悩める中国の科学技術人材

マイスターです。

毎日、大学関連のニュースをチェックしています。
どうしても日本語で書かれたメディアが中心になるのですが、その中でよく見かけるのが、中国や韓国をはじめとする、アジアの大学の話題。
日本の大学とよく似た課題を抱えているケースも少なくなく、参考になることも多いです。

さて本日は、そんな中国についての記事をいくつかご紹介します。


【今日の大学関連ニュース】
■「中国の科学技術者は4246万人、国別で世界一」(Asahi.com)

中国の科学技術者数は約4246万人に達し、国別で世界一になった。海外留学生受入数ランキングでは世界6位。このほど中国科学技術協会が発表した国内初の「科技人力資源発展研究報告」で明らかになった。同報告は2006年に作成作業がスタートし、07年5月に完成した。「北京晨報」が伝えた。
同報告のデータによると、05年末現在、中国の科学技術者数は約4246万人に達して米国の4200万人をやや上回り、欧州連合(EU)の5400万人に次ぐ世界2位だった。国ごとに集計すれば中国はすでに世界トップだ。
(上記記事より)

まずはこちら。
科学技術立国を目指し、理工系の人材育成に力を入れる中国が、科学技術者数でアメリカを抜き、単独の国としては世界一になったというニュースです。

理系を中心にした製造業で国の産業を育て、経済を強化するというのは、日本を含む多くの先進国が行ってきたこと。
中国はそれを、国家戦略のもと、未だかつてない規模とスピードで展開しようとしているように思われます。

続いて、もう一本。

■「破竹の勢いで進む中国の博士養成事業」(中国「科学時報」、科学技術振興機構デイリーウォッチャー掲載)

このほど開催された「第1回全国地方大学発展フォーラム」において、国務院学位弁公室の楊玉良主任より、中国における博士号授与可能な大学は310校に上り、2008年度博士課程修了見込み者は昨年の5万人より更に増加し、米国を抜いて世界で第1位になったと発表された。この他、教育部は大学院の数を現在の56ヶ所から更に100ヵ所まで増加するという計画を進めていること、同時に博士学生の人数の成長率を2%以下に抑制する方針であることが紹介された。
(上記記事より)

国内で博士課程を修了する学生の数も、世界一位だそうです。

なお、中国はインドに次いで、非常に多くの留学生をアメリカに送っている国でもあります。
そういった国外で学ぶ学生も含めると、中国が抱える人材の規模は圧倒的です。

上記のようなニュースを元に、日本やアメリカなどの国ではしばしば「中国脅威論」が持ち上がります。

事実、中国は急激な経済成長を遂げていますし、それが政治力や軍事力の強化に結びついている面もありますから、脅威に感じるのも無理はありません。

その辺りを論じるのは、専門家の方々にお任せするとして。
一方、そんな中国の人材育成戦略にも、悩みがないわけではありません。

■「中国、博士の半数以上が公務員に」(中国「科学時報」、科学技術振興機構デイリーウォッチャー掲載)

中国の博士育成はスピードを上げており、博士号授与数に関しては既に米国を抜いて世界1位となった。一方、国務院学位事務室主任の楊玉良院士が明らかにしたところによると、以前は博士課程修了者の9割が大学や研究所に勤務していたのに対し、昨今はその半数が政府機関に就職しているという。
(略)博士の急増により就職問題が顕在化している。15年前は大学のポスト1つに応募する博士は3~5人であったが、現在は少なくとも100人以上の博士が1つの席を争う。楊玉良院士によると、中国は今後大学院生の増加に一定の制限を設け、例えば博士の増加率は2%までに抑制する。一方、中国の高等教育において地方の大学は重要であり、教育部は地方大学の発展を支援すべく大学院100校の増設に乗り出すという。
(上記記事より)

