マイスターです。
「履修逃れ校」の問題が全国を揺るがしてしばらく経ちます。
やりかたに賛否両論ありますが、とりあえず補習方法も決まり、メディアの報道は沈静化した感があります。
(もちろん、だからといって、問題が抜本的に解決したわけでは全然ないのですが)
そんな中、興味深い報道を見つけましたので、今日はこちらをご紹介いたします。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「阪大が未履修者に“高校世界史”、一般教養で来春開講」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061117i407.htm?from=main4
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高校世界史の必修逃れ問題で、大阪大学が来年度から一般教養課程に、「不完全履修者のための世界史」講義を設けることを決めた。
世界史の未履修者や規定時間数以下の授業しか受けていない学生のために、高校の教科書を使って授業を行い、単位も認定する。文部科学省大学振興課は「今まで聞いたことがない。世界史は高校で学ぶのが原則なので推奨はしないが、大学側の現実的な対応として注目する」としている。
計画では来年4月、主に新入生対象の一般教養の選択科目として、「ヨーロッパ史」と「アジア史」の2コマを開講する。網羅主義や暗記の強要はせず、歴史のダイナミックな流れと最新の学説を教え、社会人として最低限の知識を習得することを目標とする。
(上記記事より)
大阪大学の取り組みです。
大量の未履修者の存在が報道で明らかになったとき、「既卒者も大学などで補習を受けるべきだ」という意見をネット上でよく見かけました。
マイスターもそうだよなぁと思いつつ、でも同時に、誰がどんな風にその授業を準備すればいいんだろうな、と考えていたのです。
そうしたら、大阪大学が、上記のような取り組みを始めるとのこと。この取り組みを評価する人は、多いんじゃないかと思います。
この取り組み自体、注目に値する内容ですが、さらにこの記事の続きにある記述も、私達教育関係者は読んでおいた方がよさそうです。
昨年11月に阪大が高校の世界史教員との共同研究会を結成した際、「必修の世界史を履修させていない学校がある」との情報がもたらされた。そこで新年度のカリキュラム編成に合わせて開設を計画し、今年10月に大学内で正式に認められた。全国的な必修逃れが発覚したのは、その後だった。
授業設置を提案した桃木至朗教授(東洋史)は、「5、6年ほど前から学生たちの世界史知識の急低下に危機感を持ち始めた」という。当初は入試科目の削減の影響でマジメに勉強していないことが原因と考えていたが、「学生の質が下がったのではなく、そもそも教わっていなかった。それを知った時は心底驚いた。世界史を知らない学生を社会に出すわけにはいかない。教育者の責務として取り組みたい」と話している。
(上記記事より)
つまり大阪大学は、今回の大騒動が発覚する前から、この計画を進めていたのです。それも、「世界史知識が不足している学生が多い。こんな学生を送り出すわけにはいかない」という危機感からです。
したがって「阪大が未履修者に“高校世界史”、一般教養で来春開講」という冒頭の記事のタイトルは、やや不適切です。前もって計画を進め、カリキュラムの中に入れ込んでいたから、こんなに手際よく開講準備を整えられたのですね。たまたま、今回の大騒動にタイミングが合ったので、結果的に未履修者対策のようになっただけなのです。
「一般教養課程」の存在意義ってこういうことなんだ、ということがよくわかる事例ではないでしょうか。これぞ教育者のプロフェッショナリズムだよなぁ、流石だなぁと、マイスターは感心させられました。
世界史に限らず、学生の国語力の低下を憂えて、読解力や文章力を鍛える科目を設けたり、数学力の低下に危機感を覚えて数学の補習をやったりする動きは、いくつかの大学であります。ただそれらは、「国語力がないとレポートや論文が書けない」とか、「数学力がないと理工系の専門教育が行えない」とかいった、差し迫った問題に対応するためという意味合いによるところも強いと思います。(もちろん、それはそれで非常に重要です)
ただ、「世界史の知識」というのは、文学部でもない限り、そんなにすぐに必須になる性質のものではありません。長い目で見れは非常に重要なのですが、大学を卒業するためとか、就職のために必要だというものではないわけです。
その上で、しかしちゃんとこういう部分に手を打っている大学というのは、すばらしいですよね。
マイスターも、世界史は現代人には絶対に必要だと考えております。以前の記事で、えらそうにも
個人的には、(この状況下では意地悪く聞こえてしまうかも知れませんが)世界史を学ぶことは、グローバル社会の住人になる基礎的な条件の一つであると考えております。おそらく学習指導要領で、世界史が必修になっているのも、そういう意図があってのことでしょう。
ですから、世界史を学ばずに中等教育を終了する方々がいるというのは、やはり問題であるように思います。受験が終わった後でも結構ですので、何らかの形で然るべき学習をしていただかないと、後々絶対にどこかで、本人達が不利益を被ることになるのではないかと、個人的には考えます。
などと書いておりました。
こう書きつつ、でもマイスターにできることはあんまりなくて、どうすればいいんだろうなと考えていたら、既に動いている方々がいらしたのですね。
最近、教育関係者が世間から厳しい非難を浴びるような事件ばっかりでしたので、個人的には、ちょっとうれしくなる報道でした。
大阪大学に倣い、今後、世界史の授業を開講する試みが他の大学でもおこなわれるかも知れません。
(個人的には高校くらいの段階で世界史を学んだほうが価値観を広げる上で好ましいのではと思うのですが、「受験というくびきから開放された後のほうが世界史を興味深く学べる」なんてことになったら皮肉ですね……)
ちなみに、これは余談ですが、冒頭の記事で
文部科学省大学振興課は「今まで聞いたことがない。世界史は高校で学ぶのが原則なので推奨はしないが、大学側の現実的な対応として注目する」としている。
とありますね。でも大阪大学は今回の騒動を受けてこの授業を準備したのではないのだから、別に、未履修者の問題に対する「現実的な対応」ってわけじゃないですよね。
思うに、もし今回の履修逃れ校発覚事件が起きていなかったら、文科省は大阪大学のこの授業に関して、あんまり良い顔しなかったんじゃないでしょうか。だって建前上は、「学習指導要領のおかげで、全高校生が世界史を十分に学び、世界史の常識を身につけている」ということになっていたのですからね。
そんなことを考え出すと……うーん、やっぱり現在の教育制度には、まだまだおかしな部分がたくさんあるように思えます。
以上、マイスターでした。
非常にためになる分析ありがとうございました。ブームにのったわけではないんですね