ニュースクリップ[-9/14] 「公立化も選択肢に 鳥取環境大改革検討委」ほか

マイスターです。

政権交代の話題を何気なく見ていたら、民主党議員の方の秘書のコメントが。

秘書は「選挙後、大学関係者が国の助成金の関係であいさつに来た。野党時代では考えられない業種だった」と目を丸くする。
「政権交代 悲喜こもごも」(読売オンライン)記事より)

議員の地元の大学の方による、陳情みたいなものでしょうか。
こんなところにも影響が出ているとは。

さて今日は、ここ一週間ほどの教育ニュースの中から、いくつかを選んでご紹介します。

【誰がための公立化?】
■「公立化も選択肢に 鳥取環境大改革検討委」(日本海新聞)

鳥取県と鳥取市による公設民営方式で2001年に開学した、鳥取環境大学。
その鳥取環境大学で、「公立化」も選択肢に含む改革が進められています。

同大は7~8月に県内の高校2年生と保護者、教員らに対し、同大の教育内容に関するアンケートを実施。
学科認知度を問う設問では、「知っている」とする割合は生徒が2%、保護者が3%と低い結果になった。同大が進学先の候補となるかどうかについては、生徒は66%が、保護者は55%が「候補とならない」と答えた。
(上記記事より)

大学が鳥取大学1校しかなかった鳥取県。そこで、地元進学の選択肢の拡大と、大学進学率の向上を狙って設立されたのが、鳥取環境大学です。
しかしふたを開けてみれば上記の通り、地元高校生にとっては大学の認知度も、進学先としての魅力も、残念な状況。
で、鳥取環境大学と行政、企業および地元の教育関係者などによって構成されている「鳥取環境大学・改革検討委員会」が、公立化を検討しているというわけです。

今後の運営方式では保護者・教員ともに48%が公立化を要望。新学科を設置する場合に希望する学科は、看護・福祉系学科が最も多かった。
委員会はこれらを踏まえ、▽設置形態は公立化についても選択肢に含む▽税金投入額と将来の経営見通しを検討▽地域に必要とされる大学の学科設置や改編-の3点について協議するという方向性をまとめた。
(上記記事より)

保護者や、高校教員が公立化を要望するのは、当たり前。
学費が安くなるのだから、鳥取環境大学に志望学部がある受験生のご家庭にとってはありがたい話でしょう。「国公立大学」への進学実績を伸ばせる高校側も大歓迎だろうと思います。
私立から公立大学法人になった高知工科大学がそうであったように、大幅な志願者増が見込めますから、大学関係者も助かります。
ついでに、「公設民営大学」にこれまで多額の税金を投入してきた行政や政治家の方々も、廃校の責任を市民から追及されずに済むでしょう。

こういったとき、以下のような2つの考え方が出てくるように思います。

【1】 地元から必要とされていない大学だとわかったのだから、余計な税金をつぎ込まずに廃校とするべきだ。
【2】 学費の高い私立大学だから進学してもらえないのだ。公立大学化し、地元のために大学を存続させるべきだ。

「鳥取環境大学・改革検討委員会」の方々は、【2】を前提にした改革案を検討されているようです。
ちなみに、↓反対意見も当然、出ています。

■「市政提案箱~市長への手紙(提案内容と市の考え方):2008.06.30 鳥取環境大学の改革検討委員会に関して 0820-A0080-001」(鳥取市)

本当に地域にとって必要な大学なら、公立化してもいいと個人的には思います。
ただ、これって巨額の税金を費やし続けるという話ですから、「当事者」だけで決めていい話ではありません。どこかのタイミングで、市民・県民に説明を尽くし、意見を問うことが必要なのだろうと思います。

(過去の関連記事)
・公設民営の名桜大学が、公立大学法人への移行を検討?

