マイスターです。
先月の終わりに、文部科学省は2009年度国公立大学入試の実施概要を発表しました。
メディアの報道によれば、推薦入試やAO入試を実施する大学の数は昨年から増加し、過去最高になったそうです。
【今日の大学関連ニュース】
■「AO入試、国公立大の41%が実施 推薦は93%」(NIKKEI NET)
文部科学省は、2009年度の国公立大学入試の実施概要をまとめた。面接や論文などで選抜するAO(アドミッション・オフィス)入試を実施する大学は64校で全体の41%、推薦入試を実施するのは145校で93%に達し、いずれも過去最高を更新した。
新たにAO入試を実施するのは弘前大や奈良女子大、佐賀大など。一橋大など一部の大学では、入学者の学力不足などを理由にAOを取りやめる動きも出ているが、全体としての増加傾向は変わっていない。
(上記記事より)
というわけで、一部の大学で廃止の動きもあるものの、全体的には国公立大学でもAO入試、推薦入試の導入が進んでいるようです。
■AO入試の評価(1):AO入試を失敗させる大学
■AO入試の評価(2):AO入試でも学力試験を課すべき?
■AO入試の評価(3):AO入試を成功させるには?
今のところAO入試、推薦入試についての評価は人によって、また大学によって異なります。
こういった入試で、自校が求める人材を集めるのは、決して楽ではありません。
一般入試では、筆記試験の得点が高い順に合格を出していけばいいのですが、AO・推薦入試ではそうもいきません。また、合格を出せばそれで終わり、というわけにもいきません。
「自分達は、どんな人材を求めているのか?」
「それを、どのような評価方法で選抜しようとしているのか?」
「合格させた後、その人材をどのようなカリキュラムで育成させようとしているのか?」
……と、大学教育の本質に関わる様々な議論を行い、時間と労力をかけて選抜から教育までを行っていくことが必要になります。
大学にとっては大変な入試ですが、しかし、こういった入試だからこそ出会える優秀な人材層がいるのは確か。そこまでしてでも、そういった優秀な人材を入学させたいと考えるからこそ、各大学はAO入試や推薦入試を導入するのだと思います。
(もっと差し迫った状態の大学もありますが、とりあえずここでは置いておきましょう)
ただ高校によっては、大学がそのような意図で行っているAO入試や推薦入試を受験できない、あるいは受験することを許されない高校生がいるのは、ご存じでしょうか。
評定平均が足りないとか、
大学が求める選択科目を履修していないとか、
そういった、条件を満たしていない生徒のことではありません。
むしろ逆。
評定平均もバッチリで、
模試などでも高得点をたたき出す、
そんな、成績優秀な生徒達。
そう、「特進コース」とか、「難関大学進学クラス」とかいったクラスに在籍している生徒達のことです。
学校によって事情は全く異なるので一般化はできないのですが、こういった進学クラスの生徒に、AO入試や推薦入試(公募制、指定校制etc.)への出願を禁じる高校というのが、実はあるのです。
特に指定校制推薦枠への制限は顕著だとか。
あるいは、推薦への出願は認めつつ、「でもその代わり、必ずセンター試験を受けなさい」とか、「一般入試も受けなさい」などと指導するケースです。
理由は明らかで、高校の進学実績を伸ばすためです。
AO入試や推薦入試が、高校の教員に敬遠される理由には、大きく以下のようなものがあります。
●指導が面倒くさい、指導できない
(志望理由書の書き方やプレゼンの指導には手間がかかるし、そもそも指導できる教員が少ない)
●進学の和(?)を乱す
(早々と合格した生徒が、その後、進学に向けて頑張っているクラス全体の雰囲気を乱す。合格した生徒を、教員が勉強させられない)
●進学実績が増えない
(一般入試なら複数校の合格を出してくれる生徒が、たった1~2校で受験を終えてしまい、高校にとってうまみが少ない)
これらは、高校の関係者からしばしば聞くことです。
マイスターに言わせれば、上記のどれも学校側の都合から来るものであって、生徒本人のためを思っての指導ではありません。しかし実際に、こういう高校も存在するのです。
特に高校の教員が気にするのが、3番目の「進学実績」です。
「進学クラスの生徒が一般入試であげた実績をもとに、大学から指定校推薦枠を獲得する。
その推薦枠を、進学クラス以外の生徒が使う」
……なんていう「役割分担」を行っている高校もあります。
