マイスターです。
・問われている、今後の大学入試のあり方(2006年11月23日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50264795.html
↑以前、岐阜大学を中心に始まった「大学入試過去問題活用宣言」の動きについてご紹介しました。
このときは17大学でしたが、いつの間にか、参加大学が増えていたようです。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「『過去問』再利用へ 全国66大学が来春入試から」(SankeiWEB)
http://www.sankei.co.jp/kyouiku/kyouiku/070518/kik070518000.htm
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東京学芸大や順天堂大など全国66大学が来春入試から、過去に他の大学で出題された入試問題を再び出題する方針を決めた。毎年新たな問題を作成しなければならない負担を軽減するとともに、良質な過去問を活用するのが狙い。他大学の過去問の“再利用”はこれまで重大な信義則違反とみられる傾向が強かっただけに、66大学の取り組みに注目が集まりそうだ。
過去問を再利用するのは両大のほか、お茶の水女子大、横浜国大、名古屋市大など国公立33大学と桜美林大、東京農大、日本医科大など私立33大学。
これらの大学は「過去問活用宣言」を行い、(1)宣言を行った大学の入試問題を「共有財産」と位置づけ、相互に使用を認める(2)そのまま使用することも、一部改変して使用することもできる(3)使用した過去問は入試後に受験生に公表する-こととした。
(上記記事より)
なんと66校!
参加を積極的に呼びかけているにしても、すごい増え方です。「過去問題再利用」が、大学にとってどれだけ魅力的な提案だったか想像がつきます。
では、その「魅力」というのは、どのあたりにあるのでしょうか。
国立大の入試関係者によれば、他大学の過去問の再利用についての明確なルールはない。しかし、受験生などから「同じ問題に接したことがある人とない人の間で不公正が生じる」との批判が強く、「出題できないという暗黙のルールがあった」とされる。
このため各大学の入試担当者は、作成した問題が過去問と類似しないよう細心の注意を払っているが、「全国の大学で毎年の出題される問題数は膨大で、チェックは非常に困難」なのが実情。問題作成に時間をとられて大学本来の教育、研究活動に支障が出ることも少なくないという。
(上記記事より)
問題作成の手間が大幅に削減される。おそらくこれが過去問活用の、一番の肝です。
大学の入試問題というのは一般的に、大学の教員が作成しています。大学の学部構成にもよりますが、特に「一般教育課程」や「共通課程」等と呼ばれる部門に在籍している教員の方々が活躍されることが多いようです。高校出たての新入生を専門の学問に導く役割を普段から担っている方々ですから、入試問題の作成でも期待されるわけです。つまり、特定の教員に試験問題作成の労務が集中しがちなわけです。
そしてここ数年の間、受験機会の拡大が続いてます。
入試日程が複雑・多様化し、一年に何度も入試を行うことが普通になりました。ただでさえ気を遣う入試問題。それを年に何度も作るとなると、過去問のチェックだけで膨大な時間が過ぎてしまいます。
ただでさえ研究、教育それぞれについて求められる水準が高まっているというのに、この上、試験問題の労務が増えるとなったら、教員がつぶれます。
(というか、既にもう、限界ギリギリなのではないでしょうか)
そんなわけで、過去問をデータベースのように活用できるというのは、大学からしたら大変なメリットなのです。
66大学の宣言では「過去問を共有財産として活用することは、問題作成をめぐる重圧からの解放も意味する」と強調。ただ安易に依存することは認めず、「それぞれのアドミッション・ポリシー(学生受け入れ方針)に沿った良問を使用する」と強調している。
宣言への参加大学は、受験生に不公平にならないよう(1)事前に過去問を利用する可能性があることを公表する(2)問題集などで公表されている過去問に限る(3)入試後、どの大学の過去問を利用したかを公表する。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)
……と、冒頭の記事でも書かれています。「公表されている過去問に限る」というのは、受験生の間で不公平が起きないようにするための配慮ということでしょう(既に絶版になり、現実的に入手不可能な赤本等がこれに含まれるかどうかは不明です)。
しかし66大学の過去問を数年間も辿れば、その問題数は膨大になります。「過去問を利用するよ」と先に宣言しておいたところで、受験生側が問題内容を予測することはほとんど不可能です。
(もっとも、受験対策予備校等が過去問の引用率を調べて「人気問題」を探したりするかも知れませんから、あんまり重複しないようにする工夫はした方が良いとは思います)
↓こちらが「活用宣言」のwebサイトです。
■入試過去問題活用宣言 ホームページ
http://www.nyushikakomon.jp/
で、参加大学のリストが↓こちら。
■「参加大学,提供大学及び過去問題公表状況」(入試過去問題活用宣言)
http://www.nyushikakomon.jp/kkm_list.html
公表状況をご覧ください。「出版社等」というのは主に赤本のことだと思いますが、こうしてみるとwebサイトで過去問を公開している大学ってのも、結構あるんですね。
こうやって公表されている問題だけが共有され、再利用されるというわけですね。
例えば岩手大学のwebサイトを見てみると……。
■「岩手大学個別学力検査過去問題」(岩手大学)
http://www.iwate-u.ac.jp/nyusi/kaiji/kakomondai.html
「掲載されていない科目は,著作権の関係で公開していません。出版物等で確認してください」ということで、理系教科しか公表されていません。
国語や英語には作家などの文章が載りますから、著作権関係が色々と面倒くさいわけです。こうした科目は、赤本等で確認するしかありません。
赤本って、よほどのことがない限り何年も前のものは捨ててしまうと思うのですが、今後は古い赤本がありがたがられるようになるかも知れません。
(出題する側の心理から言って、つい最近使われた問題よりも、そろそろ忘れられたかと思われる問題の方が使いやすいような気がしますし……)
ちょっと余談になりますが、大学入試に著作物を活用する場合は著作権法第36条第1項の規程により、必要と認められる範囲で使うことが許されています。
【著作権法】
第36条 公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 営利を目的として前項の複製又は公衆送信を行う者は、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
一般にはあまり知られていないことですが、入試問題に誰かの著作物を使う場合、事前に著作者に連絡をする必要はないのです。勝手に使っておいて、せいぜい後で「使いました」と一報を入れるくらいです。だって事前に断りを入れていたら情報がどこかから漏れ、入試問題として機能しなくなる恐れがありますからね。
しかし上記の第2項にあるように、営利目的で試験問題を売った場合は別です。そのため今では、出版されている赤本においても、著作権の関係で設問の掲載が省略されているケースがあります。
(では、大学が「入試での再利用のために試験問題をwebサイトで公表する」ことは、著作権的にどうなのでしょうね。やっぱりダメでしょうか。ダメでしょうね)
本題に戻りますが、とにかく過去問の活用がこれから多くの大学に拡がっていくことと思われます。これって、実は相当に大きな出来事です。
以前の記事で詳しく申し上げたのですが、過去問の再利用には問題作成者の負担軽減に加え、「良問を選別する」という重要な意味合いもあります。
「この問題に正答した学生は、入学後も良好な成績を維持した」といった分析が、いずれ行われるようになるかも知れません。
以上、マイスターでした。