マイスターです。
大学は、学則規定によってかなり厳格に活動が統制された組織……ということに形式上はなっています。
ですが実際には、規定が死文化していたり、一般常識とかけ離れたおかしな慣習が「規定で禁止されていない」という理由でずっと続いていたりすることもあるようです。
今回も、こんな話題が報じられました。
【今日の大学関連ニュース】
■「東京医大で学位授受に謝礼金 相場は1人10万円 文科省に内部告発」(MSN産経ニュース)
東京医科大学(東京都新宿区)で、平成17~19年度に医学博士の学位論文の審査に携わった現職の教授33人が、この時期に博士号を取得した大学院生約220人から謝礼名目で現金を受け取っていたことが4日、分かった。審査する教授1人当たりに約10万円が渡されていたという。
東京医大は、文部科学省に寄せられた内部告発を受けて調査委員会を設置し、調査。先月初め、文科省に中間報告した。
文科省などによると、同大は17~19年度について、審査に当たった教授37人と博士号を取得した229人の院生から無記名のアンケートを実施。教授35人と大半の院生が現金の授受を認めたという。現金の授受がなかった学位取得者は約10人だけだった。
(上記記事より)
2008年、横浜市立大学において、同種の問題が大きく報じられたのは記憶に新しいところです。
■「学位取得の謝礼を受け取る 横浜市立大学」
公立大学法人である横浜市立大学と私立の東京医科大学とでは、法的に置かれている状況が異なるため、単純な比較はできません。
ただ横浜市立大学の問題が発覚した後、文部科学省が全国の国公私立、約420大学に対し、学位審査の透明性を確保し、厳正に行うようにという通知を出しています。
その後になって、内部告発を受けて初めて発覚した問題という点が、特に問題視されています。
上記の通り、229人の院生のうち現金の授受がなかった学位取得者は約10人だけという、大きな規模での「慣習」。
「東京医大は、文部科学省に寄せられた内部告発を受けて調査委員会を設置し、調査」とありますが、ここまで日常化した慣習なら、告発を受けるまでもなく主立った教員はほとんど全員知っていたはず。
その辺りの大学の対応に、批判が集まっているようです。
問題発覚の第一報が流れた後の大学側の回答にも、疑問を覚える箇所が少なくありません。
大学側は「各院生から担当教授に10万円を渡すのが相場だった」としているが、院生の半数以上の29人は「教授1人に20万円以上を渡した」と回答したという。
(「東京医大で学位謝礼金、院生から教授33人に現金」(読売オンライン)記事より。強調部分はマイスターによる)
文科省の通知は昨年3月19日、横浜市立大学で博士号の取得をめぐる現金授受が発覚したことを受けて、全国の国公私立大の学長あてに出された。「学位の国際的な通用性・信頼性を損なうことにもなりかねず、極めて重大な問題」とし、学位審査の透明化と通報・相談窓口の設置、関係者への周知を求めていた。
しかし、昨年4月以降に東京医大で博士号を得た複数の医局員は、朝日新聞の取材に対し、学位論文を審査してもらった教授3人に10万円ずつ現金を贈ったことを認めた。ある医局員は「学位授与の連絡を受けた後、10万円の入ったのし袋を、菓子箱と一緒に風呂敷で包んで教授に手渡した。教授は『おめでとう』と言って受け取った」などと話した。
東京医大によると、文科省からの通知の内容は、教授や大学院の学生に伝えなかったという。当時は学長の不在が1年半ほど続き、副学長が職務を代理していた。大学事務局は「早く学長を選出することに重点を置いていたため、学位への謝礼をそれほど問題にしていなかった」と話す。
対策がとられぬまま、昨年5月に文科省へ内部告発があり、同大は6月、教授と医局員らにアンケートを実施。だが、調べたのは05~07年度の授受のみで、08年度については調べなかった。また、謝礼の授受を処分対象にすると通告したのは昨年10月、臼井正彦学長の就任直後だった。
(「文科省通知後も学位謝礼の現金授受 東京医大」(Asahi.com)記事より。強調部分はマイスターによる)
