「内定取り消し」報道から就職の現状を考える

マイスターです。

■サブプライム・ローン問題が大学に与えた影響

↑先日の記事で、企業の採用活動が失速してくるのでは、と書かせていただいたのですが、事態は想像よりも深刻のようです。


【今日の大学関連ニュース】
■「大学4年生の就職内定『取り消し』相次ぐ、金融危機で」(Asahi.com)

米国に端を発した金融危機が、大学生や高校生の雇用に影を落とし始めた。ここ数年は「売り手市場」との声さえ聞かれた就職戦線。しかし、「経済情勢の激変」を理由に、一転して内定や求人の取り消しが相次ぐ事態になっている。急速に冷え込む「雇用」に大学や教育委員会は不安を隠せない。
「このまま入ってきてくれても希望の部署にはいけないと思う。あなたのキャリアを傷つけることになるので、就職活動を再開した方がいい」
関西の私立大に通う4年生の学生(21)は先週初め、5月に内定をもらった大手メーカー(東京)から、電話で内定「辞退」を促された。今月初めの内定式で顔を合わせたばかりの人事責任者は、「業績が悪化し、株価も激しく落ちている。会社はリストラを始めている」と付け加えた。
学生にとっては、留学経験を生かせると考えて内定3社の中から選んだ会社だった。同社の内定者仲間にも同様の電話がかかっている。学生は「今はまだパニック状態としか言えません」とこぼした。
「こんな事態は初めて。内定取り消しなんてしたら、翌年から誰もその会社には応募しなくなるのに」。流通科学大(神戸市西区)の平井京(けい)・キャリア開発課長は困惑を隠せない。同大学の4年生2人が、相次いで就職の内定取り消しを受けたからだ。
大阪市の不動産会社に内定していた男子学生は、9月下旬に呼び出され、「景気が悪くて、マンションが売れない。社員の一部にも退職をお願いしている危機的な状況だ」と取り消しを告げられたという。学生は「この時期から、どう就職活動をすればいいのか」と途方に暮れる。別の男子学生は大阪市のコンピューターシステム会社から内定を取り消された。
(略)奈良県立大(奈良市)の就職指導室では、3年生に早めに就職活動を始めるよう指導するつもりだ。「学生には公務員など別の進路を考えることも指導したい」と担当者は話す。
(上記記事より)

■「岡山県内の大学生 内定取り消し相次ぐ 景気悪化が直撃 辞退促す企業も」(さんようタウンナビ)

景気悪化のあおりを受け、岡山県内の大学で採用内定を取り消されるケースが表れ始めた。対象となった学生が通う大学の就職担当部署ではここ数年、内定取り消し例はなかっただけに、関係者は対応に追われつつ、株価急落など一段と深まる不況傾向に警戒感を強めている。
岡山市のある大学では、男子学生2人が9月末と10月上旬に相次いで内定を取り消された。ともにIT(情報技術)企業。1人は経営破たんした広島市の不動産会社の影響を受けた建設会社の取引先。1人は米サブプライムローン問題の余波を受けた大阪の企業で、社長が大学に謝罪に来た。
(略)「研修まで受けた9人とも不採用。他の内定4社は辞退していたので、どうしようかと途方に暮れている」。岡山市の別の大学に通う男子学生(21)には10月上旬、内定先の広島県内の不動産会社から雇用調整による内定取り消しの連絡があった。試験にかかった交通費など20万円の違約金が支払われたが、月末に希望外の業種を受けることを余儀なくされている。
(上記記事より)

内定取り消しとは、穏やかではありません。

日本の学生は、卒業まで1年以上残っている時期から、学業を犠牲にして就職活動を始め、内定を得ています。そして当然ですが、複数の内定を得た場合は1社を選び、他は断っています。
学業を犠牲にしないと内定が得られないこのシステムに、個人的にはいつも疑問を覚えていますが、とにかくそうやって得た内定をこの時期に取り消されるのですから、学生の側としては、たまったものではないでしょう。
この時期では、大学院などへの進学をするにしても、翌年になってしまいますし。

