マイスターです。
先週の報道ですので、ご覧になった方も多いかと思いますが、ご紹介しておきたいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「法科大学院定員 東大・京大が2割減へ 『質向上』狙う」(Asahi.com)
法科大学院の再編論が高まる中、東京大と京都大が、10年度から入学定員を2割削減することが明らかになった。文部科学省は74校ある大学院の総定員を絞り、全体の質を高めたい考えで、法曹界で実績のある両大学もこうした方針に沿う形で削減を決めた。他の国立大も同様の対応を取るとみられる。
(略)定員300人と全国で最も多い東大は来年度240人に減らす。井上正仁・法学政治学研究科長は「教育の質と効果を高めるため、カリキュラムの見直しなどと合わせて検討して決めた」。京大も同様の理由で200人から160人に減らす予定で、山本克己・法学研究科法曹養成専攻長は「大学院全体で合格率を上げる必要もある」と話した。定員削減は、大学の判断だが、文科省の指導もあった。
今回、国立の有力大が自ら削減することで、文科省は地方の国立大や私立大に、さらに削減や統合を促したい考えだ。各校が加盟する法科大学院協会幹部によると、23校ある国立大のほとんどが、1~3割の定員を削減する方針という。
(上記記事より)
法科大学院の定員を削減する流れについては、これまでの記事でもご紹介させていただきました。
(過去の関連記事)
■微妙なパブリックコメント
■法科大学院「適性試験」で、一律に入学者の足切りを実施するのは適切か?
■「Aが多すぎる」 大阪市立大学法科大学院の成績評価に、文部科学省が懸念?
■受験者減 揺れる法科大学院
■平成20年新司法試験の結果が明らかに 各法科大学院の合格率は?
新司法試験の合格率を7~8割にし、法曹人口の大幅な増加を図るというビジョンのもと、その人材育成の核になると謳われていた法科大学院。
しかし、各大学が競い合うように次々と法科大学院を設立したため、ふたを開けてみると、合格率は法学既習者のコースでも平均4~5割、法学未修者では3割程度という現状です。
政府側の目で言えば、「スタートの時点で計算が狂った」と言える法科大学院のシステム。
合格者が低迷する法科大学院から、統廃合や定員の削減などが少しずつ議論されてきました。
最近のものだけでも、↓こんな報道が。
■「北大、法科大学院の定員減を検討 10年度から1-2割」(北海道新聞)
■「修道大法科大学院の定員削減」(中国新聞)
■「信大が法科大学院の定員削減決定 規模は学長に一任 」(信濃毎日新聞)
そして冒頭の記事にあるとおり、今回、東京大学、京都大学の二校が政府の方針に合わせて定員を削減することにより、他大学も後に続くのではないかと見られています。
(各メディアがそう言い切っているあたり、改めて、この2大学が他に及ぼす影響力の大きさを感じます)
もともと以前から、多くの法科大学院が定員削減を検討しているということは報道されていましたが、今回の2校の動きにより、いっそう動きに拍車がかかるかもしれません。
ちなみにこの削減に関しては、
東京大の浜田純一学長は同日の記者会見で「法曹は我々の生活、権利、自由とかかわっておりクオリティーはしっかり保ちたい。法学部でも授業を持っている先生は相当疲弊している。このままでは教育の質を保てない」と説明した。
(■「法科大学院:東大と京大、来年度から定員削減へ 他校にも拡大か」(法科大学院)より)
……なんて報道も。
「教員の方々が疲弊しており、教育の質が保てない」という声は、これまであまり報道されていなかったように思います。
「司法試験合格率の維持」
「国の方針」
「教員の労務軽減」
……の3つが、定員削減の理由になるということでしょうか。
一方で、司法試験合格者数などで成果を上げている一部の私立大学法科大学院からは、反対意見もあがっている模様。
私立大には削減方針への温度差もあり、今後、総定員がどの程度になるか、不透明だ。 定員300人の早稲田大は11年度以降の削減を検討している。教務主任の古谷修一教授は「流れに抗しがたい」としながらも、「全体を減らすからという理由以外に、減らす理由はない。(削減規模は)国立並みは無理だろう」。同じ定員300人の中央大は削減を考えていない。福原紀彦・法務研究科長は「成果をあげているところも含めて一律に削減を求める発想は納得できない。文科省は、各校の実態を見て、教育の質を向上させる体制を整えるべきだ」と話す。
