教育再生会議 最終報告を首相に提出

マイスターです。

2006年10月、安倍内閣の目玉の一つとして発足した、教育再生会議。
大学の9月入学や教員免許更新制など、これまで大胆な提案を発信してきました。

中には賛否両論を巻き起こし、今でも議論になっているようなものもあります。
教育再生会議そのものに対する評価も、人によって違いがあるでしょう。
ただ、就学前の家庭の教育から大学院まで、教育に関する幅広い問題を取り上げ、国民の間での関心を高めた、という点は、多くの人が認めるところではないかなと思います。

途中、突然の首相交代という事態にも見舞われ、一時期は会議自体が解散になるのでは? とも思われましたが、先の1月末、なんとか最終報告の提出にこぎつけました。

というわけで、↓こちらが、その最終報告です。

【今日の大学関連ニュース】
■「社会総がかりで教育再生を(最終報告) ~教育再生の実効性の担保のために~(PDF)」(首相官邸:教育再生会議)

現在、日本の教育で問題とされている点は、論点としておおおそ取り上げられているのではないでしょうか。
PDF7ページ分の量であっという間に読めますから、教育問題を国民的議論にしていくためにも、多くの方の目に触れるといいなと思います。
まずは読んでみないと、内容に対する賛否も判断できませんしね。

さて、この報告書では、それこそ「教育」に関するあらゆる問題が取り上げられています。

ただ、多種多様な論点すべてを本ブログでご紹介していると、終わりません。
教育というのは連続した営みであり、家庭の教育も、小中高大の学校も、果ては生涯教育まですべて繋がっているのですが、本日のところは、大学・大学院関係の記述だけを抜粋してご紹介しておきたいと思います。

1.提言の実現に向けて

教育再生のための課題は多岐にわたります。私たちは、教育内容の改革、教員の質の向上、教育システムの改革、社会総がかりでの国民的参画、改革の具体的実践の重視を柱として、21世紀における我が国の教育を再生していく上で重要と考える事項に絞って提言を行ってきました。
これら第一次報告から第三次報告までの提言は、全て具体的に実行されてこそ初めて意味を持ちます。提言を実行するための具体的な動きが国、地方公共団体、学校、家庭、地域社会、企業等、社会全体で始まることが大切で、これらの取組をフォローアップしていくことが求められます。その中で主な項目を挙げれば、次の通りです。

……と書かれた後に、まず↓こんな記述があります。

【教育内容】 (心身ともに健やかな徳のある人間を育てる)
(略)
○大学と教育委員会等のネットワークである「大学発教育支援コンソーシアム」を推進し、大学の英知を学校教育の改善に活かす。

これは大学での学びというより、大学の研究成果を学校教育に還元する重要性を指摘した箇所ですね。うん、確かに重要です。

そしてその後、大学や大学院の在り方について書かれている部分が、↓こちら。

【大学・大学院改革】 世界をリードする大学・大学院を目指す
○大学は「教育の質」を高め、成績評価の厳格化を図り、卒業生の質を保証する。
○大学は教養教育を重視し、社会や産業界、地方公共団体との連携を深め、社会人としての基礎的能力と専門的能力を備えた卒業生を送り出す。
○大学は学長のリーダーシップにより改革を推進するとともに、「学部の壁」を破り、新しい学問分野の開拓・創出や社会の発展に寄与するため、教育組織を再構築する。
○大学院は国際公募による第一級の教員の採用と国内外からの優秀な学生の獲得に努力し、国際競争に勝ち抜ける世界トップレベルの教育研究水準を目指す。
○国公私立大学の連携により、国公私を通じた大学院の共同設置や地域における学部教育の共同実施を推進する。
○国立大学法人は教育水準の向上のため必要に応じ「定員縮減」や「再編統合」を推進する。
○大学・大学院の国際競争力強化のため、改革の推進とともに、高等教育に対する投資を充実する。競争的資金の充実とともに現在の基盤的経費の取扱いはしかるべき時期に見直す。
(上記記事より)

いかがでしょうか。

どれも、確かに大事なことです。
ただこれらの多くは、教育再生会議が創設される以前から議論されていた内容であるように思います。
例えば、

大学は「教育の質」を高め、成績評価の厳格化を図り、卒業生の質を保証する。

……といったくだりなど、以前から、こうなったらいいなと思っていた人は少なからずいたのではないでしょうか
(唯一、議論を巻き起こしそうな内容の「9月入学」については、すでに学校教育法施行規則の改正により、大学の4月入学原則が撤廃されておりますので、上記の記述では触れられていないようです)

マイスターを含め、おそらく多くの方々にとって関心があるのは、「今後」。
現時点では、教育再生会議の提言には、それほどの新しさはなく、大事なのは「これをどうやって実現させるか」という、方法論の部分なのだと思います。

