プロデューサーというお仕事(2):客観的な視点を持ちながら、当事者として決断する

マイスターです。

プロデューサーのお仕事紹介、第2弾です。

・プロデューサーというお仕事(1):プロデューサーは、常に成果の達成を優先する
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50145260.html

↑前回の記事で、プロデューサーとは、最初に求められる成果を設定し、その達成のための方法を考える人であるとご説明しました。

ところで、みなさんの中には、プロデューサーのことを、
「現場上がりの人が昇進を繰り返して就くポスト」だと思っている方、いらっしゃるかもしれません。

テレビを例に取るとわかりやすいかも知れません。
確かに民放では、「番組ディレクターがプロデューサーに昇進」なんてことが多いようです。

しかしこれは本来のプロデューサーのあり方から考えたら、必ずしも正しい方法とは言えません。

なぜなら、現場の仕事に精通していることと、プロデュース行為に求められる経験やスキル、発想とは、まったく異なるからです。

むしろ、現場の経験が、邪魔になることすらあります。

現場に詳しい方ほど、「その現場で無理なくできる範囲」でしか、物事を発想できません。

「現場で既に経験したこと」
「現場のスタッフが得意なこと」

を提案しようとします。
しかしこれでは、成果を第一に考えるべきプロデューサーとしては、失格なのです。

テレビ局ではNHKが唯一、新入社員のときからプロデューサーとしての道を歩むコースを用意しているそうです。
(アメリカあたりでは、むしろこうしたシステムの方が一般的なのだそうですが)

お笑いブームの火付け役になった「爆笑オンエアバトル」や、「プロジェクトX」などなど、NHKのプロデューサー達は、実は結構、良い仕事をしていると思います。
またNHKは「アリー・マイ・ラブ」、「ミスタービーン」、「冬のソナタ」といった海外の番組を、結構、積極的に開拓してますよね。どれもなかなかレベルの高いコンテンツで感心させられましたが、同じようなことを、他の民放が企画してますか? してないでしょう。

民放の番組のプランニングを見ていると、

「あぁ、こういうのばっかり経験していたディレクター上がりの人が、プロデュースしちゃったんだな」

と感じるような番組が多いように、マイスターは思います。

webサイトのプロデュースでも、同じようなことが言えます。

デザイナーやSEが昇進した結果、プロデューサーになるという会社は多く、「現場作業に精通したプロデューサー」と謳ってしていたりします。
でも、デザイナーだったのなら、デザインで世界一を目指せばいいのに、なんてマイスターは思います。

本当は、すっごく暖かみのある、かわいいデザインが求められている場面で、

「スタッフに、クールなデザインが得意なヤツがいるんですよ」

なんて言って、クールな提案をしてしまったら…これ、マズイですよね。
また、クールなデザインが得意なスタッフに、無理を言って暖かみのあるデザインをさせる行為も、やはり「成果」より自分たちの都合を優先させる発想ですから、本当のプロデューサーの行為ではありません。

わざわざ無理に不得意な仕事をさせてもよい物は絶対にできないのですから、この場合は外部のデザイナーを連れてくるべきなのです。

しかし、現場に精通していればしているほど、これがなかなかできません。

こと、プロデューサーの仕事だけに関して言えば、現場の経験は、かならずしもプラスにならないのです。

正確に言うと、何年、現場の仕事に従事していても、プロデューサーとしてのスキルアップにはつながらないことがある、ということでしょうか。

プロデューサーは、ビジネスとしてコンテンツやサービスを提供することを意識していなければいけません。
つまり、ビジネス判断に優れ、コストとクオリティのコントロールができる人間であることが、欠かせないのです。

細部よりは、全体。
スタートよりは、ゴール。
できることより、すべきこと、です。

どっぷりと現場に使った発想は避け、むしろ、一歩引いて全体を見渡す、クールな他人の視点が求められる仕事です。
こうした視点や能力って、現場で何年修行を積んでも、得られるとは限りませんよね。そこが、勘違いされているような気がします。

ところで、世の中を見渡すと、これと似たような職務を担う人に、
「コンサルタント」がいます。

コンサルタントも、客観的に全体を見渡しアドバイスを与えるという意味では、プロデューサーと似ていますね。

しかし、この両者、決定的に違う点があります。

コンサルタントというのは、一般的に、失敗の責任を取りません。
また、自ら決定を下すことはありません。
あくまで、「アドバイザー」としての立場をキープします。
他人の立場で、他人としてのアドバイスをするのが、仕事です。

これに対し、プロデューサーは、失敗の全責任を担う、当事者です。
すべての決定を、自分で下さなければなりません。
始まりから終わりまで、ずっと、プロジェクトの中心であり続けます。
当事者でありながら、クールで客観的なものの見方をしなければならない、それがプロデューサーです。

おわかりでしょうか、この違いを。

コンサルタントという職業も、世の中には必要です。
当事者でないからこそ、数多くの組織のケースに触れることも可能になりますし、そこから生まれる知見もあるでしょう。優秀なコンサルタントはそうやって育ちます。
コンサルタントの武器は、膨大なデータと論理力ですね。