内定取り消しという事実もショックでしょうが、さらに「学業を犠牲にした上での」、「(基本的には一度しかない)新卒一斉採用」の取り消し、というのがまたショックを大きくしていると思います。

法的には微妙な位置づけのようですが、学生が就職活動のために費やした時間やコストのことを考えると、企業には内定取り消しという行為は、やはりしてほしくはありません。
中には研修まで受けた上での取り消しというケースもあるようで、社会通念上、これはないんじゃと思ったりもします。

ただ企業の側も、会社自体の存亡がかかっているわけで、何も好きこのんで取り消しているわけではないでしょうから、やりきれません。

常に一定の人数を採用し続けるというのは、企業が社会に示す「信用」のひとつでもあります。
ただ、企業の側で考えた場合、人が不足しているときに採用を行い、人が余っているときには採用を控えたいと思うのは当たり前です。
そもそも、毎年同じ時期に、一定以上の新卒学生を必ず採用し続けるというのは、大手企業はともかく、中小企業にとってはなかなか大変なこと。人が足りないときには全然足りていないけれど、余裕がないときにはまったくとりたくない、という波だってあるはずです。

そんな波をうまく調整しつつ、学生の希望とのニーズをうまくマッチングしてくれるのが、就職産業の本来の役割だと思うのですが、実際にこれまで日本の就職産業が行ってきたのは、「早く活動を始めないと就職できないよ」と学生に言い、「毎年、同じ数だけ採用し続けないと、学生が来なくなりますよ」と企業に言い、お互いを就職産業の用意した土俵にのせることが中心でした。

結果、本当はもうちょっと柔軟な採用を行いたいのに、無理して毎年同じ時期に、同じくらいの人数を採用し続けている企業だって、世の中にはたくさんあるのではないかとマイスターは思います。
今回、内定取り消しを出した企業には、そんな企業も少なからず含まれているのではと想像します。

■行き詰まっている? 日本の大学生の就職活動

↑以前の記事でも書かせていただきましたが、日本の「新卒一斉採用」というのは、(就職産業を除けば)あまり得する人のいないシステムなのではないかと、つくづく思います。

「内定取り消し」というと、まず学生側の被害に注目が集まりますが、冒頭で述べた通り、企業の側も、好きこのんで内定を取り消しているわけではないはず。
「決まった時期に採用活動を行わないと人が取れない」日本の習慣(?)も、不幸を生み出している根本的な原因の一つなのではと、マイスターは思ったりします。

(ちなみに今年、某大手就職サイトは、昨年より1ヶ月早くオープンしました。全国の企業は、サイトの営業に一方的にそれを告げられ、一ヶ月早く準備をさせられています。「今年は早く動かないと、意欲のある学生を採れませんよ」ということのようです。就職の早期化を作り出しているのはやはり、こうした就職産業ではないかとマイスターは思ってしまいます)

現状は在学中に「内定」を得て、卒業と同時に働き始めるという仕組みですから、「内定」というあいまいな関係の状態が長くなりがちです。その間に、今回のように市場環境が変わることだってあるでしょう。
また企業は、内定させた学生に逃げられないよう、入社前の研修を課したり、多大なコストをかけてイベントを実施したりしていて、これも無駄です。

例えば、「卒業してから就職活動をする」ということを原則にすれば、内定後、すぐに働けるわけですから、今回のような問題は減るように思います。
さらに横並びの「一斉採用」ではなく、各社が通年で採用活動を行っていれば、第一希望の企業から順々に受けられるので、いっぺんに複数の内定を確保する必要もなくなります。「内定」なんて言葉も要らなくなるでしょう。

この案がベストかどうかは分かりませんが、ともかくそんな風に、企業も含め、社会全体で抜本的な解決法を探す時期なのではないかと個人的には思います。

そもそも、「内定を得る」ことが最終目的なのではなく、しっかり学んで卒業し、社会人として生計を立て、キャリアを積んでいくことが学生の望みのはず。そう考えると、企業や学生、大学などが「内定」に過度に振り回されるような現状は、やはり問題があるようにも思うのです。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。