マイスターです。
日本政府は、2020年までに留学生の人数を30万人にする、という計画を立てています。
■「留学生30万人計画」骨子の策定について
現在の留学生数はおよそ12万人ほど。その大多数が中国・韓国からの留学生であり、この2カ国は、留学生30万人を目指すなかで、今後も大きな割合を占めていくと思われます。
政府も計画の実現に向け、この2カ国を重視しているようです。
中国・韓国から日本への留学を考える方にとっては、ちょっと気になるであろうニュースが、先日報じられました。
【今日の大学関連ニュース】
■「日本への留学試験 中国・韓国語でも出題へ」(読売オンライン)
文部科学省は25日、日本に留学を希望する外国人の学力を判定するために実施している「日本留学試験」について、新たに「中国語」と「韓国語」で出題する方針を固めた。
受験者数の9割弱を占める中国と韓国に配慮することで、さらに両国から多くの留学生を呼び込み、留学生30万人計画を早期に実現するのが狙いだ。
これまでの試験問題は、「日本語」と「英語」で出題していた。だが、2008年6月の試験では、受験した1万9206人のうち、中国人が74%、韓国人が14%と、両国で9割弱を占めた。文科省は、さらに両国の受験者を増加させると同時に、言葉の壁を超えた基礎学力を測るために両国語の導入を決めた。
(上記記事より)
日本留学試験とは、日本学生支援機構の説明によれば、「外国人留学生として、日本の大学(学部)等に入学を希望する者について、日本の大学等で必要とする日本語力及び基礎学力の評価を行うことを目的に実施する試験」です。
日本留学試験は、これまで日本の大学(学部)等への入学の際、日本の大学(学部)等高等教育機関の多くが受験を義務づけていた「日本語能力試験」と「私費外国人留学生統一試験」(2001年12月の実施をもって廃止)の二つの試験に代わる試験で、2002年より年2回(6月及び11月)日本国内と国外で実施するものです。試験会場は「試験会場」をご覧ください。
日本留学試験の出題科目は、日本語、理科(物理・化学・生物)、総合科目及び数学ですが、日本の各大学が指定する受験科目を選択して受験することになります。また、出題言語は、日本語と英語があり、出願時に選択できます(ただし日本語科目の出題言語は日本語のみ)。
外国人留学生の入学選考に日本留学試験を利用する日本の大学は、「日本留学試験利用校」をご覧ください。この一覧には、各大学が指定する受験科目と出題言語も掲載してあります。
(「日本留学試験とは」(日本学生支援機構)より)
日本に留学する場合、必ずこの試験を受験しなければならないというわけではありません。日本留学試験を使うかどうかの判断は、受け入れ先の大学に任されています。
しかし、公的な試験であり、また国外にも試験会場を設けているということもあって、この日本留学試験を利用する大学は非常に多いです。
逆に言うと、日本への留学を考えている外国人の方の多くは、この日本留学試験のための勉強をしているということです。
その日本留学試験が、日本語、英語に加え、中国語、韓国語でも実施されるとのこと。
これは、中国、韓国から日本への留学を考える方々にとっては、けっこう気になるニュースでしょう。
さっそく、韓国のメディアがこのことを取り上げていました。
■「日本留学試験、韓国・中国語でも受験可能に/日本」(中央日報)
読売新聞が26日、「日本の文部科学省が日本に留学を希望する外国人の学歴評価のために実施する“日本留学試験”の問題を韓国語と中国語でも出題することにした」と報じた。今までは日本語と英語でのみ出題されてきた。
韓国人と中国人が受験生全体の約90%を占めていることから、志願者の学歴水準を正確に評価し、優秀な外国人留学生を誘致しようという趣旨によるものだ。文部科学省の関係者は「韓国と中国の優秀な学生を多く誘致するため、言語の壁を越えて基礎学力を測定するためのものだ」と明らかにした。2008年6月に行われた試験では受験生1万9206人のうち、中国人が74%、韓国人が14%だった。
(上記記事より)
◆アジアの国々は留学生の誘致に一足遅れて飛び込んだが、日本が最も進んでいる。1983年に中曽根康弘首相(当時)が「留学生10万人計画」を推進して25年が経った現在、留学生は12万人にのぼる。ただ、留学生が韓国人(14%)と中国人(74%)に偏重している。言葉の問題があり、留学生の学力レベルが十分に分からないことも問題だった。このような現実を改善するために、日本は、日本留学試験問題を韓国語と中国語でも出題し、言語の壁に遮られた基礎学力を正確に測定している。