ですからこの後、教育再生会議で議論された内容を実現させるための組織づくりを、考えていかなければなりません。

実際、上記の報告書には、以下のような提言が入っています。

3.提言の実効性の担保のために
教育再生会議の役割はこの最終報告で終了します。今後最も重要なことはこれまで報告書で提言した事項の制度化・仕組みづくりを進め、具体的な教育現場での改革に如何に結びつけるか、提言の実現とフォローアップです。
文部科学省をはじめ、関係府省においては、実施計画を作成し、提言の内容を着実に実行することが必要です。
また、第一次から第三次報告が提言に終わることなく、教育再生が現実のものとなるよう、国、地方公共団体、学校等における実施状況を評価し、実効性を担保するため新たな会議を内閣に設けることが極めて重要です。
60年ぶりに改正された教育基本法を踏まえ、教育三法の施行や教育振興基本計画の策定など、いよいよ教育再生の本格的な実施段階に入ります。教育再生の鍵を握るのは、これからの実施段階です。

この、実効性を担保するための会議、というのは一体どのようなものになるのでしょうか。
例えば具体的には、

教育再生会議の主要メンバーは、そのまま新会議の委員として再任されるのかな?
それとも、ガラッと違うメンツになるのかな?

とか、

具体化を検討するための組織ということは、文科省官僚や、いわゆる「文教族」と呼ばれる方々もメンバーに加わるのかな?
もしそうだとしたら、これまで議論してきた改革案がいわゆる「骨抜き」の状態になっちゃったりしないかな?

とか。
こういった話、結構あり得ると思われませんか? マイスターはとっても気になります。
こうした点が、実際に法案や政策として実を結ぶまでの過程に、かなり大きな影響を与えると思うからです。

実際、今年1月の初めに、そういった趣旨の報道がありました。

■「日本の公教育改革、福田首相が直接てこ入れ」(中央日報、2008.01.03)

日本経済新聞は1日、福田康夫首相が、過去2年間に渡って推進してきた教育改革案がスローガンだけで終わらず教育現場で実践できるよう、首相の直属機関として「教育再生推進委員会」を新設することにしたと報道した。この委員会は首相の諮問機関だった「教育再生会議」がこれまで提案した改革案を制度的に具体化する政府公式機構として首相の直属の内閣官房に事務局が設置される。福田首相が直接、教育改革の実務を行うという意味だ。
新組織にはこれまで改革案を出した民間専門家と、立法実務を担当する公務員を含み、積極的に制度立案を推進することになった。新機構は何より改革案を具体化する過程で必要とされる場合、政府省庁の協調を首相職権で要請できる。制度が教育現場で正しく実行されていているかを監視、指導する体制が常設化され、常時的に問題を解決していけるシステムが構築される予定だ。首相官邸関係者は「教育再生推進委員会は首相の権限に後押しされ、推進力を持つために迅速な意思決定が可能になる」と明らかにした。
(略)教育再生会議は今月中、福田首相に改革案を最終報告することにより役割が終了する。福田首相の悩みはこのような提案を制度化して具体的に推進することだった。なぜならば、歴代政権のように教育行政の実務権限を持っている文科省に改革を任せた場合、案が縮小され、却下される可能性が高いためだ。
(上記記事より)

改革の方向性はいちおう議論で決まったけれど、それを実現に移すまでの段階でいつの間にか骨抜きにされている、というのは、残念ながらわが国では良くあること。
中央日報は韓国のメディアですが、日本の政治システムについて、なかなか鋭い指摘をしてくれています。
実際、今回もそうなる可能性は、捨てきれません。

いずれにせよ、教育再生会議の「後」の組織こそ、実は日本の教育に実質的な影響力を行使することになるのではないかとマイスターは思います。
個人的には、いかなる結論であれ、明確に、開かれた議論のもとで出してくれる組織であって欲しいと願います。

まずは、メンバーの人選。
一体どのような方々が就任されるのか。今から気になるところです。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • マイスターさん始めまして。
    教育再生会議については、今までにも色々と話題になりましたが、最後までボタンの掛け違いの修正がなされないまま、ついに最終報告になりました。そもそも教育とは、何を目的として、誰がだれのために与えたり、与えられたりするのでしょうか。今回の最終報告の「はじめに」にある『生活者重視、すなわち教育の受益者である全ての子供や若者たち、保護者の立場に立った教育再生、・・・』が、私は、そもそも違うと思っています。
    教育の受益者が教育を受ける本人(保護者含む)であるという発想が、教育に対する受益者負担論になっている。教育再生会議なる、いかにも改革しそうなネーミングの会議が大きく報道でも取り上げられ、そのメンバーが公共の電波を使って、『私は、学校を経営していて、本校の教育目標は、子供のための教育です。』などと公言している。
    教育は本当に誰のため?最終報告の大学及び大学院の項目を見ても、企業の文字は1箇所も見えません。企業の代表者が、企業側の改革要望はぜす、大学や国に対しての要望のみを列挙した報告書とは名ばかりの要望書ではないでしょうか。
    総論と各論の棲み分けすらなされていないような気がします。
    この報告書を読んだ教育現場の人達が、社会のために教育をしているのであるという自覚や、社会使命を忘れ、目の前にいる受益者の満足度向上のみを目的に改革を進める状況が、果たして未来のわが国のための教育再生なのでしょうか?
    誰が今後の実現メンバーになるかよりも、今回は企業側の提案としてのまとめとし、言葉だけではない本当の意味での教育再生を考えるべきなのではないでしょうか?