米軍基地内大学への「留学」

海外に留学したいなぁと考えたことが何度かあるマイスターです。

周囲に反対されたり、お金がなかったりして、結局いまのところ実現はしていません。
その代わりと言うわけではありませんが、外国で開催された建築デザインの国際ワークショップ(期間は一週間くらい)に参加したことはあります。
海外の学生と英語でディスカッションして作業を進めるなど、留学と(部分的に)似た体験はできましたが、やはり本当の留学とは違いますよね。
試験を受けたわけでもないし、単位を得たわけでもありませんし。

というか、今の世の中、「いつか留学したいなぁ」と思っているだけの人なら、山ほどいそうです。
留学を考える理由は、ひとそれぞれ。
外国語で専門課程を学ぶことに意味を見いだす人、ばりばりのディスカッションにまみれてたくましくなりたい人、日本で学べない分野の勉強をしたい人、経歴にハクを付けたい人…色々なタイプの人がいると思います。
いずれにしても、自分を変えたいという想いが、人を留学に誘うのかなと思います。

でも、そのうち実際に行く人はごくわずか。
目的があいまいで最後の踏ん切りが付かないとか、職を辞して海外に行く経済的余裕がないとか、日本を離れられない訳があるとか、やっぱり人それぞれ色々な理由があるのでしょうね。

色々とハードルの高い留学でありますが、実は、世間でほとんど知られていない留学方法があります。

○メリーランド大学
○セントラル・テキサス短期大学
○フェニックス大学院
○トロイ州立大学大学院
○オクラホマ大学大学院

などは、日本にいる私達でも、(うまくすると職を辞めずに)通うことができます。
通信学習ではありません、通学です。

え? どこに通うのかって?

それは、米軍基地の中ですよ。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「国内で“疑似”留学…三沢市・米軍基地内大学」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/challenge/ci_ch_05120101.htm

■「米軍基地で国内留学 ~基地内カレッジプログラムの紹介~」(米軍基地で国内留学)
http://gogobase.fc2web.com/
—————————————————————

米軍基地に駐留している米軍兵士には、家族を連れてきている方も少なくありません。
ですので、子供のために小学校から高校、大学、大学院まで基地内に備えているのですね。
基地内でなんでもできるようにする、というのがアメリカ式です。

「基地内大学」があるのは、
青森県(三沢)、神奈川県(横須賀、厚木、座間)、東京都(横田)、山口県(岩国)、長崎県(佐世保)、沖縄県です。

で、この大学や大学院の中に、日本人通学生を受け入れている学校があるということなのです。

※誤解がないよう先に申し上げておくと、あくまでこれはアメリカの大学であって、日本の大学とは違います。
日本の大学の基準ではなく、アメリカ国内の認証を受けて設立された教育を行っている学校ですので、設置のされ方からまったく異なっています。
したがって、卒業して得られるのはアメリカの学位であり、日本の学位ではありませんので、そこだけはご注意を。

でも、海を渡ることなくアメリカの正規の大学教育が受けられると考えれば、お得はお得です。

それだけではありません。
アメリカへ行き 現地の大学に進学する場合、学費は「International Student」という扱いとなり、かなりの額にのぼります。
アメリカの州立大学の多くは、州内の学生と外から来る学生とで学費が全然違うのです。4年間通ったら、それはもう大変な金額となるでしょう。

しかし、基地内の大学は国の防衛費により運営されていますので、アメリカ人学生と同じ料金で通うことができてしまうのです。

な、なんちゅー裏技だ!

しかし、本来はアメリカ軍関係者と、その家族のための大学です。
ですので当然、入学ではこうした軍関係者が優先されます。

その上で、定員にゆとりがあったときに日本人学生は受け入れられるというわけです。たいへん狭き門だと言えるでしょう。
(TOEFLの得点も、高いレベルが求められます)

それともう一つ。
いわゆる「キャンパスライフ」という雰囲気は、味わえないようです。
基地内の建物を利用して授業が行われていますし、空き時間に勝手に基地内をうろつくわけにもいきませんからね。
ほんとに、授業を受けるだけみたいですので、そこはご了承ください。

一番最初に日本人受け入れが認められたのは沖縄の基地です。
1987年8月25日、在沖縄米空軍嘉手納基地内メリーランド大学が、30人の日本人学生を受け入れました。

ただ、ネット上で調べた限り、受け入れに関する情報が最も充実していたのは、青森県三沢基地でした。
三沢の基地内大学については、受け入れを認めてもらうまでの経緯も含めて、詳細にネット上で情報が公開されております。
以下に、リンクをまとめておきますので、ご興味のある方はどうぞ。

【三沢基地内大学に関する情報】——————————————–

<基地内大学に関する情報>
■「三沢基地内大学就学協議会」
http://www.uni-misawa.jp/
■「三沢基地内大学」(三沢市)
http://www.net.pref.aomori.jp/misawa/inter_ex/univ/
■「三沢基地内大学就学事業」(青森県国際課)
http://www.pref.aomori.jp/kokusai/koho/misawa/

