駒澤大学 資産運用失敗の責任で理事長を解任

マイスターです。

■駒澤大学 資産運用失敗で154億円の損失
■【セミナーのご紹介】 「大学法人資金運用のリスク管理と説明責任」
■アメリカの有力大学も、資産運用で大きな損失

↑先日ご紹介した、駒澤大学の資産運用に関するニュース。
その後、立正大学や慶應義塾大学、早稲田大学、札幌大学、南山大学、愛知大学などなど、現時点での含み損も含め、資産運用でダメージを受けている大学が次々に報道されました。

この駒澤大学に関して、さらにこんな報道がありましたので、ご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「駒大、理事長を解任 資産運用で154億円損失」(Asahi.com)

駒沢大学(東京都世田谷区)が資産運用で始めたデリバティブ取引で約154億円の損失を出した問題で、同大は18日、臨時理事会を開き、宮本延雄理事長を解任した。巨額の損失を出した経営責任を問われた。また、総長、学長ら4人の常任理事も辞意を表明した。
大学の資産の運用に関する失敗で、トップが解任される事態は、極めて異例だ。
駒大は損失穴埋めのため、キャンパスの土地建物や、野球部のグラウンドを担保に110億円の銀行融資も受けている。デリバティブ取引は理事会も了承したうえで行われており、大学側は先月17日に外部の弁護士をトップにした調査委員会を設置し、関係者から取引の経緯などを聞いていた。
理事会関係者によると、今月16日付でまとまった調査委の報告書は、22人の理事のうち、理事長と、4人の常任理事の責任を「解任相当」と指摘。報告書を受けて開かれた18日の臨時理事会で理事長の解任手続きが取られた。宮本理事長は「損失を出す結果になって申し訳なく思っている」と話した。
常任理事らも辞意を表明したが、「入試などを控えた時期に、学校法人の役員や、大学のトップが多数不在になるのは避けるべきだ」との判断から、当面留任することになった。ただ、入試や卒業式などが終わった後、任期途中で辞任する考えという。理事長代行は、常任理事でもある大谷哲夫総長が当面務めることになった。報告書は近く、文部科学省に提出する。
このほか、理事会では、取引相手の外資系金融機関側を提訴すべきだという意見が出され、議論されたという。
(上記記事より)

資産運用の失敗で大学の理事長が責任を追及され、解任されるというのは、確かにあまり聞いたことがありません。常任理事の方々も辞意を表明しているとのことです。

学園の経営を担うのが理事会であり、理事長はその責任者ですから、経営に大きな損失を出したのであれば、解任・辞任というのも不自然ではありません。
デリバティブ取引は理事会も了承したうえで行われていたとのことですし。
大企業などであれば、トップ交代が当然、といったところなのでしょう。

ある意味、ガバナンスが正常に作用しているということで、この解任・辞任を評価する向きもあるでしょう。

取引相手の金融機関を提訴するというのも、わかる話です。
マイスターはそのあたりのルールに詳しくないのですが、例えば11月20日付けで、↓こんな記事がアップされておりました。

■「駒沢大学デリバティブ取引多額損失の責任」(専門家に聞く [All About プロファイル])

実際、責任は誰にあるのでしょうか。
理事会で決議された取引だということですから、駒大経営者に責任があったことは確かです。問題は、取引相手となった外資系金融機関に責任はあるのかという点と文部科学省には責任はないのかという点です。
【文部科学省の責任】
大学経営の自治を考慮すると、文部科学省には責任はなさそうです。実際、文部科学省が、私立大学の資産運用方法に口を挟むのは問題でしょう。口も挟まなければ、責任も取らないのが文部科学省の正しい姿勢だと思います。
【外資系金融機関の責任】
取引相手となった外資系金融機関の責任はどうでしょうか。「適合性の原則」と「説明義務」の2つの観点から、検討されるべきでしょう。
(略)駒大の経営者の中には、デリバティブ取引どころか、金融商品について詳しい知識を持った人がいないということです。この報道が事実であれば、外資系金融機関の責任は免れないと私は考えています。
(上記記事より)

