マイスターです。
国の教育予算を巡って、文部科学省と財務省との間の牽制合戦が続いています。
【今日の大学関連ニュース】
■「教育費:10年間でGDP5% 文科相が要求へ」(毎日jp)
渡海紀三朗文部科学相は9日午前、東京都内で開かれた文相・文科相経験者との会合で、教育関連予算を対国内総生産(GDP)比で現在の3・5%から、10年間で5・0%への引き上げを求めていく方針を表明した。今後5年間の政府の教育方針を示す「教育振興基本計画」に数値目標を盛り込む。
(略)渡海文科相が表明した方針は、教育支出を経済協力開発機構(OECD)諸国平均の対GDP比5・0%並みに引き上げるというもの。
(上記記事より)
■「GDP比5%の教育投資を 教育再生懇が緊急提言」(47NEWS)
政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾長)は20日、5月中に閣議決定する「教育振興基本計画」で、教育投資額を国内総生産(GDP)比5%に引き上げる数値目標の明記などを求めた緊急提言を発表した。
提言は、日本の公的な教育支出額が対GDP比3・5%にとどまっていると指摘し、経済協力開発機構(OECD)加盟国並みの5%にする必要性を強調。グローバル化に伴って国際的な人材育成競争は激しさを増しており、財政的基盤の確保が不可欠とした。
(上記記事より)
文科省、および教育再生懇談会は、上記のように「教育関連予算をGDP比で現在の3.5%から5.0%に引き上げるべきだ」という主張を展開。
OECD諸国の教育支出額は平均で5.0%であり、日本の国際競争力を高めるためには最低でもこの水準にする必要がある、というのが論拠です。
一方、国の予算を預かる財務省。
何しろ、「国の借金」を減らし、財政を健全化させるのが彼らのミッション。
文科省の要求に対しても、そう簡単には首を縦に振りません。
文科省の案を牽制する意図で国立大学授業料の引き上げ案を発表したり、各種のデータを用いて文科省の要求に対する「反論」を公表したりと、真っ向から反対します。
■「国立大授業料、私大並みに 財務省、5200億円捻出案」(Asahi.com)
財務省は19日の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で、国立大学予算で授業料引き上げなどによって最大5200億円を捻出(ねんしゅつ)できるとの試案を発表した。生まれた財源を高度な研究や人材育成、奨学金の拡充に充てるべきだとの主張も盛り込んだ。国から国立大に配る運営費交付金(08年度予算で約1兆2千億円)の増額論議を牽制(けんせい)する狙いがあると見られる。
試案は、授業料を私立大並みに引き上げることで約2700億円、大学設置基準を超える教員費を削ることで約2500億円の財源を確保できるとしている。「義務教育ではないので、一般的な教育自体のコストを(税金で)補填(ほてん)することには慎重であるべきだ」とし、「高等教育の機会均等は、貸与奨学金での対応が適当」とした。
(略)この日の財政審は、与党議員らから増額要求が強まっている教育、途上国援助(ODA)の予算について「財政状態からみて増やす状況にはない」との認識で一致。「11年度に基礎的財政収支を黒字化する政府目標の堅持が必要」との考え方を意見書に盛り込むことも決めた。
(上記記事より)
■「教育関連予算:教育費増額要求に反論 財務省『欧米とそん色ない』」(毎日.jp)
渡海紀三朗文部科学相や自民党の文教族議員が、教育関連予算の対国内総生産(GDP)比を大幅に引き上げるよう政府に働きかけていることに対して、財務省は12日、欧米各国などの詳細なデータを盛り込んだ反論書を公表した。この中で、財務省は「少子化が進む日本とそうでない他の国のGDP比を単純に比べても意味は無い」と主張。その上で「生徒1人当たりの教育費で見ると、日本は主要先進国とそん色なく、数値目標を掲げるなら、予算の投入量ではなく、教育による成果にこそ適用すべきだ」と、「教育予算のバラまき」を強くけん制した。
(略)財務省は反論書で「1人当たり教育費」を算出すれば、先進国中で米国に次いで2番目の公的教育支出国になると指摘。「欧米のように、教育でどんな子どもを育てるのか、学力向上や規範意識など成果にこそ数値目標を設けるべきだ」と訴えた。
5・0%目標に必要な財源7兆4000億円の手当ても「全く考えられていない」と批判した。
