例によって、ホテルの部屋からお届けしています。
プロデューサーのお仕事をご紹介している途中ではありますが、日曜日になりましたので、恒例のニュースクリップをお送りします。
ようやく、ようやく実施される、実態調査です。
■「40年ぶり、教員の勤務実態調査へ」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060128ur21.htm
実施が遅すぎた、というのが、世間の見方ではないでしょうか。
以前本ブログの記事で、我が国の公立学校教員は諸外国に比べて勤務時間が長く、しかもそのうちのかなりが「授業をはじめとする、教育以外の業務」に割かれているというOECDの調査結果をご紹介しました。
・教育に対する投資の内容が、国によってこんなに違う!
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50081836.html
また、本ブログに寄せられる現役教員の方々のコメントでも、
実際には勤務時間が長く残業手当が付かないので金銭的に割に合わない、
厳しい現場の状況が世間に知られておらず、不当にバッシングされている、
と、そんな声をしばしば見かけました。
そういう意見を拝見するたびに、「国が全国的に調査をすればいいのに、なんでしないんだろう?」と個人的には不思議に思っていました。これをやらないことには、何も始まらないのに、と。
日教組が自ら実態調査をしていたとのことですが、その割にその結果があまり知られていないのは、労働組合が調査した結果なのでいまひとつ客観性に欠ける(と、世間は見る可能性がある)からでしょうか。
また超過勤務の実態を国自身が明らかにしてしまうと、残業代などを工面せざるを得なくなり、文教政策がまわらなくなる、という理由ももちろんあったことでしょう。
今回のこの報道について現役教員の方のブログを拝見すると、賛成意見と反対意見が両方見られます。
賛成意見の代表は、「情報をきちんとまとめ、世間に開示するのはいいこと」「実態を知ってもらういい機会になる」というもので、反対意見の代表は、「管理強化になる」「どうせまた、給与が高いというバッシングに使われるに違いない」というもの。現場の教員と文科省の間の相互不信は、そう簡単には埋まらないみたいです。
マイスターは、学校のマネジメントが破綻しかけている原因の一端は、他ならぬ教員の皆様自身にあると思っております。(もちろん、他の要因もいっぱいあります)
しかし一方で、OECDのデータをはじめ、「どうも教員は忙しすぎるらしい」ということも、本ブログでたびたび書いてきました。
今回の調査実施は、そうしたあれこれの論議の元となるる基礎データになるという点で、個人的には賛成です。それに国の調査結果であれば、今後、国際比較の材料として活用されることになりますしね。
回答拒否運動なんてのが起きないことを願います。
※ついでに言うと、文科省が今回の調査に踏み切った背景には、「小さな政府」を推進する内閣&総務省への牽制というのもあるんじゃないかと思います。
新しい市場を狙う、ソフトバンクのサイバー大学
■「サイバー大学設立申請へ ソフトバンクが運営会社」(神戸新聞)
http://www.kobe-np.co.jp/kyodonews/news/01027333kd200602062000.shtml
■「ソフトバンク、福岡にネット大学 07年春にも開学へ」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/SEB200601300009.html
ソフトバンクのネット大学、いよいよ開学に向けて本格始動のようです。
先日、「ソフトバンクが本気を出したら、第二の放送大学になる」と書きましたが、やはり、大いにあり得ると思っています。
最近、放送大学の中吊り広告をご覧になりましたか?