詳しくは、元記事の方をご覧ください。
この記事を書かれた方は、金融機関側にも責任があるのでは、という見解を述べられているようです。
なるほど。

こうなると、多くの方が考えるのは、
「同じように多くの損失を出した他の大学でも、トップの交代が起こるのだろうか」
ということでしょう。

さっそく、

駒沢大学(東京・世田谷)の宮本延雄理事長が、デリバティブ(金融派生商品)資産運用で約154億円の巨額損失を出し、解任に追い込まれていたことが19日までに明らかになった。18日の臨時理事会で決議された。学長ら4人の常任理事も辞意を表明しており、今回の経営責任追及が、同様に巨額損失を計上した他大学の経営にも影響を及ぼすのは必至とみられる。
「駒大が理事長“解任”…デリバティブで154億円損失 慶応、立正…各私大も巨額損」(ZAKZAK)記事より)

……といったトーンの記事も出ておりました。

駒澤大学のように、既に明確に損失を計上しているケースと、「運用中の資産がマイナス評価になっており、含み損が発生している状態ではあるものの、これから上がるかも知れないし、何とも言えない」というケースとでは、状況が異なりますので、同じように扱うことはできないと思います。
とはいえ、業界に与える影響は、ありそうです。

ちなみに、上記の記事には、↓こんなコメントも掲載されています。

なぜ、私大経営者はこうした金融取引に手を出すのか。経済評論家の高木勝・明大教授(現代経済学)は「私大は春先にかけて受験料、入学金、授業料と膨大な現金が自動的に入る。しかも、それらはすぐに活用する必要がない『余資』。少子化の影響で今後の経営環境が暗い中、少しでも有利な資金運用で体力をつけたいと考えている」と解説する。
ただ、「資産運用に責任を持つ理事らは、金融商品の本質を理解する経営学や経済学の教授の意見に耳を貸さず、貸し手である金融機関の言いなり。金融機関にとっても、私大はキャッシュフローが安定し担保も優良。取り扱う金額ロットも大きいうえに自分たちの売りたい商品を買ってくれることから超優良融資先になっている」とも言う。
急激な損失や評価損で経営危機に陥る大学は他にも急増しており、全国約650の大学・短期大学のうち75大学にも及ぶという。「今後さらに増え続け、地方では破綻する私大も出るだろう」(高木氏)。
(上記記事より)

今後は理事会も、経済学の教授に意見を求めるようになったりするのでしょうか。
経済学の研究者で、「なんだか最近急に、理事がよく話しかけてくるようになった」という方がいらしたら、コメントをいただければと思います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • 私大の財務担当理事は銀行出身者が多いようです。札幌大も確かそうだったのでは。そして経営(主に財務基盤)を立て直したのも、その方だったと聞いています。私の知っている範囲では、銀行出身の理事は、資金を極めて保守的に運用する傾向があるようです。今般話題となっている大学は、それを許さない経営状態、あるいは悲観的な将来見通しがあっての、無理な運用計画があったのかもしれません。
    しかし、巨額損失額といわれているものは、これまでの高配当額を差し引いていないのではないでしょうか。つまり、ある程度先に喰っちゃっている部分があるだろうということ。これは報道されないのが常です。
    引用されている記事に『金融商品の本質を理解する経営学や経済学の教授の意見に耳を貸さず、貸し手である金融機関の言いなり・・・』とありました。記者と言うのはよくよく物事を考えず浅薄なことを書き飛ばすものですね。そんなもん聞いてどうするんだ!?大学教授に金融商品の本質を聞かなくても、損もすれば得もするのが金融商品だということぐらいは知っている。トンチンカンな記事だと思います。
    むしろ、教授出身の理事が財務担当理事に(資金を活用して利益を上げろ)くらいのプレッシャーをかけたんじゃないか、とさえ想像してしまいます。

  • 理事長の解任は致し方ないと思うが、言い方を変えれば、解任で解決するとも言える。
    企業であれば、経営のトップは私財をなげうってでも、損失を補填しなければならない。
    しかし、学校法人のトップは、失敗したら辞めればいいぐらいにしか考えないから、善し悪しは別にして、あまり深く考えずに行動をする場合が多い。
    今後はもっと理事会に強く責任を求めることも必要であろう。