「NP」という医療専門職を巡る大学教育の動き

マイスターです。

皆様は、「NP」という医療専門職のことをご存じでしょうか。

NPとは「ナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner)」の略で、簡単に言ってしまうと、「医師が行う医療行為のうち、いくつかを医師から独立して行える看護師」、とでもなるでしょうか。
医師がいなくても基本的な診断や治療、処方箋の記載などを行えるため、遠隔地や医療過疎地などで活躍できるというわけです。

しかし、このNP、日本ではまだ制度として認められておりません。
チーム医療やコメディカルなどの言葉も広まってはきましたが、日本では、医療行為のかなりの部分は、医学部を出た医師でないと行えない仕組みになっています。
アメリカでは40年の歴史があり、14万人以上が活躍しているというNPですが、日本ではこのような形で医療に関わることは、現状では許されないのです。

アメリカは広大ですから、NPのような人材に対するニーズがもともと強かったのかも知れません。
一方、日本でも医療過疎地などをはじめ、様々な場面で医師不足が深刻な社会問題となっており、NPのような医療人を養成してはどうかという声も上がってきています。

そんな日本のNPに関する話題を2つ、ご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「大学院 > 修士課程 > 実践者養成コース(NPコース) 」(大分県立看護科学大学)

米国でのNPは、医師から独立して対象者に自律的にプライマリケアを提供することができ、医師の指示がなくても自らの判断で処方箋記載を含む医療的処置(診断および治療)を行うことができる看護師です。わが国においても、都市部から離れた遠隔地や医療過疎地などで自律的にプライマリケアを提供する体制を整えていくためには、NPの養成教育が必要です。
NPの養成教育において、「看護アセスメント能力」、「看護実践能力」、「診察の実践能力」、「看護管理能力」、「チームワーク・協働能力」、「医療・保健・福祉システムの活用・開発能力」、「倫理観の醸成」の7つの能力を育成することを目標とします。カリキュラムは7つの能力を育成するために必要な科目構成になっています。NPの専門科目では、老年NPと小児NPのどちらかを選択することになっています。すなわち、老年を対象としたNPと小児を対象としたNPの養成教育となっています。
特色あるカリキュラム(老年NP)として、老年疾病特論、病態機能学特論、診察・診断学特論、臨床薬理学特論、老年薬理学演習などがあります。
NP は我が国では制度化はされていないため、本コースで修士号を取得することはできても、NPの資格を得ることはできません。大分県立看護科学大学は、NPの制度化を推進するためには、大学院の養成教育からスタートすることで社会的な評価を得ることが必要と考え、平成20年4月から全国で最初にNP教育を開始しました。
(上記記事より)

日本では未だ制度化されていないNPですが、社会に先駆けて、いち早くNP養成コースをスタートさせた大学があります。それが、大分県立看護科学大学です。

上記のように、修士課程にNPコースを設立。
既に、このコースで学んでいる方がおられるようです。

制度化されていない専門家を先に育ててしまおうというのですから、大学としてはかなりの挑戦でしょう。そして、それを知って入学している方々もまた、かなり意欲の高い方なのだろうと思います。

しかし色々と調べてみると、アメリカでも当初は、NPの構想は医師と看護師の両方から批判されたのだそうです。NP教育が先行し、それに追随する形で制度化が行われたとのこと。
大分県立看護科学大学の皆様も、そんなアメリカの事例をご存じの上で、自分達が試金石になってやろうじゃないかと意欲を燃やしておられるのかな、と推察します。

ちなみに、実は以前から政府の規制改革会議も、NP制度の創設を厚生労働省に求めているのです。

○ 平成19 年医政局長通知には、慢性的な疾患・軽度の疾患について看護師が処置・処方・投薬できるナースプラクティショナーの制度、また、介護施設における介護福祉士によるたんの吸引などが含まれておらず、不十分。
○ 「医師と看護職等医療関係者職種の協働」については、医療関係者職種の業務高度化を念頭に置き、そのために必要な場合には現在の法律を改正する、もしくは法解釈を変更することを具体的に視野に入れ、取り組むべきである。
「中間とりまとめ-年末答申に向けての問題提起-(平成20年7月2日):(別紙) 社会保障・少子化対策 (PDF : 240KB)」(規制改革会議)記事より)