定年後とおぼしき高齢のご夫婦がモデルで、「二人の会話が増えたわね」がキャッチコピーです。
高齢者をターゲットにした教養教育に力を入れているのですね。
確かに放送大学の授業には、人文科学系の、結構シブイ科目が多いです。
ソフトバンクの設立する大学も、「世界遺産学部」のあたりに、そうした思惑の片鱗を感じます。
また「コンピュータ&ビジネス学部」も、一定年齢層以上の社会人をメインターゲットにしているようなフシがありますね。
いずれも普通に開設した場合、18歳がどどどーっと殺到するような学部にはならないでしょう。
既存の大学と競合するのではなくて、ソフトバンクはこれまで誰も狙わなかった(あったとしても非常に限られていた)ニッチな市場で戦おうとしているように思われます。
特に世界遺産学部には、ネット産業でしばしば見られる「ロングテール・ビジネスモデル」の発想を感じます。
・参考:「『ロングテール』を捕まえろ」
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50093005.html
こういう分野に興味を持っている人が全国に少しずつ分散して存在しており、従来型のキャンパス大学で相手をするには割が合わないけれど、ネットでそうした細かなニーズを拾い集めたらかなりの数になる、という発想です。
確かに、ソフトバンクがわざわざ、オンラインで文学部や経済学部を作ってもあまり意味はありませんし、既存の大学の顧客を奪えるとも思えません。
マーケティングリサーチをした結果なのだろうと思います。
この産業も、苦労があるみたいです。
■「Z会の増進会出版社、グループを統合」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/retto/20060131c3b3104w31.html
東大生のうち○人が使ってました式の売り文句で会員を集めてきたこの会社。
-個人情報の保護強化でダイレクトメールでの勧誘が難しくなるなど市場環境は厳しい。-
とのこと。こんなところで打撃を受けている企業があったのですね。
-「数学は対面、国語は通信、得意な英語は参考書(出版)のみ」などといった会員の実力に合わせた多彩なカリキュラムが提案できる体制を整える。 –
とのこと。ふむふむ。
「6 pockets + α」? 一層豪華になる子供への贈り物
■「ランドセルに高級化の波 7万5000円売り切れ」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200601270318.html
マイスターが子供の時は、みんな似たようなランドセルを持ってました。
見た目、品質的に大きな差がなく、良くも悪くも教室で「浮かない」ものを、世の親たちは選んでいたのだと思います。
でも今は、そんなランドセルにも差が付けられているようです。ぱっと見はあまり変わらなくても、友達のランドセルとで、価格に3倍以上の開きがあるなんてこと、起きそうです。
-入学祝いに祖父母が買うケースが従来多かったが、「30~40代の独身者が増え、おいやめいに買うケースも増えている」(高島屋)という。
電通消費者研究センター消費者研究室の四元正弘部長は「子供1人当たりの親類の大人が増えた割に、家族で集まる機会が減り、入学や卒業などお祝いでお金が集まるようになっている」と、高級化の背景を分析する。-
「6 pockets」と言って、両親とその双方の祖父母、計6人が、子供を金銭的に甘やかす現象がもうずいぶん前から指摘されていました。
でも、最近はこれに加えてなんと、「おじ、おば」も参戦している模様。
そう言えば、子供のいない独身の方で、おいやめいをかわいがる人が増えているという話、聞いたことがありました。こんなところに影響があったのですね。
これからはどうやら、「6 pockets + α」の時代のようです。
株式会社立のエリート学校が与えるインパクト
■「中学入試に変化の波 全寮制学校新設、公立志向の退潮・・・」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200601300110.html
全寮制の私立中高一貫男子校「海陽中等教育学校」が開校されることもあり、公立志向が根強い東海地方でも、中学受験熱が高まっているとのことです。
・海陽学園
http://www.kaiyo-gakuen.jp/
「海陽中等教育学校」、ご存じの方も多いと思います。
イギリスの名門貴族や王族が子弟を通わせる超名門寄宿学校「イートン校」をモデルにした、日本初の本格エリート養成学校です。
トヨタ自動車やJR東海、中部電力など、中部地方を代表する企業が設立するということでも話題を集めました。
これまで「自称エリート校」というのは目にしたことがありましたが、その多くは偏差値の高い子供を集めて受験対策授業を行い、東大への入学者数を増やすことを目的とするものでした。
またそうした学校で謳われる「全人教育」というものの中には、単に校則が多く生活指導が厳しいということだったり、体育会系の全学行事が多くあるという意味だったり、ひどい場合には学園創立者のお言葉を崇拝させる宗教スレスレの教育だったり、というケースもあったのではないかと思います。