もちろん、そうやって進学した生徒が大学で活躍してくれれば問題はありません。
ただ最近は大学側も経営危機で、一人でも確実に入学者を集めたいと考えていますから、仮に入学後に伸び悩む入学者ばかりだったとしても、一度割り振った指定校推薦枠を、そう簡単には取り消さないでしょう。
高校側にとっては理想の分業ですが、大学側の意図とはかなりずれています。
「AO・推薦の出願は○校まで」
……のように、独自のルールを設けて、生徒の出願に制限をかける高校もあります。
大学の側はおそらく、こんなルールは願っていないでしょう。
大学側は、可能性があるならとにかく受験して欲しいと思っているのです。生徒も受験を希望しているのです。しかし、高校が、自分達の都合でそれを認めない。そんなことがあるわけです。
高校は大学以上に、少子化のアオリを受けており、入学者を集めるために進学実績を伸ばすことに必死です。そんな中で、上記のような様々な施策が打たれているのだろうと想像はできます。
ただ個人的には、このような指導方針には、やはり少々疑問を覚えます。
生徒本人の可能性を拡げるためとか、学びたいものを学ばせてあげるために最善を尽くすとかいった発想ではなく、ただただ高校側の都合でしかないように思えてなりません。
そもそもAOや推薦というのは、大学と本人とのマッチングを行う入試です。
就職活動と同じで、偏差値的に受かる、受からないが決まるわけではありません。本人に合っているかいないかが大事です。
ある大学からは、「君は本学には合わないね」と判断されても、別の大学からは大歓迎される、なんてことだってあり得るわけです。
それを、「AOと推薦は2校までしか受けちゃダメ」みたいに、高校の側で制限してしまっていいのでしょうか。
それにAO入試や推薦入試は、受験するプロセス自体が、自分に合った大学を探す絶好の機会でもあるのです。
大学のことを調べ、志望理由書や論文を書き、面接を行っていく過程の中で、「あ、自分はこういった分野に興味があったんだな」とか、「うーん、この大学に憧れていたけれど、あっちの大学の方が自分には向いているかも」とかいった発見をするはず。
結果的には回り道になることだってあるかも知れませんが、この過程には大きな意味があると、マイスターは思います。
上でご紹介したような制約は、そういった機会を、生徒から奪うことになっていないでしょうか。
生徒にとっても、大学にとっても、メリットはあまりなさそうです。個人的には、色々と考えてしまいます。
もちろん高校だって、やりたくてこんなことをやっているわけではないのでしょうけれど……うーん。
大学の中でも、入試業務に関わるスタッフはこういった実態をご存じかと思いますが、どのようにお考えなのでしょうか。
ところで余談になりますが、大学教員の方のブログでも、こういった実態についての意見が書かれていました。
直接高校の先生と話をして、初めてわかることがいろいろある。
最近知ったのは、センター試験受験必須+指定校推薦入試受験「禁止」というクラスを設けている学校があるということだ。指定校推薦だと秋には入学が内定するので、早めに安心を手に入れたい生徒たちはこぞって受けたがる。しかし、大学合格実績をあげたい高校側は、無名の学校に指定校推薦で入学するよりも、一般受験に臨んで有名な大学に入って欲しいと思う。そこで出てきたのが、「有名校進学クラス」みたいな名前のクラスに入ったら、指定校推薦という「退路」を一切断たせるというやり方だ。
AO入試や推薦入試で受かった生徒がいるために、受験勉強に集中するクラスの雰囲気が乱されるというのはよく聞く話で、同じ「若者管理職」として学習意欲増進に苦労していることは、痛いほどわかる。しかし、生徒の選択の自由を奪っているようにも思えるし、センター試験は受験料もかかるのだから、最後まで絶対受けろで押し通して良いものかどうか疑問もある。成績不振になって、このままでは浪人必至、だったら指定校で行けるところに行きたいと途中で思うようになる生徒はいるだろうと思う。
(上記記事より)
■高校訪問は、大学教員にとって「残酷」な仕事?
↑昨日の記事でも書きましたが、こうしたブログを拝見すると、やっぱり教員の方が高校訪問に行くって意味があることだなぁと思ったりします。
以上、AO・推薦を行う国公立大学が増えるという話題を読みながら、そんなことを考えたマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。