格安学費が人気? 5人に1人がシニア学生の大学

多様な学生が集まる大学は良い大学、が信条のマイスターです。

■シニアと大学(1) リタイアしても大学で学びたい!
■シニアと大学(2) シニアが大学の学びに触れる企画、増加中
■シニアと大学(3) 日本初、カレッジリンク型シニア住宅

シニアに学びの機会を提供している大学について、いくつかの事例をご紹介してきました。

まだまだ数は多くありませんが、短期のプログラムから、正規の学生としての継続的な学びまで、様々な実践が行われ始めています。

さて、今日はちょっと考えさせられる事例をひとつ、ご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「From60:5人に1人、シニア学生 愛知文教大、格安学費4年目に /東海」(毎日jp)

小牧市桃花台ニュータウンを近くに望む丘陵地に建つ愛知文教大学は国際文化学部だけのミニ大学だ。05年度から40歳以上を対象とした社会人特別入試をスタートさせ、今春は16人が入学(うち6人は編入)した。現在75人の「社会人」が在学している。中心は60歳以上のリタイア組。学生数は342人だから2割を超える。このほか、中国人など125人の留学生もいる。学生食堂でシニアたちが若者に交じって談笑している姿がごく日常の光景だ。
金曜日午後の増田孝教授の古文書学の授業を見学した。47人の出席者のうち、数えてみると年配の学生が27人。前列は社会人学生が占めていた。この日の講義のテーマは近衛信尹(のぶただ)(1565~1614)の手紙。増田教授は解説を交えてゆっくり読んだ後、黒板に一語一語書きながら説明する。「一文字では読めないが、次の字とつなげてみると熟語として読めます」
特に社会人学生たちは熱心だった。教授の話を聞き漏らすまいという「真剣さ」が伝わってきた。
(略)「いい制度」「授業料が安いよ」「他の大学でもやったらいいのに」「学生証を持った時はうれしかった」「友達が増えた」--いろいろな声がでた。ここで授業を受け、地域の教室で講師をしている人もいた。
学生の声の中にもあったように、社会人が増えた一番のカギは「格安学費」だ。同大の場合、初年度納入金は132万円だが、社会人特別入試の場合、授業料6万円だけ。書類審査と面接で合格すれば入学できる。「カルチャーセンターより安く、大学生にもなれる」(学生)わけだ。在学者の6割以上が大学・短大卒業者で、卒業を目指さない学生もいるが、出欠がとられ、テストもある。おのずからカルチャーセンターとは異なる。制度スタート4年目だが、今春、編入学の社会人が2人卒業した。
(上記記事より)

そんなわけで、愛知文教大学の試みです。

342人の学生のうち、75人が社会人とのことですから、かなりのインパクトはあります。
その中心は60歳以上のシニアだとのこと。

熱意を持って真剣に学ぶ社会人学生が増えれば、確かに教室の緊張感は高まるでしょう。
高校を卒業してすぐに入学してきた学生達にも、刺激にはなるかも知れません。

それにしても、ものすごい大盤振る舞いの学費設定です。
「授業料6万円」というのは、1科目のことかと思いましたが、そうではない様子。

教室の人数が数人増えても問題はない。それなら「無料で入学してもらおうか」と。ただ無料は問題があるので、最低額でと決めました。教育効果が上がったと考えています。社会人は学習意欲があります。残念ながら高校から入学する学生には意欲に欠ける者がいる。社会人が教室に交じることで、一般学生に無言の教えが伝わります。
(上記記事より)

……という大学関係者(書かれていないのですが、おそらく学長?)のコメントが紹介されています。
これならカルチャーセンターより安いです。

社会人に超格安で、高品質な学びの機会を提供することには意義があります。
また、大学全体に、学びの環境をつくるという点でも、効果はあるでしょう。

ただ、この取り組みには、いくつか「おや?」と思う部分もあります。

例えば、上記の記事には、「40歳以上を対象とした社会人特別入試」とあります。

■愛知文教大学

学生の2割を占めるほどのこの社会人特別入試、なのですが、なぜか大学のwebサイトのどこにも、そんな入試制度があることは書かれていません。当然、学費のこともわかりません。

それどころか、シニアが大勢通う大学だということすら、大学のwebサイトではまったく触れられていないのです。
大学の特長」などのページでも、ノータッチです。

そりゃあ、大学として本当に集めたいのは、正規の学費を支払って通ってくれる若い学生の方でしょうから、社会人特別入試のことは、あんまり前面には打ち出したくないのかも知れません。
ただそれにしても、「まったく書かれていない」のは問題です。募集人数を始め、どのような内容で学生を集めているのかが、よくわかりません。応募しようと思った方は、困るのではないでしょうか。

それに、40歳以上の社会人が学生の2割を占めるなんていったら、高校生には相当のインパクトだと思うのですが、webサイトを見る限り、その事実は、高校生にまず伝わりません。
「教育効果が上がったと考えています。」とありますが、それならなぜ、この環境を積極的に広報しないのか。
「入学したら、キャンパスにいる学生の半分以上が実は40歳以上の人と留学生だった!」なんて、新入生達にビックリされそうです。

地域貢献とのことで、敢えて地元メディアだけで告知しているのかもしれませんが、教育的な意義を感じてこうした環境をつくっているのであるなら、別に隠す必要もないはずです。

実はこの愛知文教大学、(この社会人特別入試に限らず)大学の概要データ自体がほとんど非公表です。

冒頭の記事には、学生数は342人とありますが、この数字すら、webサイトには出てきません。
受験の合格者数や倍率、定員充足率なども全然わかりません。

かろうじて、大学概要の案内ページで、「一学年150人」という記述がありますが、これだけです。

ということは4年でおよそ600人?
学生数342人ということは、定員の6割にも満たない、完全な定員割れ?
……などと、あんまり芳しくない経営状況が類推できる程度です。
(何しろ情報が全然公開されていないので、こんな乱暴な計算しかできません)

ちなみに冒頭の記事には、「中国人など125人の留学生もいる」とありますから、日本人で、かつ正規の学費を払って通っている学生は142人ということになります。

冒頭の記事には、他大学関係者の声として、こんなコメントが紹介されています。

「少子化で有名大以外は学生確保に躍起だ。定員割れだと国の補助金も切られるから」と他大学関係者が解説する。愛知文教大は新設大のうえ、交通はJR高蔵寺駅からスクールバス利用の不便な立地。多くの大学が生き残り策を模索する中での「大きな決断」(坂田新学長)の結果が今の姿といえる。
(冒頭記事より)

つまるところ、なるべく定員を満たし、補助金がカットされないようにするために、「超格安」でシニアや社会人を正規学生として受け入れているという面もあるのではないか、という指摘です。

確かにそう言う面もあるでしょう。
というかこの場合、その面が非常に大きいのではないかと思われます。

別に、それが即、悪いと言うことではありません。
限られた予算や補助金をうまく使いながら、社会に広く学習機会を提供し続けられるということであるならば、それはそれで社会的に存在意義のある教育機関です。

ただ、それなら堂々とwebサイトその他で広報すればいいのに、とか
果たしてこの経営状態で、教育水準をずっと維持し続けられるものなのか、とか、
マイスターは、ちょっと思ったりもするわけです。

多様な学生が学ぶ大学は良い大学だと思いますが、その状態がちゃんと経営的、教育的に維持できることは大事な前提条件です。
また、一般の受験生にその環境を伝え、それを魅力に感じて入学者が集まってくるような状態が理想と思います。むしろ隠している、なんて状況は、たぶんあんまり良いことではないでしょうから。

皆様はこの取り組みについて、どう思われますか?

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。