授業アンケートのプライバシー VS 授業を向上させる責任(前編)

マイスターです。

今回はいつもと趣向を変え、前後編の2回に渡ってお送りします。
テーマは、「授業の責任って?」です。

まずは、こんなシチュエーションを思い描いてみてください。

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大学で、とある授業が行われています。
ひとつの授業なのですが、二人の教員が分担して受け持っています。
授業の前半はノホホン先生、後半はイカリ先生がそれぞれ教えるという授業です。
授業の代表者は、イカリ先生ということになっています。

さて、学期も半分が過ぎて、ノホホン先生の受け持ちパートは終わりました。
ノホホン先生は授業の終わりに、これまでの評価を学生に問おうと、授業アンケートを実施しました。

しかし授業アンケートは、「ひとつの授業につき一回分」しか用意されていませんでした。
ノホホン先生は、その一回分の授業アンケートを実施しました。

集められたアンケートは、封筒に密封され、集計係の元へと運ばれました。
ただ、封筒には、責任者であるイカリ先生の名前しか掲載されていませんでした。

かくして、アンケートの集計結果は、イカリ先生のもとへと届けられました。
イカリ先生は、まだ自分がアンケートを実施していないのに、自分の名前でアンケートが送られてきて、びっくりです。
イカリ先生はすぐ、「これはノホホン先生が実施したアンケートの結果だ」と気づき、事務担当者を叱りました。

「他人のアンケートを送るなんて、どういうことだ。
 これは、非常にプライベートな情報のはずだ。
 B先生にとって、プライバシーの重大な侵害だ。
 私達にとって、授業の評価結果というのは、自分の評価そのものなんだ。
 それを他人に見られることの重大さがわからないのか。
 こんなミスは許されない、訴えたっていいんだぞ!」

アンケートの担当者は平謝りです。

実は、もう何年もこの方式でアンケートは実施されていました。
そして、教員から希望があれば2セットのアンケートを用意することもできるようになっていたのです。

今回、イカリ先生達からは連絡がありませんでした。
それで、こうした事態になってしまったのでした。

後ほどイカリ先生に聞いてみたところ、「ノホホン先生とイカリ先生が、それぞれ1回ずつアンケートをやる」ということは、計画されていたことではありませんでした。
ノホホン先生は、たまたま自分の授業の最終日に、受け持ちの授業名のアンケートがあったので、それを実施しただけでした。
ですので、もしこうした出来事がなければ、イカリ先生は自分用のアンケートが用意されていないことに、授業最終日に初めて気づいたことになります。

イカリ先生は、

「各授業でアンケートが一回ずつ?
 そんなことは知らない!

 学生に、アンケートの実施回数などを説明したかどうか?
 そんなのノホホン先生の授業内のことだ、ワタシが知っているはずないだろう!
 ノホホン先生に聞けばいいじゃないか!」

と、完全にお怒りモード。
実際にはこの数年の間に、様々な形でイカリ先生は分担の科目を担当しているはずなので、アンケートのシステムについては知っているはずですが、「そんなのは知らん! そんなことより、プライバシーが…」ということで、結局この場は、アンケート実施担当者が平謝りしておさめました。

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…お話は以上です。

これはフィクションですが、似たような話は聞いたことがあります。
実際に自分の大学で起きないとも限らない、という意味で、ノンフィクションとしてとらえていただいても結構かなと思います。

さて、この話を読んで、みなさんはどんなことを感じたでしょうか?

やっぱり、

「このアンケート担当者は不注意だ」

でしょうか。

平謝りしてますもんねぇ。
イカリ先生のいう、「授業の評価を他人に見せるのはプライバシーの侵害だ」という主張も、もっともですよねぇ。
これはいけませんねぇ。

では、担当者はどうすればよかったのでしょうか?

「イカリ先生に、次回からは2回アンケートを実施する旨、あらかじめ連絡を入れてくれるようにお願いする」

でしょうか?
確かに、それが自然かも知れませんねぇ。

では、さっそくイカリ先生にそう言ってみましょう。

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「そうじゃないだろう!
 どの授業も、分担の教員の人数分、
 それぞれの分のアンケートをすべて用意しておくべきだろう!
 だって、それぞれが違う授業をやっているのだから、
 自分だけに対する評価がどうだったのかを知らないと、意味がないだろう!

