愛校心のカタチ(2):自校教育の取り組み(私立大学)

マイスターです。

・愛校心のカタチ(1):愛校心って何?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50201462.html

前回の記事に引き続き、「愛校心」「自校教育」について考えてみるシリーズ、第2弾です。今回は、私立大学が、どのように自校教育を展開しているかをご紹介したいと思います。

■「薄れる愛校心 講義に「自校教育」取り入れ鼓舞 ≪大学の歴史や校歌…早慶戦観戦必修まで≫」(産経web)
http://www.sankei.co.jp/news/060521/sha004.htm

まず手っ取り早く、この産経webの記事で取り上げられている大学を見てみましょう。

愛校心と言えば、やはりこの大学でしょう。早稲田大学。
早大生はワセダを語るのが好き。これは、周知の事実です。

【早稲田大学の自校教育】
■「来年創立125周年「早稲田」が熱い!!」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/campal/news/20060512dde012070009000c.html
「■早稲田を知る」(早稲田リンクス)
http://waseda-links.com/freshman/2006/class/waseda1.html

早稲田大学では、「早稲田を知る」という科目を開講しています。逆に言うと、あの早稲田ですら、こうして大学について知ってもらうための授業を開講しなければならなくなった、というわけですね。

この授業は校友会の寄付講座で、毎週木曜日の講義は教員・校友が代わる代わる受け持つ。建学の精神に触れることで真の早稲田大学生となり、社会に貢献する人材を育てようという目的。大学の歴史、関係者の生涯などを解説、東京六大学野球・早慶戦の観戦も義務付けられている。
4月27日は、応援部OB・菊地哲栄さん(1967年度卒)による校歌・応援歌の講義。この日は特別に一般開放され、大教室も受講生ですっかり埋まっていた。
応援部による演奏と応援を受けて菊地さんが登場。第一声は「本日は、ちまたで第二の国歌と言われている早稲田大学校歌についてお話しします」。受講生は苦笑いしつつ「早稲田大学校歌はなぜ泣けるのか」などの話に真剣に聴き入っていた。「校歌を歌うコツ」では胸を張って初めはゆっくり後半はすくい上げるように歌うんだ、と教えた。
続いて、他の六大学の校歌との聞き比べや大隈侯の肉声を収めたビデオが上映された。映像が途中で途切れたところでは菊地さんが自ら歌い、拍手が起きた。最後には岩井方男学生部長も登場、「校歌で皆が一つになれるのは早稲田だけ! 舞台に上がって歌おう」と、学生と肩を組み校歌を歌った。(毎日新聞記事より)

なんだか、すっごく早稲田っぽいなぁ~、と思う授業ですね(^_^)。

「早稲田大学校歌はなぜ泣けるのか」
「『校歌で皆が一つになれるのは早稲田だけ! 舞台に上がって歌おう』と、学生と肩を組み校歌を歌った」

って、他の大学では、なかなかこういう授業は成立しないと思いますよ。
なんだかんだ言っても、この大学は元気ですよね。他の大学の関係者からすれば、この熱さはうらやましいのではないでしょうか。

なお自校教育を展開する目的について、奥島前総長はインタビューで以下のように語っています。

――この「早稲田を知る」という授業は非常に特徴的だなと思うのですが、大学の歴史を学ぶことにはどのような意味があるのでしょうか?

理由は非常に簡単だよ。そもそも、私立大学の存在理由とはなんだと思うかね? まず勘違いしてはいけないのが、単に研究教育をするためだけに私立大学が存在しているのではない、ということなんだよ。それだったら国立大学があるんだから、わざわざ私立大学を作る必要はない。では私立大学とは何かというと、「志」を育てるための大学なんだ。それぞれの大学で何を目指すかという理想を持って、その「志」を育てていく。つまり、私立大学とは、“志立”大学でもあるのだよ。もちろん早稲田だけではなく、同志社、明治、立教……、全ての私立大学には「志」、すなわち目的がある。それが建学の理念に当たるわけだが、我々はそういう精神というものを受け継いでいかねばならない。建学者の志を受け継ぐことで、早稲田は早稲田であるということを考えなければならないんだ。早稲田リンクス記事より)