(上記記事より)
これに対し、文科省は「再反論」の文書をまとめたとのこと。
■「教育予算やまぬ「文書合戦」…文科省が財務省に再反論」(読売オンライン)
文部科学省は19日、財務省が12日に発表した、国の教育支出の大幅増額は必要ないとする「反論」に対する「再反論」の文書をまとめた。
教育予算をめぐる財務、文科両省の対立は、「文書合戦」の様相を呈してきた。
文科省は、今年度から5年間の教育政策の財政目標を定める「教育振興基本計画」をめぐり、教育投資の数値目標を対国内総生産(GDP)比で「5%」と明記するよう求めている。「再反論」では、現在のGDP比が、経済協力開発機構(OECD)諸国の中で2番目に低いなどのデータを盛り込んでいる。
財務省は12日、「生徒1人あたりなら、米英独仏の平均とほぼ同水準」とする反論文書を発表。数値目標の明記についても、「教育投資や教職員定数の『投入量』でなく、どのような子供に育って欲しいかという『成果』で設定すべきだ」と否定的な見解を示した。
文科省はこれに対し、「成果の実現には一定の条件整備が必要で、そのための投入量目標も重要だ」と反論している。br />
(上記記事より)
互いに、一歩も譲らないという感じです。
こうしたやりとりは、以前からちょくちょく行われています。
ちょうど一年前にも、国立大の運営費交付金配分に競争原理を持ち込むかどうかで、文科省と財務省がそれぞれのデータを展開し、激しくやり合っていました。
それぞれの省の言い分に、もっともな部分と、そうでない部分とがあるように、マイスターは思います。
個人的には、文科省が掲げる「教育支出額の対GDP比を、国際水準に!」という主張には、基本的には賛成です。
財務省は「教育投資や教職員定数の『投入量』でなく、どのような子供に育って欲しいかという『成果』で設定すべきだ」と主張していますが、文科省が反論しているように、「成果の実現には一定の条件整備が必要で、そのための投入量目標も重要」です。
マイスターが言うまでもなく、現在、各国は教育による国の国際競争力向上に力を入れています。
今後は、特に大学・大学院を中心に、国境を越えた人材の流動化も進むでしょう。これまで日本の誰も経験したことがないような環境です。
日本の高等教育は、戦前から戦後に至るまで、正直言って本当の意味での競争を自力で乗り越えたことがありませんでした。しかし、今後は違います。ですからこれまでの感覚ではなく、国際的な競争が本格化した後の世界を見据えて、人材に投資をすべきと思います。
それに日本が従来得意としてきたものづくりなどの生産力でいずれ中国などに追い抜かれることが見込まれる以上、他の分野で対抗できる人材を育てないと、それこそ国の財政がそのうち傾きます。
ただ、文科省の主張には、「現在の予算がどのくらい適切に使われているか」という視点が欠けています。
■「4分の1は“目的外”使用 学校耐震化06年度交付金」(47NEWS)
つい先ほども、↑こんなニュースを見つけたばかりです。
例えば、国立大学法人運営交付金ひとつとっても、実はどのような算定方法でこれを各大学に配分しているか、本当のところはよくわかっていません。公表されていないのです。
教員や学生の人数で配分されているとも言われますが、詳細は不明です。
ざっくりとした総額を増やすとかいう前に、教育と研究に対してどのように投資をすべきかとか、どの学部にコストがかかるかとか、「配分」についての議論が尽くされるべきだと思いますが、なかなかこれだといった結論が出てきません。
そもそもすべての大学を同じように扱って良いのか、目的や位置づけによって投資の考え方も変えるべきじゃないか……なんて意見もたまに出ますが、実行力を持つ、具体的な政策として反映されてはいないようです。
また、税金に頼らず民間から投資を引き出す工夫においても、まだまだできることはあるように思います。
予算の増額もいいのですが、せっかくなら民間が大学に投資しやすくなるように税制を変えてくれとか、そういった要求もされてみてはいかがでしょうか。
他方、財務省の言い分にも、もっともと思う部分はあります。
しばしばニュースが報じるように、日本の財政状況は大変に不健全な状態です。
そして文科省に限らず、他の省からも、「国にとって最重要の課題だから、これを増額すべきだ!」という要求が毎年寄せられます。このような状況ですから、すべての省の期待には応えられません。