一方プロデューサーは、様々な物事の中心で決定や決断を繰り返すことで、一人前になっていきます。
他の組織の事例やデータをとりこみながらも、最終的には、自分が決定しなければなりません。(そのため時に、強引ともとれる決断をすることもあるでしょう)
プロデューサーの武器は、バランス感覚と、あふれる説得力です。

仮に、プロジェクトで成果が上がらなかったとしても、コンサルタントには実害がありません。
プロジェクトの成否についてかかるプレッシャーは、当事者であるプロデューサーの方が大きいのではないかというのが、マイスターの印象です。

視聴率欲しさのあまり、テレビ局のプロデューサーが不正事件を起こすことがありますが、それはこうしたプレッシャーが悪い方面で出てしまったケースですね。

またプロデューサーは、研究者とも異なります。

プロデューサーは、バランスの取れた説得力ある決断をするために、学術的な研究成果を積極的に利用します。

(プロデューサーとして活躍している方の中には、大学中退の人や高卒の人もいますが、そうした方も、関連分野の論文に目を通していたりします。洋書を読んでいる方もいます。大学中退したプロデューサーとの会話の中で、そういうデータがぽんぽん出てきて、マイスターは最初ビックリしました)

でも、それはあくまで「手段」であって、「目的」ではありません。

どんなに真理を突いた研究成果であっても、

「で、だからどうした」
「あなたは物知りですね、で、結局この問題に、それをどう活かすの?」

と、ある意味突き放した見方ができなければ、プロデューサーとしての職務には結びつかないのです。
悪い意味で、学術研究成果に囚われてはいけないのです。
その意味で言うと、いわゆる「単なるお勉強好き」のタイプは、プロデューサーには向かないかも知れません。

個人的には、プロデューサーに最も近いのは、ゼロから自ら事業を生み出す、起業家かなと思います。

今、コンサルタントになりたい、という大学生は多いそうです。
知的でクールなイメージがあるのでしょう。
でも個人的には、正直言って、そんなにアドバイザーが世の中に多くいてもなぁ、という気がします。

また、研究者を目指す方も、いますよね。
でも、博士号をとったとしても、残念ながらその能力を活かせる職は、そうそうありません。

現場のクリエイターやデザイナー、ディレクターなどになりたいという方も、大勢います。

でも、プロデューサーは、不足してます。
マイスターは、上記の中なら、プロデューサーが一番面白くて、やりがいのある仕事だと思うので、寂しいです。

大プロジェクトを率いるプロデューサーとなると、受けるプレッシャーも忙しさも桁違いですが、それでも、この職種が社会に与えるインパクトを、もっと知って頂きたいと思います。

○最先端の論文を読める知性
○百人を納得させられる、自信に満ちあふれた説得力
○専門外の知識にも興味を示す好奇心
○徹夜も辞さない体力
○必要な障壁を取り除き、成果をあげることに対するどん欲さ
○市場の動向を見逃さない、ビジネス力
○失敗を他の誰かのせいにせず、愚痴や文句を言わないポジティブさ
○どんな場合でも人任せにせず自分で決めるという自己決定の姿勢、決断力

以上のような能力を身につけたいという方は、ぜひ、プロデューサーを目指してください。
分野を問わず、こういう能力を持ち合わせたプロデューサーが必要な場は多いと思います。

特に、教育のマネジメントに関しては、こういう姿勢の人が必要だと考えています。

大学の場合は、「大学アドミニストレーター」という職種が少しずつ知られ始めていますね。
マイスターの思い描くプロデューサー的な人材とは、また少し違いますが、通ずる物はあると思います。

しかし初等中等教育では、残念ながら、まだこういう職種に該当する方はほとんど出てきていません。

それでも幸運なことに、マイスターはこれまでに何人か、私立学校と公立学校の両方で、プロデューサー的な姿勢と能力を持った方にお会いすることができました。

プロデューサーは、「自分はプロデューサーだ」という自覚を持って、何かを生み出す行動を始めれば、その時点でプロデューサーだと言えますから、公立に勤めているとか、私立に勤めているとか、そういうことはあまり関係がないのです。

私立でも、新しい物を生み出そうという気がない方はいますし、
公立でも、起業家顔負けの行動力と決断力を発揮し、新しい価値を爆発的に生み出すプロデューサー的な人はいます。

制約が多い環境を前に「こんなの無理だ」と諦めるのではなくて、
もっと、こうしたプロデュサーの気概を持って、成果のために周囲の環境の方を動かそうとする人材が増えれば、日本の教育は少しずつでも動いていくのではないかと思います。

これは個人的な考えですが、こうした仕事を遂行するためには、現役教員がプロデューサーとして動くのではなくて、教育に関するプロデューサー専業の人を作った方が良いと思います。

民間企業出身の人を登用するのも流行っていますが、それよりは、
「教育学や公共政策学の学位を持っているけど、教員にはならずにプロデューサーとしての道を歩む人」
なんてのを育てる方が、いいのではないかな、と思います。

長くなってきたので、この辺にします。
プロデューサーのお仕事紹介、もうちょっとだけ続けるかも知れません。

以上、マイスターでした。

1 個のコメント

  • 初めまして。
    つたないブログを書いている者です。
    コンサルタントとプロデューサーの違いなど、読ませていただきました。
    本当は、全く違う言葉でひっかかったんですが、
    仕事上、お気に入りにも登録させていただきました。