【バーチャル空間でオープンキャンパス。】
■「ネットに近大キャンパス 来月3日、学生との会話も」(産経関西)

近畿大学(大阪府東大阪市)は来月、インターネット上の仮想空間を利用した「バーチャルオープンキャンパス」を実施する。キャンパスを直接訪れることができない受験生に大学の魅力を伝え進学を検討してもらうのが目的で、同大学初の試み。職員や学生たちの「分身」が仮想空間内に散らばって参加者と触れ合い、「生の声」で大学の魅力をアピールする。
バーチャルオープンキャンパスには、野村総合研究所が開発した3D仮想空間ツール「サイトキューブ」を使用。参加者は「アバター」と呼ばれる「分身」を仮想空間内に置き、目的のアバターに近づいてチャットを通じた「立ち話」を行うことができる。
アバターで登場する大学職員には、入学センターに勤務するアテネ五輪男子競泳の銀メダリスト、山本貴司さんも参加。このほか、現役学生7人も加わり、受験生たちと会話を交わしながら大学のPRを行う。
(上記記事より)

一時期、アメリカの大学の間で、「Second Life」上にバーチャルキャンパスを開設する動きが流行したのですが、最近、この手の話題を聞かなくなって久しいです。

そんな中、上記のような記事が。
プレスリリースは以下になります。

■「プレスリリース:近畿大学、バーチャル・オープンキャンパスを開催-全国各地の受験生に”リアル”な大学体験を提供-9月10日(木)から参加受付を開始」(近畿大学)

野村総研が10年前から開発していた3D仮想空間ツールが使われるそうです。
このシステム、「遠隔地から参加できる」というのがポイントなのでしょうか。
ちなみにこのツール、6月には↓こんなリリースも出ていました。

■「プレスリリース:仮想空間を用いた新しい大学広報の実証実験を実施 ~ 3D仮想空間ツール「SITECUBE」を活用したオープンキャンパスを九州大学21世紀プログラムで実施 ~ 」(野村総合研究所)

何日も前から登録が必要で、実際の開催時間は土曜日の13時~14時に限定。
参加は先着100名に限られるなど、今回は実験的な位置づけなのかなという感じも。
実際にこれが、どの程度の広報効果を発揮するのかはわかりませんが……通常のオープンキャンパスと比べて、費用対効果はどのようになるでしょうか。

【数学参考書を点字に。】
■「『チャート式数学』完全点訳 筑波技術大、無料提供へ」(asahi.com)

市販されている中高生用の数学参考書の完全な点訳を、筑波技術大学(茨城県つくば市)の長岡英司教授(情報処理教育)らのグループが完成させた。全部で290巻、約2万2千ページに上る。これまで点字化が難しかったグラフや図も掲載しているのが特徴。数学参考書の完全な点訳は例がないという。
近く希望者に無料で提供を始める。視覚障害を乗り越えて進学を目指す中高生の大きな後押しになりそうだ。
(略)同大は視覚、聴覚障害者のための国立大学で、「数学を苦手に入学してくる学生が多い」(長岡教授)ことから、作成を思いついたという。
(上記記事より)

■「春日ニュース:中学・高校学年用数学参考書の点字版が完成しました」(筑波技術大学)

グラフや図の点字化は大変でしょう。
そのため、これまでは、視覚障害者の方がみっちり数学を学ぶための良質な参考書は限られていたかもしれません。
そういった意味では、様々な専門分野への進出をサポートする、非常に意義のある取り組みだと思います。

【大学のWebプレゼンスによるランキング。】
■「スペインの大学ランキング、米MITが1位,北京大は104位」(科学技術振興機構・ディリーウォッチャー)