教え子の学位論文の審査担当者を決める際に主任教授が関与するケースもあったが、こうした謝礼金授受について大学側は「審査への影響はなかった」としている。
東京医大の主任教授は、専門分野ごとに設けられた講座を代表し、医局員の研究を指導する役割を担う。一方、同大の学位に関する内規では、審査の厳正を期すため、医局員が提出した論文の審査に、所属講座の主任教授が携わることはできない。
最近数年間に同大で博士号を得た複数の医局員によると、学位授与の通知を受けた後、所属する講座の主任教授に謝礼金を渡すことが慣例となっていた。金額は講座によって幅があり、多くは20万~30万円という。
大学側は「指示してやらせたことはない」とするが、ある医局員は退職直前だった主任教授の秘書から「退官してしまうので早く持ってきて下さい」と催促されたという。
(「主任教授も教え子から現金 催促の電話も 東京医大」(Asahi.com)記事より。強調部分はマイスターによる)
様々な箇所で、大学側の回答と、メディアが卒業生などに取材した内容とが食い違っているようです。
もし仮に、大学側の回答が事実と違っているのだとしたら、虚偽の回答でその場しのぎ、責任逃れをしたということになりますので、社会からの視線はより厳しいものになるでしょう。
謝礼を受け取るという慣習自体よりも、こうした対応の仕方の方が危ういのではないかとすら、個人的には思えます。
大学には、外部の人間を入れた徹底調査を期待したいところですが、果たしてどうなるでしょうか。
理性の象徴であるはずの大学ですが、一方で、
「大学という組織には、自主的な浄化作用など望めない」
……という厳しい見方をする方も、大学関係者には少なくありません。
実際には、そんな大学ばかりではないと思いますが、今回の東京医科大学の報道は、真相次第で、そんな説を助長することになってしまうかもしれません。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
なぜこうしたことが問題視されるのか理解に苦しみます。これだめなら、大学入学後の寄付金や卒業後の寄付金もいけないということになりませんか?
>一言さん
李下に冠を正さずという言葉もありますし、感謝や慈善による寄付ならばそれ相応の手順を踏むべき、というのが、いま大学に求められている「透明性」というものなのでしょう。
>一言さん
大学ではなく審査を担当した教員「個人」に払われていること。また「支払わないと後々に影響が出る」と考える人が多く、実質的には半分強制に近い状態であったことなどだけを見ても、大学入学後の寄付金や卒業後の寄付金とは、まったく意味合いが異なるように思います。
もし大学入学後の寄付金が、各講義を担当する教員、あるいは入試の面接を担当した担当者などに、学生から直接支払われていたら、どうですか。しかも入学者の大半が、「払わないと何か問題があるのでは」と思っていたり、教員から催促が来るような状態が慣習になっているとしたら、どう思われますか。
本質的には、これと今回の出来事は同じだと思います。
そういった思考に至らないくらい、「慣習」というのは人の判断力を曇らせるということでしょう。
逆に、どうして大学入学後の寄付金や卒業後の寄付金と、今回のことが同じだと思うのか、ご意見をお聞かせいただきたいです。
「学位授与後」の謝礼金ということで、学位授与をちらつかせた便宜供与要求ということにはならないでしょうが、世間的に見て「おかしな慣習」であることは確かです。
とかく私立医大にかかるお金は桁違い。このような慣習は一刻でも早くなくすべきです。
役人が賄賂受け取るのとまったく一緒なのですが、それが当たり前の世界にどっぷり浸かっていると、脳みそもそうなるのでしょうね。
税金をビタ一文使わないこと、公的なオーソライズに一切関与しないことの2点が守られるのであれば、別に何をしていようと問題ではないと思いますが如何でしょうね。学位に関する問題なら後者には必ずひっかかりますが。