 ワタシがいちいちその都度キミに連絡を入れるのではなくて、
 もっと抜本的に変えないとダメだろう!
 さっきから、言い訳ばっかりするんじゃない!
 こちらは問題点を指摘したんだから、素直に反映すべきじゃないのか!」

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あらら、アンケート担当者、また叱られちゃいました。
火に油でしたねぇ。
しかし、またしても、もっともなことを言われてしまいましたねぇ。
さすがは大学教員。

では、しょうがありません。

「今後はすべての授業で、分担の教員の人数分だけ、アンケートのセットを用意する」

ということにいたしましょう。
他の授業担当教員は、急にシステムが変わるのでビックリするでしょうが、イカリ先生が主張する理屈にも一理ある気がしますもんねぇ。

事務職員である担当者の権限では、こんな決定はできませんので、この提案を、毎年行われている、ファカルティ・ディベロップメント委員会に上げる準備を行うとしましょうか。

ただ、分担の科目は非常に数が多いですから、もし本当に分担の教員の人数分だけアンケートのセットを用意するとなると、準備が大変そうです。
これまで通りのスケジュールでは、集計まで実施できないかも知れませんねぇ。

もしかすると、「事務的に実施不可能」ということで、委員会でも否決されるかも知れませんが、そのときはそのとき。
その場合は、

「イカリ先生の授業については今後、担当者が前もって分担を分けておくようにする」

という最終手段があります。
これなら、誰に迷惑をかけることもありません。
いつかアンケート業務を後任に引き継ぐ時は、忘れないようにしっかり伝えましょうね。

しかし、担当者さん、叱られたけど、今回は勉強になりましたねぇ。
来年以降は、気を付けましょうねぇ。

めでたしめでたし。

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…という感じで、業務を行っている大学職員さん、いますか?
たぶん、大勢いますよねぇ。
実際にありそうですもんねぇ、こういうこと。

確かに、このアンケート担当者には、様々な責任があるでしょう。

でも、本当に、これで「めでたしめでたし」にしていいんでしょうか?

その他にも何か、引っかかるところがありませんか?

色々と、見過ごせない問題点が浮き出ているような気がしませんか?

…というわけで、前編は以上です。後編の記事は、明日、公開したいと思います。

後編では、上記のケースの「見過ごせない問題点」について、マイスターなりの考えを述べたいと思います。

その間、みなさんもぜひ「一体、何が問題なのか?自分ならどうするか?」ということを、ご自身で考えてみてください。
仕事の合間に考えると、楽しいんじゃないかと思います。
(これが今回の趣向です♪)
コメント欄やトラックバック等も、よろしければお使いくださいませ。

以上、明日をお楽しみに!のマイスターでした。

3 件のコメント

  • 初めまして。
    大学職員.net経由でこちらを拝見させていただきました。
    よろしくお願いします。
    私の所属大学がどうというのでなく、
    個人的見解としてコメントさせていただきます。
    引っかかるところですが、
    まず「授業アンケートはプライベートな問題か」
    と思います。私としては授業アンケートはビジネス上のものであり、
    プライベートやプライバシーとは全く関係ないと思います。
    あえて関係するとすれば、アンケートを記入した学生さんにとって、
    本人以外は見ないと聞いていたのに他の教員に見られたということ
    が問題になればプライバシーの問題が発生する可能性があるかと思います。

  • 次に「公的なアンケートを教員に実施させるのは妥当か」
    と思います。通常、予備校や英会話スクール等では
    職員が教員不在のところで抜き打ちでアンケートをとっていると思います。
    被評価者が評価の実施に関わるのはいかがなものでしょうか。
    細かく引っかかるところは他にも色々ありますが、
    大きく引っかかるところは上記の2点でしょうか。

  • シー様:
    マイスターです。
    せっかくコメントいただいたのに、お返事が遅くなり、大変失礼いたしました。
    私もシーさんと同じく、「教育サービスを提供するのが仕事」である以上、アンケートの内容を過度に教員同士で隠しあうのはどうかという考えです。
    教員のためにやっているのではなく、教育の質を一定以上のレベルに保つために、大学が組織として実施しているのが授業アンケートであり、そこには個人プライバシー等とは異なる論点があるのではないかと思います。
    教員本人がアンケートを行うのも、おっしゃるように、おかしなことですよね。
    こうしたことを見ていると、「アンケートは自分のもので、大学は関係ない」、という認識を持っている教員の方も、少なくないのかな、なんて感じます。