若手職員とベテラン職員(1)

マイスターです。

大学職員の勉強会や交流会に参加して、皆様と意見交換をする機会がけっこうあります。
また、大学職員専用SNS「大学職員.network」で、皆様が書かれた日記やコメントを、毎日のように拝見しています。
自分の職場だけを見ていては知ることのない意見や想いを共有することができますので、こういった情報はとても貴重です。
 
マイスターはどちらかというと「若手」と呼ばれる方々(20代~30代前半)の意見を直接耳にすることが多いです。それも自分の大学を良くしたいと本気で考えていて、自ら積極的に勉強をしたり、情報発信をしたりしている、かなりアクティブな職員の皆様です。

(「安定した仕事に就けて良かった。あとは毎日、言われたとおりの仕事を定年まで続けていればいいやぁ」と考えるタイプの方は、そもそも業界の勉強会に出たり自分で意見を発信したりしないので、自然とアクティブな知り合いが増えるのです)

彼等の抱えているフラストレーションは相当なものです。
中堅以上の方のために、ちょっとご紹介してみましょう。

フラストレーションにも色々ありまして、例えば同僚に対するものですと、

「自分の職場では、(特に上の世代が)誰も本気で大学に対する危機感を抱いていない!」
「旧態依然とした合理的でないやり方を誰も改めようとしない!」
「目の前のルーチンワークをこなすばかりで、市場の状況を分析したり、戦略を考えたりということをしていない!」

という<誰も分かっていない系>の不満や、

「尊敬できる上司が誰もいない!」
「パートみたいな仕事で一千万円近く受け取りながら、それを当然だと思っている職員がいる!」
「経営に関することでも重要な判断はみんな教員にやらせていて、自分は対した意見も出せない!」

という<みんな無能だ系>の不満が代表的です。

このほかにも、

「自分のキャリアパスが見えない!」
「ウチの大学はこのままではつぶれる」

といった、自分の将来に関する不安も強いようです。

さらに、ちょっと高度になると

「提案をさせてもらえない。年功序列なので、若手は雑用的な仕事しかできない」
「企画を立ち上げたが、周囲につぶされそうだ」
「自分では何もしないくせに、こちらが何かやろうとすると、それを否定する意見を並べてくる」

といった<俺たちにも何かやらせてくれ系>の不満があります。

個人的には上記の中でも強く共感できる意見と、「そうかなぁ?」と思う意見があります。
「誰も分かっていない」「みんな無能だ」なんてのはどの業界、どの時代でもある程度存在する不満でしょうから置いておくとして、ただ、最後の「何かやらせてくれ」というのはちょっと気の毒だなと感じます。
マイスターは20代幹部も珍しくないweb業界の出身ですので、この辺りは業界の文化の違いが大きいのかなぁ、と想像します。

さて、こうした若手の不満に対しベテラン職員と呼ばれる方々からは、

「自分達は何でもできると思っているだろうが、そんなに甘くはない。身の程を知れ」
「10年早い」
「大学組織がどのように動いているのかよく知らないのにあれこれと意見を言ってくるが、現状を見ていない提案が多いので使えない」
「まずは現場で下積みをしろ、話はそれからだ」

……という批判やお叱りが、しばしば寄せられるようです。

(こういう方が全体として多いかどうかは分かりません。ベテランの方々で勉強会に出たりwebで意見を述べたりという方は若手に比べると少ないですから。
ただ、誰かからこういう意見が出ると「そうだそうだ」と共感するベテランがぱらぱら出てきたりします)

ベテランからの批判にも、確かにそうだよなぁと思える部分があります。
入社していきなり組織全体の戦略を提案してこられても、それは実態に基づいたものでない、実現の難しい内容の方が多いでしょう。そんな提案を見せられて、却下したら「上司達はわかっていない」と不満を持たれるのですから、こちらはこちらで大変です。
また、現代の若者特有の「全能感(っていうのかな?)」が苦手だという意見も耳にします。

マイスターが普段見ている限り、この両者の間の確執は、なかなか見過ごせないものがあります。

いつの時代でも世代間のカベというのはあるものですが、大学職員の場合、両者の置かれている環境があまりにも違いすぎるという点が確執を大きくしている原因の一つなんじゃないかと、マイスターは思います。

以下、ちょっと極端な見方ではありますが、話をわかりやすくするために申し上げますと……

現在のベテラン層と若手層との間で、生涯に受け取る賃金や生涯の労働時間、求められるスキルや知識を比較してみたら、どんな結果になるでしょうか。ベテラン層も決して楽してきたわけではないのでしょうが、それでも若手の方が、「苦労した割に報われない」労働環境に置かれると思います。それも、ちょっとやそっとではない格差がつくはずです。

例えば今の50代は、苦労して大学を下から支えてきた功績は賞賛に値しますが、「まだ苦労しがいがあった」という点では恵まれています。
一生尽くすという前提で、若いうちは下積みに専念できた世代です。

対して現在の20代は、おそらく今後どんどんボーナスが下がり、労働時間が増え、競争が激化していくという世代です。
下積みをすれば後で然るべきポストや給与がもらえるかというと、そうではありません。大学では今後、民間企業出身者を重要なポストに就ける人事が増えるでしょう。さらに他大学と合併したりすれば、その貴重なポストも減るでしょう。

「一生下積みに近い仕事を強要され、しかも生涯賃金はぱっとしない」という将来が、怖いくらいリアルに予想できてしまうのです。

年功序列・終身雇用は、給与が永遠に上昇していくという前提ではじめて成り立つモデルだとマイスターは思うのですが、既に前提が破綻しているのに、モデルだけは残ったままです。
そんなわけで、危機意識のある若手ほど「そうなる前になんとかしなければ」という想いを持っているのですが、年功序列なので、その仕事が与えられません。そりゃあ、フラストレーションもたまります。

仕事の価値とは、別に報酬の額だけで決まるものではありません。ただそれでも、このような違いが決して小さくないものであるのは確かです。

ベテランの方々は、

「もっと大学のことを知ってから意見を言え」

とおっしゃっているのですが、このようにベテランが経験してきた人生と、若手職員の今後の人生の目算が全然違っているものですから、どう考えたって話がかみ合いません。
ベテラン職員がこうした発言の際にイメージしているのは、これまで自分が送ってきた人生であり、それは年功序列・終身雇用モデルそのものです。

ですから若手の方は、「ちゃんと待遇をもらえる身が、上から偉そうに何を言うか」と、ますます反発しちゃったりします。
(つまり若手がベテランに対して不信感を抱く構造がはなっからあるわけで、そんなのを相手にしなければならないベテランの皆様もある意味気の毒です)

大学職員は、採用時にかなりの競争率になる、隠れた人気職業だと思います(もちろん、そうでない大学もあると思いますけれど)。
今、新卒で母校以外の職員になっている方には、本当に優秀な方が多数おられます。能力と、教育に対する熱意の両方を持ち合わせている方が多いです。
マイスターも「この人、この業界以外だったら今頃、若きリーダーとしてばりばり活躍しているだろうに」と思う方を何人も知っています。
そんな彼等が、民間企業に勤めている友人達と自分、あるいは二回り以上上の上司達と自分とを比較して、「下積みしろと言うけれど、本当に大丈夫かな……?」と将来を不安に思う気持ちは、マイスターにはよく分かります。

……っと、長くなってきたので、明日に続きます。

マイスターでした。