他大の経営破綻に備える放送大学

マイスターです。

大学関係者ブログの中で、興味深い記述を見つけました。

【今日の大学関連ニュース】
■「閉校した大学の学生を組織的に受け入れる!?」(N.IDEMITSU-Blog)

こちらのブログを執筆されている出光直樹氏は、大学業界では有名人。
大学職員としてキャリアを積まれ、大学から大学にヘッドハントなどされつつ、現在は横浜市立大学アドミッションズセンターで、「大学専門職(学務准教授)」として活躍されています。

アカデミックなキャリアと、アドミニストレーション分野での専門知識を備えた、まさに「大学アドミニストレーター」の先駆けの一人と言っていいでしょう。
(出光氏はもちろんですが、こういったポストを用意して人材を迎える横浜市立大学もすごいです)

さて、そんな出光氏の元に、放送大学から「放送大学 アクション・プラン 2008」というリーフレットが届いたそうです。
詳細については、リンク元のエントリーをご覧いただきたいのですが、そのリーフレットに、放送大学の今後の具体的なアクションプランとして、

(3) 他大学への教育サービスの拡充
他大学との単位互換制度を教養教育の充実のため一層推進し、同時にその実質化に努める。新設ないし既存の他大学の講義カリキュラムにおいて、人的およびその他の理由によって不足する科目群を、教養課程・専門課程・外国語等を問わず、その大学に提供し、それらの科目をとった学生を放送大学の学生としても受け入れる制度を作る。また近い将来において予想される、日本国内のいくつかの大学の経営破綻・閉校に際して、閉校した大学の学生を可能な限り本学学生として組織的に受け入れる。
(強調部分は出光氏による)

……という記述があったとのことです。

出光氏はこれについて、

放送大学は、1985年に学生募集を開始した当初は、放送エリア(すなわち対応エリア)が関東地方に限られていたものの、1990年以降より関東地方以外にも学習センターを設置して対応エリアの拡大をはかり、1998年にはCS放送による全国放送を開始してます。学部は教養学部のみですが、人文・社会・自然にわたる幅広い分野を有しています。
この点から見て、潰れた大学の学生の引き受け先として活用されるのではないかと思っておりましたが、その旨のことが放送大学の公式な文書にズバッと書かれていると、それなりに驚きであります。

(上記エントリーより)

……とコメントされています。

確かに、放送大学が、今から大学の経営破綻に「備えて」いるというのは、結構インパクトがある事実です。

放送大学のwebサイトによれば、同大の「趣旨・目的」は以下の通り。

【目的】
1. 生涯学習機関として、広く社会人に大学教育の機会を提供すること。
2. 新しい高等教育システムとして、今後の高等学校卒業者に対し、柔軟かつ流動的な 大学進学の機会を保障すること。
3. 広く大学関係者の協力を結集する教育機関として、既存の大学との連携協力を深め、最新の研究成果と教育技術を活用した新時代の大学教育を行うとともに、他大学との交流を深め単位互換の推進、教員交流の促進、放送教材活用の普及等により、わが国大学教育の改善に資すること。
(「設立の趣旨・目的」(放送大学)より)

経営破綻した大学の学生を受け入れる、という項目もいずれここに追加されることになるのか、あるいは上記のいずれかの項目に既にそういった意味合いが含まれているのかはわかりませんが、いずれにしても興味深い動きではあります。

万が一、大学が破綻した場合、財務など経営的な問題の処理に加え、学生の受け入れ先確保が課題になります。
仮に受け入れを表明する大学が現れたとしても、学問的な関連があるかどうか、単位互換がどの程度可能かなど、実務レベルでの複雑な作業が大量に発生すると思われます。

その点、放送大学は、出光氏が指摘しているように幅広い学問領域をカバーしていますし、またこれまでの歴史の中で、他大学で取得した単位を互換する実務的な流れなどについても豊富にノウハウを蓄積している(はず)。
緊急時の学生の受け皿としては、適しているのかも知れません。

もちろん、何でもかんでも放送大学というわけではなく、破綻した大学の近隣に、対応する学部学科を備えた大学が存在する場合など、様々な可能性を検討した上での選択肢の一つとして、ではありますけれど。

ここ数年、大学が破綻した場合の対処法に関する書籍やセミナーなどが増えてきたような気がします。

書籍でよく知られているのは↓こちら。

セミナーや、業界誌の記事のレベルでも、経営破綻時の財務処理や、大学業界でのM&Aなどをテーマにしたものを、見かけるようになってきたように思います。

経営破綻しないように改革・改善を繰り返している日本の大学ですが、その一方で、「破綻した場合」に備える動きも、水面下では静かに進んでいるわけです。

以上、マイスターでした。

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(ご参考まで)
★日本私立大学連盟が、「学校法人の経営困難回避策とクライシス・マネジメント」という報告書を2002年の段階でまとめています。
大学関係者からの批判も寄せられたりする報告書ですが、ご興味のある方はご覧になってみてください。

★学生受け入れの実例を紹介するものとして、↓こんな記事もあります。
■「大学再編 大学再生 (5) 廃校の学生 153人受け入れ」(読売オンライン)

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • どうもご無沙汰してます。この度は過分な紹介を頂き恐縮であります。
    さて、この「放送大学 アクション・プラン 2008」ですが、今年の年明け早々に、通常のニュースレターとともに届きました。ですので、放送大学に在籍している約8万人の方々の手元には届けられているのですが、Web上には公開されていないようです。
    ただ、各地の学習センターには配置されている様なので、そこから一般の方でも入手出来ると思います。