「建学者の志を受け継いでいくため」というのが目的である、という明確なお答えです。

続いて、早稲田と来たら、なんとなく慶應を(笑)
慶應義塾大学は、湘南藤沢キャンパスにおいて、「慶應義塾大学入門」という授業を開講しています。こちらは、シラバスが見つかりましたので、そちらをご紹介しますね。

【慶應義塾大学の自校教育】
■「慶應義塾入門」(慶應義塾大学SFC:2006年度 講義案内・シラバス)
http://vu.sfc.keio.ac.jp/course/summary/class_summary_by_cid.cgi?2006_14960
http://www.slis.keio.ac.jp/~kawabata/keio2006/

何かにつけて、「福沢先生はこう言っています……」と建学者の言葉を引用するのが好きな慶大生(&教員)。「慶應義塾入門」でも、福澤諭吉の自伝『福翁自伝』を読んでレポートを提出するなど、そのあたりの雰囲気が出てます。

シラバスの授業予定を見ると、こちらも早稲田と同じく、大学関係者から毎回ゲストを招いての、オムニバス形式であることがわかります。「気品の泉源、智徳の模範」「自由と独立」など、建学の精神をクローズアップしている点も、早稲田の奥島氏が語るところに近いものがあります。もっとも、こちらは、校歌斉唱は入っていないようですが(^_^;)。

冒頭の産経webの記事には、こうあります。

慶応義塾大は平成13年度から、湘南藤沢キャンパスで「慶應義塾入門」を開講。同年度から新設した看護医療学部の1年生は必修科目とした。「キャンパスが本部から離れた場所にあり、母校の歴史や伝統を感じにくいため始めた」(広報担当者)という。(産経web記事より)

そう、慶應では、湘南藤沢キャンパスでしか、自校教育科目が開講されていないのです。これ、注目すべきところかも知れません。
つまり三田や日吉といったキャンパスでは、「慶應らしさ」や「愛校心」がちゃんと受け継がれていて、放っといても学生は勝手に、「塾生」(※在学生を示す慶應用語)になるんだということです。でもSFCは他のキャンパスと距離的に離れているし、歴史が浅いから慶應精神も十分に定着していない。だから、こうして授業で「補完」するんだということですね。最も新しい学部であり、最も孤立していると思われる看護医療学部では、必修科目になっています。

この他にも、早慶戦の観戦を体育科目の加点対象にするなど、あれこれと工夫をしているみたいです。

■「慶早戦を観戦して体育Iの成績を上げよう」(SFC CLIP)
http://clip.sfc.keio.ac.jp/article.jsp?id=news06052602

新しいキャンパスは、色々と大変なのですね。でも、こうした取り組みをしてでも、建学者の精神を学内の隅々まであまねく浸透させようという姿勢は、やはり伝統ある大学ならではなのでしょう。

産経webの記事によると、青山学院大学と中央大学でもそれぞれ自校教育をやっているはずなのですが、シラバスなどが見つかりませんでした。
関西版の記事では、同志社大学と関西学院大学の記述が追加されていましたので、そちらをご紹介してみましょう。

■「愛校心育成へ 同大や関学大は建学精神など教える講義新設」(産経関西)
http://www.sankei-kansai.com/a01-news/top-news060521-1m.htm

関西でも、創立者の新島襄らを取り上げる同志社大の「建学の精神とキリスト教」、大学の歴史などを学ぶ関西学院大の「関学学」などが開講されている。(上記記事より)

というわけで、この2校の自校教育についても、資料を探してみました。

【関西学院大学の自校教育】
「『関学』学:『日本の近代化と関西学院』」(関西学院大学大学要覧(2006.4.1発行)講義概要抜粋)
http://www.kwansei.ac.jp/bulletin2006/zen06/class/zen05_31.html

