今日は、大学行政管理学会の例会に参加してきました。
朝日新聞論説委員で『大学ランキング』編集長、清水建宇氏の講演でした。
※大学ランキング本って色々ありますが、↓おなじみのこれです。
大学ランキング―日本で初の総合評価! (2005年版)
講演の題目は、「大学評価、これでいいのか」でした。
大学評価というと、アメリカの大学認証機関に倣った、認証制度が頭に浮かびます。
大学として合格か不合格か、を専門の機関から判定されるシステムですね。
いまや業界人なら、気にせずにはいられない仕組みでありましょう。
一方『大学ランキング』は、文字通り様々な分野での大学の位置づけを見るもの。
論文の引用数や女性教員の割合、教員一人あたりの学生数といったランキングから、スポーツ選手の輩出数、社長数などのランキング、果ては女性ファッション誌に登場する学生モデル数のランキングまで、あらゆる評価軸で大学を比較するものですよね。
大学認証制度も、大学ランキングも、世間の人のために大学を評価するという点は同じですが、その方法論はまるで異なります。
というわけで、そんな『大学ランキング』の編集長が、大学評価について語るというのに興味がありましたので、聞きに行ってきました。
講演の主旨は、一言で言えば、
<「大学評価」について、政府と、大学教職員の認識が違っている>
というものでした。
政府は、大学評価というものを、
「文科省のため」に、
「大学人」が、
「主観的に合否を認証」し、
「大学を事後評価する」ための仕組みであると認識している。
一方、大学の教職員は、
「(受験生や保護者、企業、大学OBなどの)ステークホルダー」のために、
「第三者」が、
「大学全体の中でのポジショニングを評価」し、
「(最終的には)受験生を集める」ための仕組みであると認識している。
そのため、大学人達が苦労して数百ページに及ぶ大学評価の報告書を作っても、作業量に見合うメリットを得られていない。
アメリカと違って日本では、「大学」を名乗っているのなら、それなりにまともな教育をしているのだろうという意識が、社会の側にはあるでしょう。
なら、社会の中のステークホルダー達にとって重要なのは、認証をとっているかどうかではなく、大学全体の中での「ポジショニング」なんじゃないか。
……というのが、講演の主旨でした。
(他にも様々なことを述べられていましたが、おおよそ骨子はこんなだったのではと思います)
上記の内容を見て、うんうんと力いっぱい頷かれる業界人の方は、少なくないのだろうと思います。
「これで社会が本学を、良い大学だと評価してくれるのなら」という想いがあるから、大学に勤める関係者達は認証評価を受け、報告書をまとめているわけですよね。
(マイスターは直接、大学の認証評価に関わったことはありませんが、その作業量は大変なものだと聞いています)
しかし現実には、認証評価報告書を読んで、「ほう、この大学は良い大学だなぁ」と大学を支持してくれているステークホルダーなんて、今は恐らくほとんどいないと思います。
※支持してくれるというのは、
○(受験生として)その大学を受験してくれる、
○(親や教師として)生徒に入学を勧めてくれる、
○(企業の採用担当者として)学生を実際に採用してくれる
……等のように、具体的な行動を伴う支持のことです。
もちろん認証評価を受けることは、大学の教育や研究の質を担保するという点でとても重要なことだと思います。今後は、特に重要になってくるでしょう。
ただその評価が今のところ、「ステークホルダー達のための評価」としては機能していないということでしょうか。
ステークホルダー達のためにと思って必死で評価を受けている大学の当事者達と、実際に評価結果を活用する人達との認識に、ズレがある状態なのだと思います。
講演では、『大学ランキング』のような、個々の指標で大学をランクづけた客観的なデータも、大学のポジショニングを示す情報として、ステークホルダー達のためには必要だという主張がなされていました。
ところで、マイスターは以前は企業の広報プランを外部の視点で立案するプロデューサーとして働いていましたから、こうした「認識のズレ」の存在には、なんだか実感があります。
「ステークホルダー達から、こういう風に見られたい! 我が社のここを評価してもらいたい!」と企業が思っていることと、実際に外部のステークホルダー達が見ているところは、大抵、違っているものです。
そこで企業は、その差を埋めるための試みを、熱心に行っています。