スペイン教育部高等学術研究委員会は最新の「大学世界ランキング」を発表した。それによると、第1位は米国マサチューセッツ工大学(MIT)で、第2 位はハーバード大学、北京大学は第104位であった。ランキングは世界の大学17,000校を対象に作成された。
ランキングにおける重要指標は4つあり、そのうち、「Webサイト規模(GoogleやYahoo等で検索される大学の頁数)」、「Webサイト検索可視度(Yahoo検索のみを使用し、大学Webへの全リンク数を把握)」が主となる。その他、「データ量(学術出版に対する評価)」及び「研究者数(発表文献及び被引用文献)」も評価対象である。
(略)評価委員会によると、このランキングは大学の情報発信に係る積極性を重視し、Webからは多くの大学の科学技術出版物等が入手できることに着目しているという。委員会は大学の Webサイトへのアクセス率やサイト設計を単純に吟味するのではなく、Webサイトの世界へのインパクトを評価しているとされる。委員会委員は、他の大学ランキングは研究成果に偏重しているのに対し、Webサイトは研究者の成果を含む大学の様々な点が評価できる点で有効であるとの考えを示した。
中国の某専門家は、「このランキングは斬新な大学評価として評価できる。中国の大学は他の大学サイトを参考にしてその利便性を改善すべきだ。一方、現在の中国のWebサイトは対外的な「宣伝窓口」に過ぎず、このランキングは参考に過ぎない。すなわち、大学のWebには大学の研究及び教育ポテンシャルを表す内容は少なく、それ故、中国の大学はランキング下位にある」と解説している。
(上記記事より)

スペインの「National Research Council(CSIC)」の「Cybermetrics Labo(CINDOC)」が発表している、知る人ぞ知る大学ランキング。
各大学の、web上でのプレゼンスを大きな指標としている点が特徴です。
上記の記事は、今年の調査結果が発表されたことを報じる中国メディアの、日本語訳。

ちなみにランキングは、↓こちらから見ることができます。

■「World Universities’ ranking on the Web」(National Research Council, Cybermetrics Labo)

スペインのが発表する大学ランキングで、世界15,000の大学等を対象としています。
アジアの一位は東京大学でした。
だいたい上位に出てくる大学は、他のランキングの顔ぶれと似ていますが、「微妙に違う」のがポイント。
例えば国別のポイントでは日本が8位で、台湾が5位。台湾の大学がわりと上位に出てくるのは、英語での情報発信が強みを発揮しているのだろうかとか、色々と気づくことがありそうです。

「アラブの大学ランキング」、「オセアニアの大学ランキング」みたいなエリアごとの順位も、新鮮です。

【運用成績悪化。それでも……】
■「米ハーバードとエール大学の基金、運用成績悪化で昨年資産規模が約30%減少」(ロイター)

米ハーバード大学とエール大学は10日、運用成績の悪化に伴い、昨年基金の資産規模が30%近く減少したことを明らかにした。
6月30日時点でハーバード大学の基金規模は、前年から27.3%減少し、260億ドルだった。ただ、調査・コンサルティング会社ウィルシャー・アソシエーツによると、過去10年間、同様の基金の毎年のリターンが平均3.2%となるなか、同基金は平均で8.9%のリターンを確保している。
運用成績は過去40年で最悪となり、ハーバード大学は職員の解雇を進めるほか、敷地拡大の計画を中断している。
一方、エール大学の基金は6月30日時点で前年比30%減少し160億ドルとなった。
(上記記事より)

アメリカの大学、特にハーバードの基金運用の規模が他と比べてケタ違いであることは、よく知られています。ただ、そんなアメリカの大学も、世界的な不況の影響で運用益を落としています。
これは、以前の記事でもご紹介させていただきました。

(過去の関連記事)
・アメリカの有力大学も、資産運用で大きな損失
・経済の状況によって影響を受ける大学業界 (アメリカの場合)

「過去40年で最悪」の運用成績ということで、ハーバードも職員の解雇などを進めているとのことですが、それでも平均を遙かに上回るリターンを出しているってのが、さすがというか何というか。
逆に、普段、どれだけ莫大な投資を行い続けているのかってことですよね。
うーむ。

以上、ここしばらくのニュースクリップでした。

それでは今週も、お互いがんばりましょう。

マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。