海外メディアが、日本の「技術者不足」を紹介

マイスターです。

■悩める中国の科学技術人材

昨日の記事では、中国の「科学技術人材」についてのニュースを紹介させていただきました。
科学技術者の人数数ではアメリカを抜いて世界一の中国。しかし就職難や人材の国外流出など、課題も少なくないという内容でした。

今日は、日本の科学技術人材に関する、海外のメディアの報道をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「High-Tech Japanese, Running Out of Engineers」(The New York Times)

TOKYO ? Japan is running out of engineers.
After years of fretting over coming shortages, the country is actually facing a dwindling number of young people entering engineering and technology-related fields.
Universities call it “rikei banare,” or “flight from science.” The decline is growing so drastic that industry has begun advertising campaigns intended to make engineering look sexy and cool, and companies are slowly starting to import foreign workers, or sending jobs to where the engineers are, in Vietnam and India.
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

そんなわけで、ニューヨーク・タイムズ紙の記事です。
同じ内容の記事が、ヘラルド・トリビューンにも掲載されていました。

■「Japan faces engineering shortage」(International Herald Tribune)

「理系離れ」の文字が、海外の新聞に。
うーん、第三者から言われると、より深刻な気分になってきますね。

記事では、日本の技術者不足が、日本経済に与える影響を指摘。

The shortage is causing rising anxiety about Japan’s competitiveness. China turns out some 400,000 engineers every year, hoping to usurp Japan’s place one day as Asia’s greatest economic power.
(上記記事より)

……なんて書かれています。
日本の強さは製造業にある、という認識が前提になっていますね。
頭では分かっているものの、やっぱり外から見てもまだそういう位置づけの国なんだなぁ、と改めて認識させられます。

この記事の内容について、日本語で解説してくれているサイトがありましたので、そちらもご紹介します。

■「ハイテク日本の『技術者枯渇』 NYタイムズ『深刻』と指摘」(J-CASTニュース)

記事が掲載されたのは、米ニューヨーク・タイムズ紙の2008年5月17日付け。「ハイテク日本、技術者枯渇」という見出しで、記事冒頭では、大学で「理系離れ」が進んでいることや、日本の若者が米国の若者と同様に、金融・医学などの高い報酬が望める分野や、芸術などのクリエイティブなキャリアが望める分野に流れていることを指摘。国内でICT(情報通信技術)技術者が約50万人不足しているとの総務省の推計(05年度)を紹介している。
記事では技術者不足の、そもそもの理由として、国内の出生率の低下を指摘。その対策として、外国人の受け入れが一部で始まっているとしながら、やはり「その数は、業界が必要としている人数には、まったく届かない」のだという。さらに不幸なことに、「日本人にある根強い外国人嫌いも一因だが、仮に外国人が採用されても、日本語の問題と閉鎖的な企業文化が高い壁を作ってしまい、外国人は来るのを拒否してしまう」のだとしている。
その結果として、「外国人が日本に来ないのであれば」と、調査・開発地点をインドやベトナムなどに移し、現地の技術者に作業を発注する日本企業も出現しているのだという。
次に同紙があげた技術者不足の理由が、「豊かさ」。理由としては「物質的に豊かな社会で育った若い世代は、父親や祖父の世代が味わったような戦後の苦難を知らず、儲けるための数値や計画に向けて汗水たらして働くことに価値を見いださない」。つまり、「モノづくり」への関心が薄れた結果、「理科離れ」がおこり、ひいては現在の技術者不足に繋がっているのでは、という見立てだ。
記事中では、若年層に科学技術への興味を持ってもらうための対策として、07年度からは、宇都宮大学がキヤノンと「教育センター」を設立、日本の基幹産業である映像機器の基礎となっている光学を体系的に教育する試みを紹介しているものの、そこに通う学生自身の「僕らは絶滅危惧種」との声を紹介。一方、「僕らは仕事を探さなくてもいいんです。仕事が向こうからやってきますから」と、売り手市場ぶりが強調されてもいる。
(上記記事より)

技術者不足を解決する方法として、日本では「理系離れを食い止める」ということがクローズアップされますが、外国人技術者を受け入れるというのも確かに一つの方策ではあります。
記事にあるとおり、課題は多いのですが。
(ちなみにマイスターは、学生の確保に悩む短期大学を、外国人労働者のための教育機関としてもっと明確に位置づけてみてはどうか、といつも考えているのですが、どうなのでしょうね?)

この技術者不足という問題には、非常に多くの要因が絡んでいます。

上記の記事で指摘されている出生率の低下や「豊かさ」もそうですが、それだけではありません。

例えば、生涯賃金で文系が理系を大きく上回るなどの現実から、「技術者が報われていない」と指摘する声も根強いです。
そういった社会構造が、技術者不足を引き起こす一因になっているのだとしたら、そちらから改善していかなければ、いくら教育の現場で理系離れを食い止めても、社会全体は結局、変わらないでしょう。

また、中学・高校における進路選択のあり方に問題があるという指摘もよく聞かれます。
実際、大学についても、その先についても十分に調べることなく、「数学が苦手だから文系」と安易に考える生徒が少なくないようです。
そして、学校の教員や保護者を始め、社会全体がそういった風潮を、問題だと認識していないように思われます(むしろ、良い成績が取れる科目に絞って、大学進学実績を上げてくれることを、学校も保護者も望んでいるようですらあります)。

日本の社会全体でつくりだしたシステムが、今、破綻しかけているのです。
それぞれのせいにするのではなく、総合的に問題の解決を図っていくことが大事かと思います。

(ついでに、「そもそも今後もこれまでと同じ製造業に頼る産業構造で良いのか」という議論も必要だと思います。重要であるにもかかわらず、日本国内では避けられているテーマでしょう)

↓韓国のメディアも、同じ記事を紹介していましたので、ご興味のある方はどうぞ。

■「『理工系離れ20年』日本の国家競争力に打撃 IHT紙が分析」(東亜日報)

日本がこうした問題をどのように解決するか、海外の方々も注目しているというわけです。

そして日本の側も、何もしていないわけではありません。
ここ数年では、文科省を始め、理系離れを食い止めるために様々な施策が打ち出されてきています。
企業も大学も、中学も高校も、危機感を持って動き始めています。

それらがどのように芽を出していくか、検証していくこともこれから重要になってきますね。
数年後、海外のメディアは日本の状況をどう報じているでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。