先日、東大に行った際、ついでに寄ってきたのが、キャンパス内にある「コミュニケーションセンター」です。
『AERA』の「面倒見のいい大学」で、東大変革の象徴として紹介されていたので、気になっていたのです。
で、せっかく東大に行く用事があったので、ついでに見てきました。
「赤門」をくぐってすぐという、外部から来た人間にとっては大変アクセスしやすい場所にありました。
内容は…ただのパンフ置き場&おみやげ屋さんでした。
もちろんただのおみやげではなくて、売っているのは東大の研究成果によるお酒だったり、東大教員の執筆した本だったりするのです。
でも、マイスターは「ここに来れば東大の全体像がわかる」みたいなセンターだと思っていたので、予想外でした。
唯一のスタッフであるおみやげ屋の店員さん(学生)に、
「○○研究科の入学に関する資料は、どこでもらえますか?」
という質問をしてみました。
(実際、どこでもらえるのかわからなくて、困り果てていたのです)
でも、そうしたことはわからない、というお答えでした。
「じゃあ、どこで聞けばわかりますか?」という質問にも、わからない、というお答えでした。
むむむー。
このコミュニケーションセンター、散歩途中と思われる若者がおみやげを見ていました。
しかしこれが、果たして本当に「東京大学コミュニケーションセンター」と言える施設なのかどうか。
いやもちろん、無いよりは、あった方がいい施設ではあるんです。
こうしたわかりやすい社会へのアピールも、必要です。
でも東大の場合、それよりまずは「東京大学総合窓口」を作るのが先では…。
そうです。
少なくとも本郷キャンパスには、「東京大学総合受付」みたいなものがないのです。
あるのは、各学部の校舎と、各学部の校舎それぞれに集められた、学部についての情報だけです。
もしかしたらどこかにあるのかも知れませんが、地図を見ても、守衛さんに聞いても、「コミュニケーションセンター」で聞いてもわからないような窓口は、窓口ではないです。
法人系の建物には行っていませんが、広大なキャンパスの奥の奥にあるみたいでした。
とても猛暑の中、行く気はしませんでした。
このキャンパスを訪れたことがある方ならおわかりかと思いますが、何しろ天下の東大の本拠地です。並の広さではありません。
マイスターなんて、しょっちゅうここで迷子になっているというのに。
その上この暑さ。安田講堂を見る前に救急車を見るハメになりそうでした。
本来は、名前からしても、立地からしても、この「東京大学コミュニケーションセンター」こそが、そうした機能を受け持つべきだったのではないでしょうか。
ロゴ入りシャーペンや、日本酒などを売っている場合ではありません。
ましてや教員が書いた難解な専門書を並べて自慢している場合でもありません。
マイスターのように、肩すかしを食らった訪問者は、他にも大勢いるんじゃないかと思います。
(さらに悪いことには、建物の外観は、いかにも学生や企業人向けのセンターなんです。
とてもおみやげを売っている店には見えません。商品、売れてるのかな…?)
やはり東大の広報姿勢は、普通の大学や企業とは、決定的に何かが違っています。
こんなコミュニケーションセンターをつくったところで、その姿勢が変わるものではありません。
先日ご紹介した東大のwebサイトにも、気になった点がありました。
学部ごとにコンテンツの項目や内容、デザイン、機能などがまったくバラバラなことです。
この大学は、「東京大学」という組織としてデザインされているのではなくて、
「東大○○学部」とか、
「東大○○研」
といった意識の集まりで構成されているんだな、
と改めて感じました。
別にそれが全く悪いとは思いませんが、私のように東大の全容を知りたい人間は、迷ったり、たらい回しにされたりします。
一般企業の例で考えてみると、どうでしょうか。
・○○事業部
の社屋やwebサイトは事業部ごとに用意してあるのに、
本社ビルや、企業全体のwebサイトがない状態ですね。
え?
商品を買いたいお客さんや、メーカーの人はそれでも困らないから問題ないだろうって?
