文学部の熱い一日 大阪市立大学「プレゼンアワードL-1」

マイスターです。

高校の時に建築に興味を持ち、高2から理系進学コースに進みましたが、国語や世界史も大好きでした。今でも好きです。
いま思うに、それは自分の身のまわりに、そういった科目をこよなく愛する大人達がいたからだと思います。
宮沢賢治の世界や、古代ギリシア・ローマの魅力を、本当に楽しそうに話してくれる人達を通じて、「あぁ、確かに面白い!」と感化されていったのでした。
でも、これは自分だけではなく、多くの方にとっても同じなのではないかと思います。

マイスターが思うに、これは小学校から大学まで、あるいは大人同士の関係でも、変わりません。
学問でも、何かの趣味でも、本当に好きな人が、うまく魅力を伝えると、その楽しさは伝播するように思います。

そして、「どうしたら○○の魅力を多くの人達に伝えられるだろう?」と考えれば考えるほど、その魅力の正体を、様々な角度から見つめることになります。そのうち、語る方もまた、新たな発見をすることがあるでしょう。
これは学問の発展の、最も根源的な部分でもあると思います。

大学を評価する尺度は色々ありますが、

【自分の関わる学問に関する「これが好きだ!」という想いや熱意を、周囲に伝播させられる卒業生】

を、どれだけ多く送り出せるかというのも、実は目に見えない評価なのではないかと思います。
学校の職員室や職場にそんな人達がたくさんいたら、世の中は随分楽しくなるのではないでしょうか。

さて、今日はこんな取り組みをご紹介したいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「プレゼンアワードL-1 2008」(大阪市立大学文学部・文学研究科教育促進支援機構 )

というわけで、大阪市立大学の文学部・文学研究科で行われている、「プレゼンアワード」というイベントです。

■「プレゼンアワードL-1 2008:L-1とは?」(大阪市立大学文学部・文学研究科教育促進支援機構)

【「プレゼンアワード L-1 2008」とは?】
大阪市立大学文学部生のためのプレゼンテーション大会
プレゼンする題材は「自分が愛するこの一冊」
審査基準はただひとつ、
「プレゼンを聴いた人が、その本を買って読みたいと思ったかどうか」
約5分間のプレゼンでいかに心に響くプレゼンをすることができるかを競う
(上記記事より)

ルールは上記の通り、いたってシンプル。
好きな本についてのプレゼンテーションを行い、聴衆の皆様に、その本を買って読みたいと思わせること。
まさに、文学部ズバリな企画です。

でもこれ、ルールこそシンプルですが、簡単ではありませんよね。

「自分の好きなモノについて、友達や同僚などに熱く語れば語るほど、かえって引かれてしまった」

という経験、誰にでもあると思います。

好きな本人は、好きなのだから、とかく感情を込めて熱く語ってしまうもの。
でも、語られている人は、別に好きでもなければ興味もない、前知識ゼロの状態。
へたすりゃ自分とは趣味が正反対の人だったりするわけです。

そういった、様々な趣味思考の方々に対して、「これは面白そうだ!」と思わせるのは、至難の業。
主観的な感情論だけでなく、例えば作品への客観的な第三者評価を引用してみたり、相手が興味を持っている他の何かとひもづけてみたり。
こちらも十分な知識の引き出しを備えていなければなりませんし、反応をつぶさに観察しながら、直球を投げたり変化球で攻めてみたりするという点では、コミュニケーション力も大事でしょう。

一冊の本を紹介するにも、作者のことはもちろん、
作者が生きた時代のこと、
作者が影響を受けた作家のこと、
作者が影響を与えた作家のこと、
作品で描かれているテーマに関することなどなど、あらゆる知識を持って挑まねばならないでしょう。
その点、文学部で普段学んでいることが、フル活用されるわけですね。

また文学部の学生さんの中には、教員になったり、出版業に携わったりする方もいらっしゃることでしょう。そんな皆さんが、こういった企画を通じ、「どうやったら本の魅力を伝えられるのか?」ということを考え、実践することができるのは、とても有意義なことだと思います。
(というか、この企画に参加した結果、教員や出版業を志す人もいそうです)
プレゼンターとして参加する学生は、自由参加のプレゼン勉強会を行っているようで、そんなところも将来に役立ちそう。

しかもこの企画、聴衆として、学部生や教員はもちろん、高校生や中学生も招待するそうです。
「自分が中高生のとき、どういう理由で本に興味を持っていたっけ?」と、自分を振り返るきっかけにもなりそうです。

過去を振り返りつつ、現在の学びを総動員し、それを将来へと繋げる。
一冊の本を通じて、色々なことが学べるのですね。
これはいい企画だと思います。

ちなみにこのプレゼンアワード自体も、学生によって企画・運営されているようです。

■「大阪市立大学文学部・文学研究科教育促進支援機構 」(大阪市立大学)

↑こんな組織が立ち上げられているのですね。
教職員や学生が一緒になって楽しみながら、教育を作り上げるというのは、素敵です。

だからでしょうか。
プレゼンアワードの審査員の顔ぶれが、

・大阪市立大学学長【審査員長】
・大阪市立扇町総合高等学校校長
・文学部卒業生代表(学友会・有恒会副会長、元京都新阪急ホテル代表取締役社長)
・生協代表(大阪市立大学生活協同組合専務理事)
・文学部副学部長(東洋史学専修教授)
・大学院学生代表(ドイツ語ドイツ文学専修D2回生)
・学部学生代表(フランス言語文化コース4回生)
・教育促進支援機構会長(教育学専修教授)

……と、贅沢なんだけど実に平等というか、みんなで楽しんで集まっている感じです。
こういう大会ですと、教員が審査団をつくることが多いと思うのですが、文学部卒業生代表や生協代表、地元の高校の校長先生なんて方々まで参加していて、実に楽しそう。
大学院生代表や学部生代表までもが、平等に審査員として票を持っているのには感心させられました。

この審査員だけでなく、実際の評価では、審査員とフロア両者による「紅白歌合戦方式」が採用されているようで、本当にみんなで楽しんでいるのですね。
同じようなイベントを考えた大学があったとしても、こういったところで違いが出ると思います。

学生によって企画・運営されているこのイベント。
プロジェクトに関わる学生の皆さんにとって有意義な経験になることはもちろんですが、そうして学生が他の関係者を巻き込む形だからこそ、こんな風にユニークな性質を持つイベントになったのかな、という気もしました。

さてこのプレゼンアワード、決勝戦は来週末です。

日程  12月13日(土)
時間  13:00~16:00 (12:00開場)
場所  学術情報総合センター10F大会議室
※地図⇒ http://tonarini.net/eru/floor/image/tizu.gif
「プレゼンアワードL-1 2008:結晶のプログラム」(大阪市立大学文学部・文学研究科教育促進支援機構)記事より)

お近くにお住まいの方は、ぜひ決勝の様子をご覧になってみてはいかがでしょうか。
文学部の皆さんと楽しく盛り上がれるでしょうし、素敵な本に巡り会えるかもしれませんよ。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。