マイスターです。
4月もそろそろ後半。この春から進学した方々も、新しい生活環境に馴染んできた頃でしょうか。
大学を巡るニュースも、入試の話題はとりあえず落ち着き、新年度、あるいは次年度以降の話が増えてきています。
ちなみに入試シーズン以降、大学関係者が最も意識するのは「歩留まり率」の読み。
「合格者のうち、どのくらいの割合の人が、実際に入学手続きを済ませて、本学の学生になってくれるのか」を、推測することです。
大学の「定員」は決まっており、あまりに定員より入学者が少なすぎると、リソースが無駄になり、経営が苦しくなります。
逆に多すぎても、関係各所から様々なペナルティを課せられます(少なすぎても課せられます)。
大学関係者にとって、合格者の数をどれだけ出すかというのは、最も重大な判断のひとつだと言って良いでしょう。
過去のデータや経験を頼りに、この歩留まり率をいかに正確に読み解くかが、入試関係スタッフの腕の見せ所。
でも実際には、競合大学の動きもあるし、世の中の流行り廃りもあるしで、予測は極めて困難です。
しかし毎年、そんな苦悩と無縁の大学があります。
2年前のデータですが、まずはこちらをご覧下さい。
【東京大学 学部学生の入学状況(2007年度入試の結果)】
■文科一類
募集人員 415
合格者数 415
入学者数 415
歩留まり率 100.0%
定員充足率 100.0%
■文科二類
募集人員 365
合格者数 366
入学者数 366
歩留まり率 100.0%
定員充足率 100.3%
■文科三類
募集人員 485
合格者数 488
入学者数 488
歩留まり率 100.0%
定員充足率 100.6%
■理科一類
募集人員 1,147
合格者数 1,170
入学者数 1,165
歩留まり率 99.6%
定員充足率 101.6%
■理科二類
募集人員 551
合格者数 568
入学者数 560
歩留まり率 98.6%
定員充足率 101.6%
■理科三類
募集人員 90
合格者数 90
入学者数 90
歩留まり率 100.0%
定員充足率 100.0%
これは2007年度入試における、東京大学・各科類の入試データ。
今くらいの時期に、なんとなく毎年気にかけてみている数字です。
なんじゃこりゃ! ……と、他大学の関係者なら言いたくなるような合格者数。
特に文科一類と理科三類が、それぞれ大変なことになっています。
「東大に受かったんだから、当然、入学するでしょ」
……という前提が大学側にあることがわかりますね。
何しろ、定員ぴったりにしか合格を出していないのですから。
でも実際、受かった人は必ずと言っていいほど、入学しているわけです。
かのハーバード大学でも、合格したのに進学しない学生が毎年、数百人単位で出ると聞きますから、東京大学の自信は相当なものです。
逆に、日本の大学進学のシステムが、非常に「閉じた」ものであるということを示す一例だとも言えそうですけれど。
(過去の関連記事)
■「なんで、誰もが東大に!?」
さて、昨日のニュースクリップ内でもちょっとだけ触れましたが、2008年度入試から、東京大学は後期日程のあり方を大きく変えました。
従来のような文科一類、理科一類などの科類ごとではなく、試験を一本化して100人を選抜。
合格後に理科三類(医学部進学)以外の科類を選ぶシステムに変えたのです。
問題も、英語の読解力や数学的な応用力、その他、論述の思考力・表現力などを判断する総合的な内容となりました。
おそらく、これまでのような試験に通る学生とは異なるタイプの人材を選び出すための、実験的、戦略的な試み。
権威的に見えながら、実はこうした大胆なことを率先してやってしまうのが、東大のすごいところです。
で。
「合格した後で、進学する科類を選べる」というこの仕組みが導入された後、実際の合格者達はどこを選んだのか。
制度を導入した最初の年、2008年度入試の結果は、以下のようになりました。
【東京大学 学部学生の入学状況(2008年度入試の結果)】
■文科一類
前期募集人員 401
前期合格者数 401
前期入学者数 401
前期歩留まり率 100.0%
後期入学者数 26
■文科二類
前期募集人員 353
前期合格者数 354
前期入学者数 354
前期歩留まり率 100.0%
後期入学者数 5
■文科三類
前期募集人員 469
前期合格者数 479
前期入学者数 477
前期歩留まり率 99.6%
後期入学者数 2
■理科一類
前期募集人員 1,108
前期合格者数 1,129
前期入学者数 1,125
前期歩留まり率 99.6%
後期入学者数 37
■理科二類
前期募集人員 532
前期合格者数 547
前期入学者数 543
前期歩留まり率 99.3%
後期入学者数 27
■理科三類
前期募集人員 90
前期合格者数 90
前期入学者数 90
前期歩留まり率 100.0%
後期入学者数 (-)
※特別選考入学者は除く。
(「学部学生の入学状況 (平成20年度入試) 」(東京大学)の数字をもとに作成)
前期日程の歩留まり率は、相変わらず驚異的な高さ(というか、ほぼ100%)を誇っています。
しかし、後期日程のところでちょっと動きが。
この年、後期日程の結果で入学したのは97人。
それが、それぞれ上記のようにばらけました。
後期の数字だけまとめると、以下のような感じです。
文科一類 : 26人 (26.8%)
文科二類 : 5人 (5.2%)
文科三類 : 2人 (2.1%)
理科一類 : 37人 (38.1%)
理科二類 : 27人 (27.8%)
理科三類 : 対象外
※( )内の数字は、後期日程入学者97人に占める割合
文科二類、文科三類の進学者の少なさが目立ちます。
……というより、文科一類への進学者が多いという方が、実態を正しく表しているかもしれません。
東京大学で一番人気な科類は、文系なら文科一類、理系なら理科三類です。
入学者達の多くが、それぞれ法学部、医学部に進学できるからで、いわゆる受験難易度の序列でも、この二つの科類が日本の頂点。
なんとなく、文理を問わない後期日程であっても結局は「自分は文系」、「自分は理系」という意識を受験生達は持っており、その「文系学生」の方が文科一類に集中した……なんていうストーリーが浮かんできます。
もし、理科三類が後期日程合格者に対して門戸を開放したときには、理科一類、理科二類への進学者が減る結果になるかもしれない、なんて思ってしまいます。
(ちなみに上記の仮定で分けると、後期日程は文系の合格者が33人、理系の合格者が64人ということになり、理系に有利な試験だったという結果となります。もっとも実際には、この分け方に当てはまらない方もいると思いますが)
でも逆に、「世間的に聞こえの良い文科一類にも行けるのに、二類や三類を選んだ入学者がいる」ということから、やりたいことで進学先を選ぶ学生が一定数いるという評価をすることもできなくはなさそうです。
皆さんは、この結果、どう読み解かれますか?
以上、本当は2009年度入試の結果を皆さんにはご紹介したかったのですが、なかなか数字が発表されず、待ちきれなくなったので、まずは2008年度の結果を改めて見ていただきました。
マイスターは2009年度入試結果の公開を、楽しみに待っています。>東京大学関係者の皆様
2年目で、文科二類や三類の入学者が増えていたら面白いのですが、さて、どうでしょうか。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。