(そして広報プロデューサーは、それを外部からサポートするのが仕事です)
今ではほとんどの大企業のwebサイトには、環境報告書、社会活動報告書、社会貢献活動といった名称のコンテンツが用意されています。
企業が推し進めるエコ活動やボランティア活動、非営利団体の支援、その他直接的/間接的な様々な社会貢献活動についての情報をまとめたものですね。
(みなさまは、ご覧になったことがあるでしょうか? ぜひ、一度、見てみてください。)
ただ、こうしたコンテンツをせっかく作っても、それが徒労に終わってしまっては問題です。
何しろ大企業ともなれば、ものすごい労力を費やして、こうしたコンテンツを制作していますからね。まして、それ自体は直接利益に結びつかない行為ですので、制作する以上はせめて成果を最大限に活用したいわけです。
その結果、例えば、
○就職希望者向け「採用情報」のコンテンツの中に、環境活動報告書へのリンクをうまく織り交ぜたり(ついでに、環境対策をしている担当者達の働きぶりを紹介してみたり)、
○環境活動報告書の中の、環境成果に関する部分を、エコ対応製品の製品紹介ページにも掲載してみたり、
○株主・投資家向けコンテンツの中で、各種の社会貢献活動を紹介し、報告書の該当箇所にリンクを張ったり、
○報告書の内容をかみ砕いて説明するコラムや読み物を用意してみたり、
……といったことを行っています。
そもそも、報告書をPDFでしか用意していないなんてのは失格で、大抵は、報告書をもとにしたキレイで見やすいコンテンツを、ちゃんとhtmlで用意しているのです。
■「コクヨのエコロジー」(コクヨ)
http://www.kokuyo.co.jp/eco_ud/ecology/index.html
■「環境レポート」(ミツカングループ)
http://www.mizkan.co.jp/mind/ecology/
■「企業市民として」(コカコーラ)
http://www.cocacola.co.jp/corporate/activity/index.html
せっかく企業全体で社会貢献活動を行い、苦労してその情報を集め、膨大な報告書をまとめているのです。
だったらもう一歩踏み込んで、こうしてステークホルダーの皆様が見やすい形で表現して残してあげた方がいい。そうでないともったいない、という発想が、企業にはあるんじゃないかと思います。
正直、企業も、こうしたコンテンツにかけられる予算は潤沢ではありません。
本来なら、紙でまとめたレポートを、PDFにでもしてどこかに公開しておけば、一応、企業としての義務は果たしたことになるはずで、本当は、それで済ませたいという気持ちもあるでしょう。
それでもこのように、費用対効果を見ながら、限られた予算を使ってコンテンツの作成に取り組んでいるのです。
大学認証評価も、報告書をまとめるだけで終わらせるのではなく、ちゃんと手間とお金をかけてあげれば、このようにステークホルダー向けの充実した情報にできるのではないかという気が、個人的にはしています。
企業のPRコンテンツを調査、企画してきた身からすると、実のところ、大学関係者達も、大学評価を受けるだけで安心してしまい、その結果を最大限に活用しよう、社会に向けて発信しようという考えがないだけなんじゃないかなと、正直、感じなくもないわけです。
(認証自体はすっごく丁寧にやっているのに公開がPDFだけ。大学によっては冊子での配布のみ。なんと、せっかくの評価結果を公開していない大学もある……。
私の感覚からすると、あぁ、もったいない! なんでそれをもっと見やすく発信しないのっ!? 信じられない! という感じです。
分厚い評価報告書を大量に紙で印刷している大学ってあると思いますが、そんなの、何人も読まないんじゃないでしょうか。マイスターなら報告書はPDFを基本にして印刷部数を最低限に抑え、浮いた印刷コストで、ステークホルダー向けに内容をわかりやすく再構築した、キレイなwebコンテンツを作成します)
せっかくですから、苦労して受けた評価、活かしてあげてください。
大学業界には、そうした視点が欠けていると、マイスターは思います。
というわけで、大学が受ける「評価」と、評価結果の活用について考えた、マイスターでした。
私も常々、マイスターさんと同様に考えていました。
そんなところへ、実は4/1付で
「学園評価・戦略室」なる新設部署への異動となりました。
ぜひともこのBlogを参考にさせていただきたいと思います!