マイスターです。
また、募集停止をした大学の事例がひとつ、増えてしまいました。
【今日の大学関連ニュース】
■「聖トマス大が学生募集停止 運営維持が困難と謝罪」(47NEWS)
兵庫県尼崎市の聖トマス大学は6日、入学志願者の減少を受け、来年度以降の学生募集を停止すると発表した。定員割れが続き、経営を続けるのは困難と判断した。
聖トマス大は家族などを亡くした「グリーフ(悲嘆)」を学ぶ公開講座を開設していることで知られ、尼崎JR脱線事故の遺族やJR西日本の社員らが受講している。
小田武彦学長は記者会見し「学生の教育を維持するために全力を注いできたが、力が及ばなかった。申し訳ない」と謝罪。学内の「日本グリーフケア研究所」については「優先して受け入れの法人を探すなどして、できる限り継続していく」と話した。
2000年度以降、ほぼ毎年定員割れになり、08、09年度は定員250人に対し入学者は半数以下。累積赤字が09年3月時点で約20億円あるという。在校生が卒業するまでは運営する一方、他大学との合併についても検討する。
(略)聖トマス大はカトリック系で、1963年に英知大学として開学し、07年に名称を変更した。学部、大学院合わせて568人が在学している。
(上記記事より)
今回、「募集停止」の報道くらいでは既にそれほど驚かなくなっている自分の感覚に、驚いてしまいました。
(過去の関連記事)
■三重中京大学、および短期大学部が募集停止
■東海大学開発工学部が募集停止
■皇學館大学社会福祉学部が募集停止・キャンパスも撤退
■ニュースクリップ[-5/24] 「学生募集を停止 松嶺福祉短大」ほか
■株式会社立のLCA大学院大学が募集停止
↑この通り、もはや珍しくもありません。
他大学との合併や、二部(夜間部)および特定学部・キャンパスの廃止などを含めたら、事例は相当の数になります。
だんだん麻痺してきて、「大学がつぶれるのは普通」という感覚になってきました。
神学部を持つカトリック系大学として1963年に開学した「英知大学」。
それが、聖トマス大学の前身です。
しかし、諸般の事情により、2008年度から校名を変更。
2007年1月の新聞は、その理由を以下のように報じています。
カトリック系の英知大学(兵庫県尼崎市、学生数850人)は08年度から、名称を「大阪聖トマス大学」と改めることを決めた。
62年の前身の短大設立以来、聖書にも出てくる「英知」を使ってきたが、「エッチ大」と学生がからかわれることや、インターネットで検索するとアダルト系雑誌の発売元の英知出版がヒットすることが学内で問題になっていた。担当者は「高校生が志望校をネットで検索する今、イメージは重要で、対応が必要と判断した」と話す。
(「もう『エッチ大』とは呼ばせない 英知大学が校名変更へ」(Asahi.com)2007.1.12記事より)
伝統ある校名を変えなければならないなんて大変だなぁ……くらいにこのときは感じていました。
しかしいま思うと、「受験生が集まらないのは、この校名のためなんじゃないか?」という議論が起こるくらい、学生が集まっていなかったのでしょう。
十分に学生が集まっていたなら、校名変更まではしなかったのではないかと思います。
現在、聖トマス大学のサイトは、トップページが「学生募集停止のお知らせ」になっています。
在学生向けのコンテンツを除き、他のページは既に閲覧できません。
■「聖トマス大学」
同じ宗派同士の合併としては、関西学院大学と聖和大学の例があります。
上智大学と聖母大学も、合併を発表しています。
(過去の関連記事)
上智大学と聖母大学が合併
私学においては、理念を共有できる相手であることが大事です。
冒頭の記事では、「大学との合併についても検討する」とありますが、同じ宗派の大学には打診をされているかもしれません。
ちなみに、聖トマス大学が加盟している「聖トマス・アクィナス大学国際協議会」には、日本ではもう一校、聖カタリナ大学が加盟されています。
前述したとおり、大学の募集停止は珍しくありません。
ただ今回は一点、気になるところがあります。
大学によると、募集定員250人に対し、入学者は08年度が78人、09年度が110人。08年度に幼稚園と小学校の教員免許を取得できる人間発達科学科を新設したが受験生離れは止まらず、09年度の入学者のうち日本人は65人で、海外からの留学生が4割を超えた。
(「兵庫の聖トマス大学が学生募集停止へ、閉校の可能性も」(Asahi.com)記事より。強調部分はマイスターによる)
聖トマス大学の2009年度入学者、つまりこの4月に入学された学生さんのうち4割が、留学生なのだそうです。
110人の入学者のうち日本人が65人だそうですから、単純に引き算したら45名。41%です。
かつて英知大学であった頃、留学生をどのくらい入学させていたのか存じ上げないので安易なことは言えませんが、
「日本人の学生を集められないから、留学生の誘致に力を入れた」
……という図式が、どうしてもアタマに浮かんでしまいます。
「萩国際大学」の事例を思い出す方もいるでしょう。
聖トマス・アクィナス大学国際協議会への加盟や、「聖トマス大学」への校名変更などにも、留学生を意識した一面があったかもしれません。
実際のところこの45名は、どのような学生なのか。
いったいどのように集められたのか。
今後、どのようなキャリアを築いていくのか。
そしてこの45名を祖国から送り出した方々は、この事態をどうとらえるのか。
そんなことを、ちょっと考えてしまいます。
日本では少子化が進んでいます。
日本人学生を集められない大学の中には、留学生の増加に力を入れるところも出てくるでしょう。
政府の留学生30万人計画も、それを後押ししています。
聖トマス大学がどうかはわかりませんが、
・日本人が集まらない
↓
・あわてて留学生を集める
↓
・結局、大学が廃校になる
……という事例が今後、たくさん出てくるかもしれません。
こうなるといずれ、日本の高等教育が、海外からの信頼感を失ってしまいます。
また、このようにして集められた留学生が、留学生のための確かな理念や教育システムに基づいて教育されるとは思えず、留学生に対する日本国内の評価を下げる結果になることも予想されます。
だからといって留学生を集めるなとは言えません。
ただ、海の向こうから留学生を集め、その信頼を裏切る結果になった場合、影響が自校だけに留まらないということは、大事なポイントなのではないかと思います。
以上、今回の記事を見て、そんなことを思ったマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。