<受け入れまでの経緯に関する情報>
■「三沢基地内大学 青森県民就学実現への記録」
http://www.uni-misawa.jp/misawa-college/another-story/uni-story.htm

<日本人学生受け入れ窓口>
■「三沢基地内大学」(青い森みらい創造財団 国際交流課)
http://www.kokusai-koryu.jp/about/misawa.html
—————————————————————

地元行政機関のアピールが目立ちますが、
元々は、一人の県民の方が受け入れ許可のために奔走したおかげで、日本人にも基地内大学のプログラムが解放されたという経緯があるようです。
そうした経緯をまとめた「三沢基地内大学 青森県民就学実現への記録」は、なかなか興味深いレポートです。

同サイトに、こんな情報もありました。

-どのようにして沖縄県が基地大学への日本人入学を実現したのか、その詳細を入手するために朝日新聞むつ通信局・高原豊氏を介し沖縄県朝日新聞那覇支局へ質問書を送った。以下はその質問書に対する回答の要旨である。-(「三沢基地内大学 青森県民就学実現への記録」より)

と題して、以下のリンクが紹介されています。

「基地内大学と日米地位協定について」
http://www.uni-misawa.jp/misawa-college/another-story/87-09-25okinawa.htm

-一昨年(※1985年)の知事訪米の主目的は、在沖縄の米軍基地縮小の直訴でした。この訴えのなかにもぐりこませたのがミソで、基地の縮小は現状では無理とわかりきっているため、なにがしかの見返りが望める訪米だったわけです。当然基地内留学も見返りのひとつでした。-(上記リンク先より)

つまり、最初、米軍基地内の大学が日本人に開放されたのは、「基地に対する見返り」という政治的な取引の結果だった…ということになるのでしょうか。

真偽のほどはマイスターにはわかりませんが、あり得る話ではある…、とは思います。

経緯はどうあれ、日本人にもこれらの大学のプログラムが開かれているのは確か。

受け入れ可能な学生数はごくわずかですので、量的に、日本の大学の競合になることは現時点ではあまり考えられませんが、日本の大学関係者である私達は、普段から

「あの基地内の大学には負けていられるか!」

と思っておくと、いつか将来、日本の大学教育に海外の大学が本格参入してきた時の仮想シミュレーションになっていいかも。

最後に、三沢以外の基地内大学の情報で、見つけられたものをご紹介しておきます。

【その他の基地内大学に関する情報】——————————————–

■「平成17年度 在沖縄米軍施設・区域内大学就学者募集要項」(財団法人 沖縄県国際交流・人材育成財団)
http://www.oihf.or.jp/top/h17sisetunaidaigaku.pdf

■「チーム201とは」(日米親善友好協会)
http://homepage3.nifty.com/usjf/team201/team201.htm

■「基地内大学就学実行委員会の事務に関すること」(佐世保市 基地対策室)
http://www.city.sasebo.nagasaki.jp/cgi-bin/odb-get.exe?WIT_template=AC020000&WIT_oid=icityv2::Contents::1497
—————————————————————

というわけで今日は、世間的にあまり知られていない基地内大学の情報をご紹介しました。

なお、基地内大学とは違いますが、
レイクランド大学ジャパン・キャンパス」が、2005年12月15日付けで文部科学省より『外国大学の日本校』として正式に指定を受けました。
「日本校があるアメリカの私立大学としては初めてのこと」だそうです。

このように、アメリカの大学の学位を日本で得られる機会は、実はひそかに増えてきています。

学ぶ学生側にとっては、選択肢が増えることはメリットです。
日本の大学関係者にとっても、こうした従来とは異なる競合が世間的に認知度を高めていくことは、刺激になると思います。

「得られる学位が、アメリカと日本のもので違うんだから、競合じゃないさ」
なんて安心していてはいけませんよ。
大学業界に詳しいインテリの方ほど、こうした論理に埋もれがちであるように思いますが、実際の消費者のニーズは、そんな組織側の理屈には沿っていません。

例えば、
海外留学制度の充実度をウリにしている日本の大学と、
はなっから海外のカリキュラムで、アメリカ人と一緒に100%英語で学ぶ、アメリカの大学の日本キャンパスとは、お客さんから見たら十分に競合ですよね。
後者の方を魅力的と感じる方もいるでしょう。優秀な方がこぞって後者を選択するような時代がそのうち来るかもしれません。

ゆめゆめ、油断なさらぬよう。

以上、マイスターでした。

—————————————-
※先日、「大学の側に基地を作るのはどうかと思う」みたいな記事を書いたばかりですが、基地内の大学ってのは、安全的にどうなんでしょう?
その辺も、通われる方は念頭に入れておいた方がいいかもしれませんよ。

・沖縄国際大学 ヘリ墜落事故の現場
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50129665.html