中国から帰ってきたマイスターです。
せっかくなので、もう一本、中国に関する話題を。
経済や政治の面で影響力を強めている中国ですが、かの国の戦略はそれだけではありません。
マイスターは、その国家の影響力を測る度合いとして、
「その国の言語がどのくらい世界で使われているか」
「その言葉を学んでいる人間が世界にどのくらいいるか」
という指標があるように思います。これには、あまり異論をもたれる方はいないのではないでしょうか。
この「中国語」の普及という点においても中国は、世界戦略と呼べるものを持っているのです。
その一つが、今回ご紹介する、「孔子学院」戦略です。
【今日の大学関連ニュース】
■「福山大の孔子学院が始動」(中国新聞)
福山大(福山市東村町)と中国政府の孔子学院本部が共同設立した「福山大学孔子学院」の開所式が4日、市内のホテルであった。学生や企業の社員に中国語や中国文化を教える孔子学院の設立は県内初。銀河学院中・高(大門町)も同本部と「福山銀河孔子学堂」の設立協定を結び、開所した。
日中の130人が出席。中国の羅田広駐大阪総領事が福山大の宮地尚理事長と銀河学院中・高の門田峻徳理事長にそれぞれの看板を手渡した。宮地理事長は「学生や企業で中国語のニーズは高い。日中発展の基点になっていきたい」とあいさつ。
福山大学孔子学院は、9月完成予定の「宮地茂記念館」(仮称)=丸之内=の中に開設する。
(上記記事より)
中国の「孔子学院」は、中国政府が世界展開する中国語スクールです。
ただの「町の語学学校」ではなく、各国の大学や教育機関と共同で設立・運営されるという点がポイント。大学キャンパス内に設立される例も少なくないようです。
大学には元々、語学を学ぶ人間が集中しています。それも単なる教養としてではなく、その国の文化や社会を学習・研究するためのツールとして身につけたいというニーズがあります。そんな大学キャンパス内に、中国政府のお墨付きで語学学校を設置するのです。運営には現地の大学の教員なども協力し、人材交流などの窓口としても機能するということですから、これは、とても賢いプロジェクトであるように思います。
孔子の名前を冠してはおりますが、別に儒教を教えるわけではありません。
ドイツの「ゲーテ・インスティトゥート」や、スペインの「セルバンテス協会」のように、国家が公式な語学学校や語学試験を展開する例は他にもあり、その際、国際的に知られている文学上の有名人などの名前を使うのが流行(?)なのですね。
しかし、他にはない孔子学院の最も大きな特徴は、その世界展開の速さです。
韓国・ソウルに最初の孔子学院が開校したのが、2004年11月16日。その後、現時点で既に世界約65カ国、240カ所に開設されているとのこと。(参考)
41ヶ月で240ヵ所ですから、単純計算で考えると、この3年あまりの間、世界のどこかに毎月5~6校の孔子学院が設立され続けていたことになります。
まさに、国家の威信をかけての大プロジェクトです。
国際社会の中で中国の影響力が最も強まっている「今」のタイミングでスピード展開するからこそ、このプロジェクトは最大の成果をあげるのでしょう。
タイミングを逃すことなく、国家の世界戦略の中に「語学教育」を組み合わせるこの構想は、他の先進国の取り組みと比べても抜きんでたものがあるように思われます。どうやら中国のトップ達は、言語というツールが持つ力の大きさをよくわかっておいでのようです。
ちなみに、日本で現在開設されている、もしくはこれから開設されることが決まっている孔子学院は以下の通り。
<北海道>
■札幌大学孔子学院
<東京>
■桜美林大学孔子学院
■立命館大学孔子学院東京学童
■早稲田大学孔子学院設立協定書に調印 ~初の「研究型孔子学院」として北京大学と事業展開~
■「工学院大学孔子学院」調印式を挙行
<愛知>
■愛知大学孔子学院
<京都>
■立命館大学孔子学院
<大阪>
■大阪産業大学孔子学院
<神戸>
■神戸東洋医療学院:「孔子学校」神戸に開設 中国政府認可
<金沢>
■北陸大学孔子学院
<広島>
■福山大学:「孔子学院」の看板伝達 福山で開所式
<岡山>
■岡山商科大学孔子学院
<大分>
■立命館アジア太平洋大学孔子学院
中国やアジアに関する教育・研究に強みを持っている大学を中心に、北から南まで、既にこれだけの孔子学院がリストされています。
中国政府の孔子学院サイトによると、日本の孔子学院は現在、タイに続いて世界で2番目に多いようです。
日本の中に、「中国通」を育てようという明確な国家戦略の表れでしょう。
(中国政府はさらに、既に「ネット孔子学院」や「ラジオ孔子学院」なども開設しています)
もちろん学校ですから、設立して終わり、と言うわけではありません。
今後は世界中の孔子学院から、毎年、中国語を学んだ学生達が巣立ってくるわけです。
各国で中国語を学んだ人々が、中国の人々や各組織と関係をつくり、ネットワークを形成していくことでしょう。その後、それこそ北京大学や清華大学を始め、中国の大学に進学する人も出てくるはずです。
孔子学院戦略の本当の威力は、そこから発揮されるのかも知れません。
では、日本はどうでしょうか。
■「日本語学習、海外に100拠点…外務省方針(2007年12月22日)」(読売オンライン)
日本語を世界に売り込め――。外務省は、海外で日本語を教える拠点を今後3年間に、現在の10か所から約100か所に増やす方針だ。来年度予算案に2億1000万円を盛り込み、70か所増やす。
中国が中国語教育の「孔子学院」を次々と設けていることに対抗し、外務省広報文化交流部は「一目で日本語講座とわかる名称を考えたい」としており、「紫式部日本語講座」とするアイデアも検討されている。
海外の日本語学習人口は2006年時点で133か国・地域の298万人となっている。1979年当時の約23倍で、03年と比べても約62万人増えているが、今後は伸び悩むと見られている。
これに対し、中国はこの2年間で「孔子学院」を188か所に設けた。中国経済の拡大で「中国語学習熱」は広がっており、外務省は「日本語人口の多い東南アジアなども中国語に席巻される」との危機感を募らせている。
(上記記事より)
上記は、昨年末の記事です。
このように、中国の後追いで、「紫式部日本語講座」なる構想が生まれているようですが、おそらく孔子学院以上の取り組みを展開するのは、難しいでしょう。
少なくともアジアにおいては、少しずつ中国語学習者が増え、日本語学習者は減っていくと思います。
だからといってもちろん、日本語を学ぶ人が完全にいなくなるようなことはないでしょう。
しかし冒頭で述べた通り、「その国の言語がどのくらい世界で使われているか」、「その言葉を学んでいる人間が世界にどのくらいいるか」というのは、国家の影響力の大きさと連動する指標です。
日本語学習者の人数を維持する、あるいは増やしていくことは、今後の日本の重要課題です。
日本は、既に経済力では、いずれ中国に負けてしまうことが確定しているような状態です。
だからこそ、文化や学術研究の発信地としては、世界から注目されるポジションを確保していかなければならないのではないかと、個人的には思っています。
そんな日本の我々が、中国の孔子学院の取り組みから学ぶことは多そうです。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。