いえいえ、そんなことはありません。
企業の場合は、
・就職希望の学生、
・株を保有している株主(もしくは保有を考えている投資家)、
・その企業を研究している研究者
・その企業に興味を持った一般生活者
などが、確実に困ります。
たとえばその企業の全体像、歴史、経営ビジョン、今後の展望などは、事業部が用意できる情報ではありませんよね。
「そもそもこれはどこに聞けばいいんだ?」みたいな疑問を抱えている人が、いきなり事業部にまわされるのも、悲劇です。
事業部ごとにしか情報が用意されていなかったり、入口にあたる窓口がなかったりすると、上記のような訪問者はどこを訪ねていけばいいのかわかりませんよね。
実際、現在では日本の企業サイトの多くが、こうした多様なステークホルダーのために、情報を提供するようになってきています。
私立をはじめとした多くの大学も、そうです。
本来、大学というのは非常にステークホルダーの種類が多い組織です。
たとえば、大学改革で注目を集めている金沢工業大学のサイトを見てみれば、それがわかります。
・金沢工業大学
http://www.kanazawa-it.ac.jp/
トップページ左のコンテンツメニューをご覧ください。
ステークホルダーを7種類も設定しています。
そして、それぞれに合わせた情報を編集して用意しているのがわかると思います。
「在学生の保護者の皆様へ」
「地域社会の皆様へ」
というメニューまで用意している大学は、そうはないでしょう。
本当はこういった姿勢を打ち出すべきなのです。ぜひ、参考にしたいコンテンツ設計です。
用意されている情報もなかなか詳細でわかりやすいですし、
各ステークホルダーの関心に合わせた内容をうまく用意していると思います。
さて、東大に話を戻します。
東大には、どうもこうした「地域社会の皆様へ」や、「一般生活者の皆様へ」のような発想が不足しているように思います。
それは、キャンパスや、webサイトの設計を見ればわかります。
キャンパスも、webサイトも、情報を媒介するメディアの一つです。
これらの設計には、その大学の、ステークホルダーに対する考え方が表れているものです。
総合窓口(受付)のない本社ビルなんて、普通ありえませんよね。
でも、それを東大のキャンパス設計者は、それをやっているのです。
本当は、日本一税金をつぎ込まれている大学(多分)ですから、日本一、そうした姿勢を見せるくらいでいいんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか。
おみやげ売り場を設けておきながら、総合窓口を作ってない。
それはどうも的はずれの、ポーズだけの改革に思えてしまうのです。
こうしたポーズだけの改革案が通りやすい組織は、危険です。
総合的に全体を見て判断を下す責任者がおらず、シロウトの合議制で物を決める組織が、往々にしてこういう失敗をしでかします。
まさに、「上司は思いつきでものを言う」の世界。
東大関係者のみなさんは、気を付けてください。
以上、大学職員による東大レポートでした。
はじめまして。
東大の総合窓口のようなものが必要というご意見、私も同感です。本郷キャンパスでの学生時代、内部にいても分かりにくい点がいくつかありました。外部の方にとってはさらに煩雑に感じられる点も多いことと思います。
本郷キャンパスの竜岡門脇にある、「広報センター」には既に足を運ばれていらっしゃいますでしょうか?こちらは建物は小さいながらも、大学に関する各種資料や配布物を沢山そろえていて、また、受付のスタッフの方も非常に親切で、いろいろと詳しく案内してもらえます。
続けて失礼します。補足を少しさせて下さい。
上記の「広報センター」は10年以上前から開設されている施設です。「○○研究科の入学に関する資料」は、基本的には研究科ごとにある事務で得られることが多いと思います。広報センターにて、各研究科事務の所在地などは知ることが出来ると思いますし、一部はwebでも分かると思います。しかし、いずれにせよ、全研究科の入試資料を一手に扱う総合窓口があるに越したことはありません(建物としても、web上のサイトとしても)。そうなれば有難いな、と私も思います。
「ここに来れば東大の全体像がわかる」みたいなセンター、という期待でコミュニケーションセンターを訪問した場合、期待はずれの思いをしてしまうと思います。コミュニケーションセンターという名前が思わせぶりといえばそうですが、しかし、あくまでお土産売り場・パンフ置き場・研究成果公開の性格をもったささやかな施設です。基本的にはそういう施設であることが謳われています。ただし、広報機能も期待されてしかるべきなので、学生スタッフには、施設そのもの以外についても十分情報提供できるように準備してほしいものですね。