(略)韓国も、留学生の多くが中国人で、「廉価留学」というイメージを抱えている。日本と似た悩みを抱えているわけだ。韓国政府が優秀な人才を獲得するうえで、自国語まであきらめた日本の例は参考になる。
(上記記事より)
韓国も日本の決断を参考にすべきだ、といった意見も出てきていて、かなり注目されていることがわかります。
日本のメディアは読売をのぞき、今回のニュースをあまり取り上げていませんので、対照的です。
ただ冒頭の読売新聞の記事も含め、これらの報道には、誤解されそうな部分もあるように思います。
例えば東亜日報の記事には、「自国語まであきらめた日本」という表現がありますが、この表現は半分正解で、半分は間違いかもしれません。
日本に留学する場合、当然ですが、日本語能力は基本的に必須のはずだからです。
「日本留学試験」の試験科目を見てみると、以下のようになっています。
【日本語】
日本の大学等での勉学に対応できる日本語力(アカデミック・ジャパニーズ)を測定する。
【理科】
日本の大学等の理系学部での勉学に必要な理科(物理・化学・生物)の基礎的な学力を測定する。
【総合科目】
日本の大学等での勉学に必要な文系の基礎的な学力、特に思考力、論理的能力を測定する。
【数学】
日本の大学等での勉学に必要な数学の基礎的な学力を測定する。
(上記記事より)
「日本語」は、文字通り日本語能力を問う試験。これは当然ですが、日本語で実施しないと意味がありません。
一方「理科」、「総合科目」、「数学」は、基礎学力を問う試験です。マイスターが思うに今回、中国語と韓国語でも実施すると発表されたのは、おそらくこれらの科目の方なのではないでしょうか。
現在、実際に日本の各大学が審査に利用している科目がどれなのかは、↓こちらから調べることができます。
見てみるとどの大学も、ほとんど必ず「日本語」科目の受験を求めています。
日本留学試験では「日本語」の点数だけを求め、その他の学力は自校の独自試験で判断する、なんてケースも少なくありません。
つまり大学は、日本留学試験には、何よりもまず日本語能力を判断する試験としての機能を期待しているのです。
ですから多くの留学生にとって、今後も「日本語」の科目を勉強するという事実は変わらないと思われます。
上記の報道を見て、「そうか、日本語が一切使えなくても留学できるんだ」と思う人も出てくるんじゃないだろうか、と個人的には思ったのですが、おそらくそれはありません。
そもそも、仮に日本留学試験が「本当に」全部、中国語や韓国語で受験できるようになるのだとしたら、大学が個別に独自の日本語試験を課すはずです。
もちろん、他の科目が母国語で受けられるというのは、大いに意味があることです。
日本人がSATなどを受験する場合もそうですが、本当は数学の学力は十分なのに、英語で書かれているからつまづいてしまった、なんてケースは多々あるでしょう。
確かに、学力を正確に測れるようにはなります。
それに中国、韓国の方々にとって、日本留学を身近にするという効果は大きいと思います。
基本的な日本語運用能力は「日本語」科目で問い、基礎学力は母国語での試験で判断する。留学後に、日本語で大学レベルの学びを行うことに慣れていけばいい……という流れが今後はできることになります。
その意味では、今回の報道内容は、確かに画期的だと思います。
以上、冒頭の記事を見てそんなことを思った、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
>上記の報道を見て、「そうか、日本語が一切使えなくても留学できるんだ」と思う人も出てくるんじゃないだろうか、と個人的には思ったのですが、おそらくそれはありません。
そんな安心はできないと思います。
受験生が減って困っている大学と留学生30万人計画を推進する日本政府の利害が一致するのは、「日本語ができなくたって大丈夫」な入試でしょう。
中国からの留学生が7割を占めているにもかかわらず、中国で日本留学試験が実施されていないのは、政治的に微妙な話題が出題される可能性がある「総合科目」(現在社会、地理、現代史、政治経済を出題範囲とする独特な試験)があるためだといわれています。中国語や韓国語で受験できるということは、事前に翻訳するということでもあり、それは試験問題を事前にチェックできるということでもあります。
こういうことをせずに、アメリカへのTOEFLや中国へのHSKのように、とりあえず「語学」だけの試験を実施したほうがよいと私は思います。