海陽学園も、そうなる可能性は現段階では否定できませんが、当初から打ち出されていた様々なコンセプトを見ると、「本気だな」と感じさせるところがいくつかあります。
マイスターがこの学校のことを初めて知ったのは、まだプロデューサーとして働いていた頃でしたが、「この学校は絶対に伸びる!全寮制の中高一貫教育は今後も市場のニーズを集めて成功する!」と思ったのを覚えています。
「自分の子供がもしこの学校に入れるとして、さぁ、入れたいか…?」と考えた時に、入れたいかもと思えるなら、その学校は伸びます。
この学校はかなり特殊ですから、万人に受けるとは思えませんが、それでも確実に一定以上の人気を集めると思います。
NPOやボランティアが、学ぶ権利を支えています。
■「発達障害児の支援員、自前で養成 東京・港区」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200601300105.html
■「キャンパスに広がる『ノートテイク』」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060130ur02.htm
前者は、学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの子に勉強の手助けをする学習支援員を養成する、NPOの取り組み。港区と連携して、実際に学習支援員を区立の全小中学校の通常の学級に派遣できる体制をつくったとのことです。
・特定非営利活動法人 EDGE
http://www.npo-edge.jp/
後者は、聴覚障害を持った学生のために、ノートテイクを行うボランティアを養成する学生サークルの事例。
-東海大では2002年に、学生による「ノートテイクボランティアサークル」が発足。現在は大学院生で、聴覚障害を持つ太田琢磨さん(24)が中心となって学生ボランティアを募り、聴覚障害児教育を専門とする社会福祉学科の北野庸子教授が全面協力した。
03年度から大学の補助金を受け、外部の人も含めた勉強会を開くなど幅広い活動を展開。市民ボランティアもサークルに加わった。現在、ボランティアは15人程度で、市民、学生が半々。これまでに学生7人にノートテイクを提供してきた。 –
など、成果を上げています。
このように、国の政策に頼らずボトムアップで行動を起こし、かつ成果を上げる方々は、すばらしいですよね。マイスターもこうした方々を目標にしてがんばりたいと思います。
・参考:「ノートテイク入門講座」を受講できる大学
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50061417.html
授業でITを学ぶ、ITで授業を学ぶ
■「ネットの怖さ、小学生に指導 東京・三鷹」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200511040253.html
■「IT教育、ハード不足 PC普及率ワースト3位 埼玉」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200512150330.html
前者は、NPO「日本ガーディアン・エンジェルス」と、NEC社員のボランティア団体「サイバースターズ」のメンバーが講師となって、ITツールの利用マナーなどを小学六年生に教える試みを報じたもの。
・「インターネットは人を助ける – インターネットで犯罪を防ぐガーディアン・エンジェルスたち」(Microsoft)
http://www.microsoft.com/japan/essays/angels/
・「NECボランティアワールド | 楽しんでます、私のボランティア」(NEC)
http://www.nec.co.jp/community/v-world/enjoy/interview/nemoto_s.html
教育現場を支えるボランティア組織、こうした場面でも活躍してます。
そして後者は、埼玉のIT環境整備に関する批判…のようですが、ワースト1、2がなくて、3位の埼玉だけ責められるのはちょっと気の毒かも。
そこよりも、記事の最後、
「一見、ITに強そうな若い教員より年配の教員の方が、授業のイメージをしっかり描けてアイデアも豊富だ」
というこの一文をご紹介したかったので、取り上げました。
マイスター、かつて某企業の総合学習支援サイトのプロデュースを行っていたことがあり、そこに寄せられる教員の意見をいくつか読んだのですが、ほんと、この文章の通りです。
いくらITスキルがあっても、それを授業に活用するとなると、本来の教員としての力量が問われるのですね。
この話は、またおいおい機会があった時にでもご紹介します。
以上、今週のニュースクリップでした。
いま、全国の大学は、入試シーズン真っ最中です。
関係者の皆様は、志願者動向に一喜一憂しながら過ごしていると思います。
1年分の稼ぎを、ほぼこの1ヶ月で集めようというのだから、考えてみればかなり特殊なビジネスモデルですよね。
(正確には今後4年間の学費収入が、この1ヶ月間の結果に影響を受ける…)
ここまで来たら、受験生のみなさんが力を出し切れるように、精一杯こちらも力を尽くしましょうね。
というわけで、一週間、ありがとうございました。
来週も、どうぞよろしくお願いいたします。マイスターでした。