例えばこちら。
当然ですが、人材を数多く送り出しても、受け皿となる仕事がなければ、せっかくの高学歴人材も路頭に迷います。
日本でも、大学院の規模を急激に拡大しながら、ポスドクの受け皿が未整備であることが問題になっていますが、それと同じですね。

その結果、中国では、多くの人材が政府機関、つまり公務員になっているとのこと。
国家的に、それが望ましい結果なのか、そうでないのかはわかりませんが、いずれにしても博士達が仕事探しに困っているのは事実のようです。

ひとつ、参考までに↓こんなニュースも。

■「IT企業の初任給、出身校や性別で大きな差」(中国情報局)

北京市の中関村地区で働く新入社員の給与水準に関する調査結果が、このほど明らかになった。学歴が高いほど初任給が高く、4年制大学と博士課程では、給与に2倍の開きがあることがわかった。人民日報が伝えた。
中関村海淀パークにあるIT企業では、学歴、専攻、学校名、性別、業種、職種が初任給に影響を与えており、3年制の専科を卒業した人の平均初任給は2307元だが、本科生は2767元、大学院修士課程に当たる碩士は4317元、博士では5731元だった。
(上記記事より)

北京市・中関村地区と言えば、北京大学や清華大学の卒業生を始め、優秀な人材が集まるサイエンス・パーク。マイクロソフト社など、国内外のIT企業が並ぶ地域です。
そういった特殊性はあるので、あくまでも参考程度ですが、この通り、博士課程修了生の給与は、学士課程生の2倍の水準だそうです。
こうした事実が、採用する側にとっても、採用される側にとっても、ハードルを上げる結果になっているということは考えられそうです。

さて、その結果、どうなるでしょうか。

■「改革開放後、2/3の海外留学生が『国外を選択』」(中国「科学時報」、科学技術振興機構デイリーウォッチャー掲載)

4月29日に中国科学技術協会が発表した中国の科学技術人的資源に関する調査報告によると、科学技術人材の国外流出は流入量を凌駕し、「人材流出」現象がやはり深刻であることが明らかになった。
報告によると、改革開放が始まってから、中国からは大学卒業以上の学歴のものが70万人以上国外に留学した。しかし、そのうち帰国したものは1/3にも満たない。ある調査によると、1985年以降、清華大学、北京大学の優れた技術系卒業生の7割が渡米したという。
また、多国籍企業の在華研究機関のもたらす中国科技人材の「内部流失」も新たな傾向として注目される。彼らが中国国内で研究に携わったとしても、その研究成果は中国の統計範囲外であり、従って多国籍企業に従事する中国人は中国科技人的資源の範疇にあるとは言い難い。また、中国におけるハイテク製品の貿易において、外資企業により取り扱われる数量が全体の60%を超えることに特に留意すべきである。
現在、中国に研究機能を設ける外国企業は14ヶ国から500社以上に達し、これら多国籍企業は海外留学帰国組や有力大学卒業生にとって第1位の希望就職先となっている。
(上記記事より)

このように、人材が国外に流出することになっているのです。

中国のトップ大学である北京大学、清華大学の、優秀な卒業生の大半が渡米して帰ってこないというのは、深刻です。
こうした大学には多額の税金を投入しているわけですから、国に対する投資の適切性という点でも議論が起こりそう。日本で言えば、東大や京大を卒業した学生の大半が海外に行って、そのまま戻ってこないということですから。

仮に中国国内で働いていたとしても、勤務先が外資系企業である場合、その研究成果や、開発された製品の利益は、最終的には外資系企業に属するもの。
そこも、中国の人々にとってジレンマになっているようです。
(日本の高度経済成長と、ちょっと違う部分かもしれません)

以上、最近のニュースから、いくつかをご紹介させていただきました。

強気に計画を推進しつつ、その一方で悩みも多い中国。
内容を見てみると結構、日本と重なる部分もあるように思います。
参考になる部分もあるでしょう。

もちろん中国も、ほかならぬ日本を、大いに参考にしているはずです。
互いに、気になる関係です。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。