マイスターです。
大学院選びでは、「どんな教員が在籍しているのか」を気にする人が多いと思いますが、学部への進学においては一般的に、あまり教員名が気にされていないようです。
身近な高校生に、「どの大学が第一志望なの?」と聞いた後、「じゃあ、その大学にはどんな教授がいるの?」とたずねてみてください。答えられない人が結構、いると思います。
研究室に入って研究指導を受ける大学院課程では、教員が重要であることは言うまでもありません。
では、学部段階では大学院ほど教員が重要ではないかというと、実際にはそうでもなかったりするのですが、なぜかあまり注目されないのが、教員情報です。
一体、どうしてでしょうか。
・高校や予備校の進路指導担当者が、受験生に対して教員のことをあまり詳細に語れない
・もしくは併願を山ほどさせるために、「同じような学科なら、どこも同じような内容だよ」と、敢えて教員の違いを語らないでいる。
・大学が、特定の教員を売り込むような広報をあまりしていない。どの教員も平等に露出させるよう、学内のために「配慮」している。
……などなど色々な理由が思い浮かびますが、どれもありそうな気がします。
いずれにしても、受験生に、教員の情報が十分には届いていない、ということはあるような気がします。
ちなみに早稲田塾では「教授で大学を選ぶ」ことを提唱し、出願校決定の場でも教授名をバンバン出したりしていますが、これはかなり珍しいケースではないでしょうか。
(過去の関連記事)
■大学の教育・研究内容をもとに進学指導する塾 (読売新聞「教育ルネサンス」で紹介されました)
↓そんなことを考えたのは、こんな報道を見かけたからです。
【今日の大学関連ニュース】
■「大学入試:京産大、益川効果で志願者増 物理学科は2.4倍 /京都」(毎日jp)
京都産業大(北区)の09年度一般入試(前期日程)の志願者数が最近10年間で最多となったことが26日、同大学の集計で分かった。益川敏英教授(68)のノーベル物理学賞受賞効果で増加は予想されていたが、同大学入学センターは「効果は予想以上。全体的に増えたのは、益川教授の人柄による大学のイメージアップも影響したのでは」と驚いている。
センターによると、志願者数は00年度以降、2万人を割り込んでいたが、09年度は2万1012人(前年度1万6027人)と1・3倍に増加。中でも益川教授が教える理学部物理科学科は658人(同276人)と約2・4倍に跳ね上がった。他にも工学部648人(同432人)、コンピュータ理工学部1131人(同723人)と理系は大幅に増加した。
(上記記事より)
昨年、ノーベル物理学賞を受賞された益川敏英・京都産業大学教授。
日本中が沸きました。
研究成果に加え、飾りのない振る舞いはメディアによって「益川節」と表現されるなど、教授の人柄もかなり紹介されていたように思います。
そんな益川教授が在籍されている京都産業大学で、上記のような現象が起こっているそうです。
■「『益川効果』で京産大3割超増 京滋の私立大志願状況まとめ」(京都新聞)
■「『関関同立』5年で定員1935人増…中堅大など危機感 」(読売オンライン)
他の大学と比較しても、この現象は明らかに「ノーベル賞効果」である模様。
以前から、受賞による好影響は予想されていたそうですが、大学側の想像を上回る結果になったようです。
関西では、「関関同立」と呼ばれる有力私大が定員を大幅に拡張し、他の大学が戦々恐々としている状況なのですが、それにもかかわらずの大幅増に、関係者も驚いたことでしょう。
京都産業大学は、来年3月末に定年を迎える予定だった益川教授を、定年のない「終身教授」として新たに迎えるとともに、若手研究者を育成する「京都産業大学益川塾」を設立と発表しました。
益川教授は、塾頭に就任されるとのこと。
もちろん上記の志願者増だけが理由ではないでしょうが、全く関係ないわけでもないと思われます。
どうせなら世界中に名を知られている研究者のいるところで学びたい、と考えるのは、学生にとってはとても自然なことでしょう。
それに、世界的に評価が高い研究者であるのなら、そこから何かを吸収しようと、他にも多くの優秀な人材が集っているはず。
京都産業大学の人気ぶりは、そんな「人」の環境に魅力を感じる受験生が、学部段階でも少なくないということなのでしょう。
だって、世間的な聞こえの良さやキャンパスのキレイさ、資格の合格率、就職率などだけしか見ずに進学先を選んでいるのだとしたら、ノーベル賞なんて関係ないはずですから。
そういう意味では、学部の入試でも、大学が思っている以上に「人」に期待している受験生はいるのだろうと思います。
個人的には、こうした動きが「ノーベル賞受賞者」だけで起こっているということを、少しもったいなく思います。
「ノーベル賞授業」のインパクトは、やはり世間的には大変なもの。
受験生でなくても、受賞者の名前くらいは耳にするでしょう。広告効果的には最高です。
ただその他にも画期的な研究はたくさんありますし、世界中から注目されている研究者はいます。
世界中に影響を与える研究成果を次々に出しているチームもありますし、キラ星のような人材が集っている研究室もあるはずです。
そういった方の「すごさ」にうまくスポットを当てることで、
「そうか、知らなかったけど、そんなにスゴイ人がここにいるのか!」
……と気づく受験生もいると思うのですが、メディアも大学も、今ひとつ乗り気ではないのかな? と感じることが少なくありません。
日本のマスメディアは、科学研究に関する重要な成果を普段ほとんど報じないのに、「ノーベル賞」となると、行き過ぎなくらいの過熱報道を行います。
最初こそ研究内容に触れますが、すぐに受賞者のキャラクターにフォーカスが行きがち。
化学賞を受賞された島津製作所の田中耕一氏も、そうでした。
そんな日本のマスメディアの報道レベルを、いわゆる有識者の方々は憂慮しておられるようですが、しかし考えてみれば、大学の広報活動も似たり寄ったりです。
パンフレットやウェブサイトで研究者を紹介するときは、各学科から一人ずつ、ローテーションのように持ち回り。
突出した「すごさ」は控えめに表現され、なんて言うか、大学内のバランスが崩れないように配慮されているかのように感じさせるケースが少なくありません。
理工系などを中心に、研究・開発の成果をPRしたり、教授の言葉を積極的にパンフレットやウェブサイトで取り上げたりする大学も増えてきてはいますが、ほとんど情報を出さないところは本当に事務的です。
それこそ、「ノーベル賞でも取らない限り特別扱いしない」という暗黙のルールなどがあるのかも知れません。
「大学の学び=与えられた授業に出て単位を取ること」だと思っている人にとっては、どんな教授がいるかはあまり問題ではないかもしれません。
でも、他にない知的刺激を期待している人や、自ら追究したい何かを持っている(または、持ちたいと思っている)人にとっては、どんな教員がいる大学なのかは重要。
実は学部の受験においても、教員のことを知りたいと思い、ウェブサイトを熱心に見ている受験生層が潜在的にいると思います。
そんな方々への対応方法、ぜひ各大学で考えてみてください。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。