実際には、厚生労働省との間でなかなか結論が出ていないようですが、公的なトピックとして既に、NP制度が議論されてはいるのですね。

では、その見通しはどうなっているのでしょうか。
そこで、もう一本の記事をご紹介します。

■「NPなど新職種創設『全く考えてない』―日医」(CBニュース)

日本医師会の羽生田俊常任理事は10月26日の臨時代議員会で、医療従事者の役割分担見直しの一環として政府が提言している「Nurse Practitioner(NP)や、医師への支援職種として米国などが導入している「Physician Assistant(PA)」」といった医療職種の創設について、「全く考えていない」と述べた。
嶋田丞代議員(大分県)が、NPやPA創設のほか、歯科医による医科麻酔の解禁などが議論されている状況を指摘。このうちNPについては、一部の関係学会や病院団体、大学教授の間にも「狭義の賛成意見がある」として、日医としての考え方をただした。
これに対して羽生田常任理事は、これら医療職種の創設について、「全く考えていない」と述べた。
その理由として羽生田常任理事は、「医行為は人体に危害を及ぼす恐れがあり、不確実性が高い。軽度や安定期であっても、重症化や急変のリスクを常に内包している」と指摘。診察や治療、処方などの行為は、高度な医学的判断力や技術を有する医師の資格保有者によらなければ、「患者に不利益な結果をもたらす」との見方を示した。
その上で、医療職種の業務分担を見直すには「教育の裏打ちが必要」と指摘。「人手不足の解消のために行うのなら、明らかに誤りだ」と強調した。この問題については、関係学会や病院団体と意思統一を図る考えも示した。
(上記記事より)

NPも含め、新しい医療職種の創設はまったく考えていない、と、日本医師会の方が公的な場で回答されたそうです。

診察や治療、処方などの行為は、高度な医学的判断力や技術を有する医師の資格保有者によらなければ、「患者に不利益な結果をもたらす」

……ということで、医師資格の保有者以外が診察や処方に携わるのは認められない、というのが日本医師会の見解のようです。

医療職種の業務分担を見直すには「教育の裏打ちが必要」と指摘

とも。
ただ、専門教育によって「高度な医学的判断力」を備えた新しい人材を育成しようというのがNPの構想だと思うのですが、医学部以外の医療教育機関ではダメなのか、そのあたりはちょっとわかりません。

ちなみに、同じようなやりとりを前にも見たなぁと思ったら、↓こちらでした。

■中心は4年制大学に? 変わりつつある、看護師養成教育

日本医師会が看護師養成課程の4年制化に反対している、というニュースで、同じ理事の方が登場されていたのですね。

看護界(?)の皆様や、他のコメディカル職の皆様がどのようにお考えかはわかりませんが、きっと色々な意見があることでしょう。

安易な規制緩和には反対、という意見は、もっともです。
NPの制度化ではなく、医学部のあり方や医師の労働環境を見直して、問題を解決すべきという声もあるでしょう。
一方、そうは言っても現状、問題が解決しそうにないという事実もあります。また社会において、医療専門職の活躍がより幅広く求められてくると思われる中で、いつかはこういった新しい専門家が必要になるのではないか、という意見もあるでしょう。

個人的には、必要な知識や技術をちゃんと教育するような機関があるのなら新しい専門職を認めても良いのではないかと思いますが、医療関係者はいったい、どのような結論を出すでしょうか。

今回のNPでも、また前回の看護師養成課程4年制化でも、なんとなく後ろに「医師界 VS 看護師界」みたいな対立構造が見えるような気がしないでもありません。
ただ、いつでも「患者」になりうるひとりの国民としては、国全体の医療水準の向上を一番において議論していただきたいなと思います。

以上、医療の素人なりにですが、NPをめぐる話題をご紹介させていただきました。

マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。