関西学院大学の取り組みは↑こちら。残念ながらこれだけですと、ちょっと内容が推測できませんが、やはり数多くの教員が関わっているようですね。

【同志社大学の自校教育】
■同志社史に関する諸問題
http://syllabus.doshisha.ac.jp/syllabus/html/2006/6170138.html
■新島研究入門
http://syllabus.doshisha.ac.jp/syllabus/html/2006/6170137.html
■新島襄の交遊
http://syllabus.doshisha.ac.jp/syllabus/html/2006/6170139.html
■同志社人物列伝
http://syllabus.doshisha.ac.jp/syllabus/html/2006/6170140.html
■同志社とキリスト教
http://syllabus.doshisha.ac.jp/syllabus/html/2006/6170141.html
(以上、同志社大学シラバス検索システムで見つけました)

同志社大学では「同志社科目」という科目群を用意し、「基本科目」「展開科目」「関連科目」として体系化しています。上記は、マイスターが見つけられた分のシラバスですが、これらはみな「展開科目」のようですので、本当はもっと多くの授業が開講されているのでしょう。

マイスターが発見した中でも、特に注目したいのが↓こちら。

■「建学の精神とキリスト教4『新島襄・同志社・キリスト教の基礎』」(同志社大学 神学部オープンコース)
http://theology.doshisha.ac.jp/opencourse/kohara_03.html

実は早稲田、慶應の取り組みを見て、マイスターが不思議に思ったのは、

「なぜ、卒業生や入学志望者に、この授業を開放しないのか!?」

ということなんです。
早稲田大学は、西早稲田の交通至便な立地だし、慶應SFCはwebで授業内容を公開する取り組みを行っています。ですから両校ともその気になれば可能なはずなのに、「卒業生や、高校生の受講を歓迎します」の文字が無い。ヘタに愛校心あふれるOBを招くと授業が混乱するんだろうか、なんて穿った推測をしてしまいますが、とにかくもったいないんですよね。

同志社大学では、限定された科目ではあるけれど、こうしてwebで公開されている科目があったので、ほほぅ!と思いました。

同志社大学は、大学の公式webサイトを見ていても、新島襄の生涯を紹介するコンテンツなどをはじめ、大学紹介のための情報が充実しているように思います。学風や、建学の精神を紹介するということに、力を入れているのかな、と思います。

最後に、産経webの記事ではなぜか取り上げられていなかったのですが、自校教育を語る上では欠かせない事例がありますので、ご紹介します。

【立教大学の自校教育】
■「立教大学ー『立教科目』建学の精神から学ぶ科目展開ー」(立教大学)
http://www.rikkyo.ac.jp/~z3000064/gp/c/cd-05tokusyoku_gp.htm
■「立教学院と戦争」(立教大学シラバス)
http://wwwj.rikkyo.ac.jp/kyomu/gakubu/00zen/Fg0/187_0_1.html
■「立教大学の歴史」(立教大学シラバス)
http://wwwj.rikkyo.ac.jp/kyomu/gakubu/00zen/Fb0/091_0_1.html

立教大学の取り組みです。他大学と異なるのは、この「立教科目」が、文部科学省の特色GPに採択されているという点です。

■「平成17年度『特色ある大学教育支援プログラム』採択取組の概要および採択理由:『立教科目』-建学の精神から学ぶ科目展開」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/07/05071904/004/002/008.pdf

(採択理由)
当該取組は、大綱化以降の一般教育改革において再編成した全学共通カリキュラムの総合A群のうち立教科目に焦点をあてたものです。立教大学のミッションを体現することを目的とした立教科目は、4つのテーマから構成されているが、それぞれの科目の内容において、また、必要に応じてゲスト・スピーカーを講師に招くなどの方法にも工夫がなされていることは高く評価できます。大学のミッションを体現するための教養教育という設定は、現代の日本の大学にとっても重要な課題であり、本取組は参考になる事例といえます。
受講希望者に応じるため、今後は4テーマを8テーマに拡大しますが、そうしたなかでも現在と同様の工夫とそれに対する学生からの評価が継続されることが希望されます。(上記リンクより)

このように、「大学のミッションを体系的なカリキュラムで教育する」という点が、現代の日本の大学にとって重要な課題であるということで、特色GPにふさわしい取り組みであると認められました。
関連して、自校教育に関するシンポジウムも開催されています。