(「法科大学院定員 東大・京大が2割減へ 『質向上』狙う」(Asahi.com)記事より)
法科大学院開設のために、各大学ともかなりの投資をしていると思います。
教員(特に実務家教員)の確保にも苦労されたでしょう。
それでなくとも、コスト的に割が合わないという声も多い、法科大学院ですし。
成果をあげているにも関わらず、全国一律に扱われるのは心外だと考えるのも、理解できます。
ちなみに、ここに来て政府の側も、かなり直接的な削減方針を打ち出してきているように思います。
↓政府や議員のグループも、気を逃すまいと「提言」などを発表しているようです。
■「法科大学院『2倍割れなら定員削減』 中教審最終報告」(Asahi.com)
法科大学院の課題と改善点を話し合ってきた中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の特別委員会は17日、入学者の質を確保するための定員削減などを提言した最終報告をまとめた。
04年以降、74大学が開設した法科大学院は、乱立で入学者や修了者の質が議論になっていた。文科省は近く各校に報告を配り、定員削減を含めた対応を強く求める。
(上記記事より)
■「法科大学院で自民議連が『緊急提言』」(MSN産経ニュース)
法科大学院のあり方をめぐっては、元法相の高村正彦衆院議員を会長とする自民党の議連「法曹養成と法曹人口を考える国会議員の会」も17日、「緊急提言」をまとめ、法改正も目指し党司法制度調査会などへ申し入れすることを決めた。
(略)前法務副大臣で同会事務局長、河井克行衆院議員は「(法科大学院を中核とする法曹養成制度などは)幻想だった。一日も早くやめないと被害者が増えていく一方。最大の被害者は国民です」と話した。
(上記記事より)
法科大学院の設置認可を乱発したのは文部科学省で、法曹制度を進めたのは与党なんだけどなぁ……なんて、個人的にはこうした報道に、色々と疑問を覚えなくもありません。
率直に思うのですが、一連の司法改革は、改革しなければならない理由があるから進められたのではないでしょうか。法曹人口の拡大も含め、社会システムを変えようというくらいの理念が、当初は謳われていたと思います。
でも実際には、文部科学省と法務省の連携が取れていなかったり、「法曹人口拡大後」の社会のリアルな姿を政治家や行政、大学関係者や法曹界が十分には描き切れていなかったり。
多くの課題が明らかになってきました。
作られたばかりの新しいシステムが、完璧であるはずはありません。
問題があるから元に戻さないとダメだというのではなく、どうすれば問題点を解決し、昔の制度も現行の制度も越えた、より優れた仕組みにできるかを考えるべきではないでしょうか。
その方法の一つが、法科大学院の定員削減だというのなら、実行するのは仕方のないことかもしれません。
ただ、すべてを大学側だけの責任にするのは、おかしいことだと思います。
まして法科大学院には、それを信じて人生を賭ける決断をした方々が多く関わっているのです。
それを思えばなおさらのこと、改革の旗を振った政府や与党の方々には自身の責任や問題についても直視し、大学や法曹界の方々とともに、物事を前進させていく責任があるんじゃないかなぁ……なんて思ったりもするのです。
以上、法律については専門家でもなんでもないのですが、報道を見ながら、いち市民としてそんなことを思うマイスターでした。
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(※おまけ)
■微妙なパブリックコメント
↑中教審の提言も、「法曹養成と法曹人口を考える国会議員の会」の提言も、17日に発表されていますが、もしかして無茶なスケジュールのパブリックコメントは、これらに間に合わせるためだったのでしょうか……?
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。