それも、どこかを減額する代わりにこちらを増額、というのではなく、「総額の増加」を各省が求めてくるのですから、大変です。
現在、どの省にも、「これは無駄でしょう」と思うような事業がいくつかはあると思いますが、それらだって最初は、必要不可欠と説明されて予算をつけたはずなのです。今回もバラマキではないかと財務省が慎重になるのも無理はありません。
「どんな成果が出るか、詳細に説明してよ」と尋ねるのは、当然でしょう。
しかし、財務省にも欠けている視点がいくつかあります。
まず、先ほど述べたように、教育への支出は「国の財政を強化するための投資」であるということ。この投資額を引き下げてしまっては、将来の日本が立ちゆかなくなります。
「義務教育ではないので、一般的な教育自体のコストを(税金で)補填(ほてん)することには慎重であるべきだ」とありますが、その考え方で果たして、勝てるでしょうか。
長期的に見たら日本の経済力、ひいては財政状態が、国際的に低い水準に落ち込むのではないでしょうか。
また財務省は「少子化が進む日本とそうでない他の国のGDP比を単純に比べても意味は無い」と主張していますが、これは順序が逆なのではないかと思います。
日本は教育費が高いから、少子化が進むのではないでしょうか。
「少子化を改善するための教育支出」の重要性を冷静に考えれば、財政上の扱いもかなり変わってくるのではないかと思うのですが。
それと「生徒1人あたりなら、米英独仏の平均とほぼ同水準」とも書かれていますが、「OECD加盟国の平均」ではなく、恣意的にこの4カ国を抜き出して計算した理由は何でしょうか。
なんだか、数字あわせのためのトリックが使われているように感じます。
そんなわけで、どっちもどっちな部分はあります。
昨年も同じことを感じたのですが、目についてしまうのはやはり、「省益」中心の発想。
財務省による国立大授業料の引き上げ案なんて、どう考えても実現は不可能。それは財務省もわかっているはずです。それくらい、極端な構想なのですから。
それをこのタイミングでわざわざ発表するのは、文科省に対して牽制したいからでしょう。マイスターには、始めから文科省に対してプレッシャーをかけるというか、ケンカをふっかけるためにこんな数字を用意したとしか思えません。
ぶっちゃけ全部、「予算をいかに削減するか」というストーリーのための台本でしょう。
省庁同士の綱引きのために、いちいち非現実的な数字を作り出して、国民を翻弄するな、と思います。
幼い大人同士の綱引きは、別のところで勝手にやってください。
文科省の構想も、内容には賛同しますが、やり方はうまくありません。
国全体の予算が限られているのは周知の事実なのだから、文科省の予算のどこかは削るとか、大学の人材育成力を上げることで投資をどれだけ呼び込むとか、建設的な案にすべきだと思います。
なんだか、教育に対して世論が同情的な今のうちに、文科省全体の予算を拡大できる限り拡大して、省の力を高めようという思惑が透けて見えるのです。文教族と呼ばれる政治家の皆さんの思惑もそこに加わり、どうにも政治力学的な雰囲気が感じられます。
増やした予算を、本当に有効に、効果的な形で配分するところまで考えてくれているんでしょうね? と聞いてみたくなります。
よく「縦割り行政」とか「省の間の綱引き」とか言いますが、個人的にはこんな見え透いた発表合戦なんてせず、財務省と文科省の間で、「一番良い競争状態」を考えていただきたいところです。お互いを全否定するのではなく、お互いに知恵を出し合えばいいんじゃないでしょうか。
それぞれの試算結果に、なるほどと思える部分があるのに、今はお互いを否定するために数字を使っているものですから、あまり建設的な議論に発展していません。
そういう数字の使い方はやめてほしいと個人的には思います。
「それが中央省庁ってもんだよ」なんておっしゃる方もいるかも知れません。しかし個人的には、日本を良くするためにはこういうところを一番最初に直すべきだと思います。
以上、一連の報道を見ながら、そんなことを思ったりするマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
日本は民間の教育投資が盛んだからいいんですよ。
民間の投資なら個人個人にあった内容を選べます。官製の教育は高校までは基本的に選べませんので、個人個人に合わない内容になって無駄になる部分が非常に大きいです。なぜそこまで官による税投入に固執するんですか?