■「『特色ある大学教育支援プログラム』採択記念シンポジウム:『自校教育』の意義とその可能性を探る」(立教大学)
http://www.rikkyo.ac.jp/~z3000064/gp/simposium/index01.html
■「シンポジウムを終えて:寺﨑昌男」
http://www.rikkyo.ne.jp/~z3000064/gp/simposium/index02.htm

建学の精神をどのように学生に伝えていくか、ということについては、これまでも各地の大学で多くの実践がなされてきました。それらの試みを通して、特に、学生たちが大学で求めているものは、単なる知識のみではなく、自分の居場所の確認、すなわち「自分を探す」という重要な課題であり、それに対して、自分が在籍している大学の歴史について学ぶ「自校史の授業」(自校教育)が極めて有効であると指摘されています。
とりわけ、入学後の積極的な動機付けを必要とする昨今の学生状況から、導入教育の一環としても、改めて「自校教育」の重要性が評価されつつあります。(上記リンクより)

このように背景には、学生のアイデンティティに関わる教育である、という考えがあるようですね。

GPに採択されているということもあり、これらの科目について立教大学では実施プロセスから、科目の特性有効性将来性まで、きちんと検証しているようです。

以上、まだまだ同様の取り組みはあると思いますが、キリがありませんのでご紹介はこのくらいにしておきます。

いずれの大学にも共通するのは、

「建学の精神」(建学者の精神)の確認

というところだと思います。
大学のアイデンティティである建学の精神、大学のミッションというものを、教員と学生がともに「確認」し、最終的に「共有」することが、大きな目的であるようですね。

卒業生をゲストスピーカーとして招く大学が多いのも、大学の構成メンバーの間でアイデンティティを共有するという意味では、確かに有効だと思います。

もっとも、そういった意味では、やはり在学生だけでなく、教職員や卒業生をはじめ、入学志望者などにも開放したらよりいいのではないでしょうか。

OBのおじいちゃんおばあちゃんから教職員、中高生までが一つの教室の教室に集まって、「○○大学のミッションとは?」と意見を交換しあうなんて、想像するだけでわくわくしませんか?

いくつもキャンパスを持っている「学部割れ」「学年割れ」大学では、各キャンパスを中継で繋いでの授業なんてのも面白そうです。普段は顔を合わせることがない他キャンパスの学生と、画面を通じて話し合うというのは、ちょっと感動です。授業風景自体が、既に自校のアイデンティティを確認する作業になっているわけですね。

また、インターネットを用いてオンライン配信する試みも、もっと積極的に行ってもいいんじゃないかなとマイスターは思います。慶應SFCの取り組みがそうですが、本来、自校教育が必要なのは、普段、大学の中心から離れたところにいる方々であるはずですが、オンラインでなら、そんな方々にも参加してもらえます。キャンパスから遠く離れた場所で暮らしている卒業生や留学生でも受講できます。

(ついでに言うと、子育てをしている卒業生の皆様に自校のアイデンティティを届けるという取り組みにも、オンラインの自校教育は一役買いそうな気がします。これ、結構大事なテーマだと思います。)

このように、せっかくの取り組みなのですから、公開して、建学の精神や大学のミッションを共有してみるといいのではないでしょうか。

さて、というわけで私立大学では、「建学の精神」を核にして自校教育を展開しているらしいということがわかりました。

・大学の歴史をアピールしよう!(2):歴史コンテンツの制作には、私立大学の方が有利?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50171642.html

↑以前書いた記事でも述べたのですが、やはり、大学のミッションが建学者の具体的な人物像とセットになっている私大は、こういう展開がしやすいのでしょう。

では、行政的な計画で設立されていることがほとんである国公立大学の自校教育は、そのあたり、どうなんでしょうか?

というわけで、次回は国公立大学について見ていきたいと思います。
(資料が見つけられるかどうかが、まず心配です…)

以上、マイスターでした。

2 件のコメント

  • 慶應義塾では、在学生を「塾生」、
    卒業生を「塾員」と呼ぶようですよ。

  • マイスターです。
    ご指摘、ありがとうございます!
    間違えていました・・・。
    (関係者の皆様、失礼いたしました)
    該当部分、修正させていただきました。