、学費が高いです。
特に私立は、(アメリカほどではないにしても)数百万円がかかります。
そして、それらの学費の大部分を国に負担してもらえる目算も、今は全然立っていないわけです。

そうした環境の中、高校の教員や、高校生、およびその保護者の皆様は、常に学費の負担を気にされながら進学を検討しているわけです。

そのことを、大学関係者も、あらためて認識すべきではないでしょうか。

マイスターとしては、
個人的には、国の政策という視点よりは、個々のケースで勝ち抜く方法を考える方が得意ですので、国には一定の期待をしつつも、

「個々の大学で、学費を安くする工夫が何かあるはずだ!」

と具体的に考える方に、より多くの時間を使いたいなぁと思ってます。
奨学金をはじめ、学費の支払いをサポートする仕組みも、もっともっとうまいやり方を考えていければと思います。
(もちろん、国の政策に関する知識を学んでおくことも大切だと思います)

結論として、
学費は今のところ非常に高いのですが、国はあんまりアテになりませんので、
まずは個別に学生さんの学費負担を下げることを常に追求し続けるところから、始めてみてはいかがでしょうか、
っていうのが、マイスターの個人的な考えなのでした。

(成果が上がったら、広報担当者にしっかり説明しておくのもお忘れなく)

以上、マイスターでした。

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(その他の参考)

・家計の教育支出を増やしている原因は、これ?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50006542.html

以前記事で、内閣府の参事官の方が書かれたレポートを紹介しました。
家計における、教育支出の動向について分析しておられます。

・下流社会 新たな階層集団の出現

ご存じ、ベストセラー。
親の所得格差が、子供の教育投資額の差につながり、社会格差をいっそう拡大させているのではないか、という指摘がなされています。

2 件のコメント

  • マイスターさんマイスターさん、
    「日本大学」じゃなくて「日本の大学」ね。
    RSS リーダーでタイトル見てビビりました(^_^;)

  • マイスターです。
    ぎゃああ! 申し訳ございません!
    気づいておりませんでした…ご指摘、ありがとうございます。
    たった今、タイトルを修正するとともに、本文中にお詫び文を掲載させていただきました。
    日本大学の関係者のみなさま、誠に申し訳ございませんでした!
    平謝りいたします。
    m(__)m m(__)m m(__)m