学位取得の謝礼を受け取る 横浜市立大学

マイスターです。

横浜市立大学が揺れています。

【今日の大学関連ニュース】
■「博士号取得の謝礼授受…横浜市大」(読売オンライン)

横浜市立大学医学部(横浜市金沢区)の学部長(63)の研究室が、医学博士の学位を取得した大学院生らから「謝礼」として現金を受け取っていたことが11日、わかった。
関係者によると、2003年以降に少なくとも十数人から計340万円を受け取ったことが確認された。現金授受は長年の慣例として続けられ、総額は千数百万円に上るとみられる。横浜市大も現金授受を把握しており、内部調査に着手した。
複数の関係者によると、大学院生ら十数人は03年から07年にかけ、医学博士の学位認定を受けた後、1人当たり10万~30万円を学部長に渡していた。大学院生らは、「30万円の謝礼を払うのが慣例と聞いたため」「謝礼を出さないと人事面で冷遇されると思った」と説明しているという。
学部長は消化器病態外科(第2外科)の教授として、大学院生らに学位論文の作成を指導。学位認定は、別の診療科の教授クラスが主査、複数の准教授クラスが副査を務め、論文審査と面接で行われている。学部長も、副査として審査にかかわるケースが多かった。
関係者によると、学部長は大学側の調査に現金を受け取ったことを認めたうえで、「現金は預かったもので、研究室での新年会や研究会などに使った。私的に使っていない。昨年末から残金は返し始めている」と話しているという。学部長は現金を研究室名義の口座で管理する一方、手元にも数百万円を置いていた。
学部長は1992年、教授に就任。学位取得の謝礼授受は、そのころから行われていたとみられる。
(略)学位取得を巡る金銭授受については、文部省(現文部科学省)が62年に「個人的な謝礼でも収賄罪が成立する」と通達している。横浜市大のような公立大学法人の教職員は、みなし公務員に当たる。
(上記記事より)

そんなわけで、横浜市立大学の医学部教授が、学生から多額の謝礼を受け取っていたことがわかりました。
博士の学位を取得した後に払うのが慣例となっていたとの報道で、「学位取得に対する謝礼」として報道されています。

もちろん、大学では本来、こんなものは要りません。
学生さんはきちんと学費を納めて大学に通っているわけですし、教員も仕事として指導したのですから、例え恩師であっても、こういったお金を受け取る理由はないのです。

それどころか文科省は過去、審査の謝礼などの名目で多額の金品を受け取った場合でも収賄罪が成立する、と通達しています。
また、みなし公務員である公立大学法人の教職員が第三者から金品を受け取ることは、地方公務員法に違反する可能性があると指摘するメディアもあります。

私立大学も国立大学も、そして公立大学も、それぞれが従うべきガバナンスというものがあります。
お金の扱いも、学位の発行も、すべてはそのガバナンスに従ったものでないといけません。
今回、横浜市立大学の教授は、そのガバナンスを無視して、「自分ルール」で行動していたようです。

関係者によると、学位取得を巡る現金の授受は嶋田学部長が消化器病態外科(第2外科)の教授になった1992年ごろから始まったとみられているが、2000年から05年ごろにかけて、少なくとも研究室の大学院生らの論文審査で主査や副査を務めた教授ら十数人が、現金を受け取っていた。額は10万円のケースが多く、一部だけを受け取るケースもあったという。
横浜市大は05年に、理事長名で贈答の授受や饗応(きょうおう)接待を受けることを禁じる通知を教職員に出している。嶋田学部長はその後も謝礼の受け取りを続けていた。嶋田学部長は「謝礼を受け取り、預かったが、研究報告会や学位取得の記念品などのために、医局で積み立てて使い、個人として受け取っていない。しかし、金品の授受は誤解を受けるものと考え、医局長と相談の上、返還している」とのコメントを出した。
「横浜市大、教授ら十数人にも現金」(読売オンライン)記事より)

このように問題の教授は、私的な利用でないことを主張していますが、大学のルールを無視していたことにはかわりありません。
(こういうことが起きないよう、理事長が通知をしたのだと思いますが……)

横浜市立大学医学部では、こういったことが常態化していたのではないかとメディアは指摘しています。
取材に対し、他の医師や教員が、コメントを出し始めました。

横浜市立大医学部(横浜市金沢区)の学部長(64)の研究室で、学位取得の謝礼として現金の授受が行われていた問題で、「謝礼」を渡した医師が読売新聞社の取材に応じ、菓子折りに現金が入った封筒を添えて渡すよう先輩に教わるなど、現金授受が慣習化していたことをうかがわせる実態を証言した。
医師は、学位審査を巡って現金をやりとりするのは許されないとの認識を持っていたが、「皆がしていることを、自分がひっくり返すことは怖くてできなかった」と複雑な胸の内をのぞかせた。
この医師によると、博士号の学位認定審査後、風呂敷に包んだ菓子折りを持って、学部長の教授室を訪ねた。30万円の入った封筒を見えやすいよう菓子折りに添えて渡したところ、学部長は、「当然のことのように受け取った」という。
(略)現金の趣旨については、「学部長は、学部では絶対的な権力者。謝礼を渡さなかった場合のリスクを考えた」と打ち明けた。
「学位取得の謝礼 菓子折り添え30万円…横浜市大」(読売オンライン)記事より)

横浜市立大(横浜市金沢区)の嶋田紘(ひろし)医学部長(64)が博士号取得の謝礼として大学院生から現金を受け取っていた問題で、学位審査に携わった別の40代の男性教授も、院生から現金を受け取っていたことが分かった。教授は毎日新聞の取材に「過去5年間で4~5人から、5万~10万円ずつもらった」と話している。大学は嶋田学部長や医学部の全教員、大学院生にアンケート調査や聞き取りを行い、確認を進めている。
この教授は03年ごろから、学位を審査する主査や副査を務め、博士号を取得した大学院生から、謝礼として現金や菓子折りを受け取っていた。返還はしていない。教授は「審査自体が甘く、よほどのことが無い限り審査は受理する。便宜を図ることはない」と審査への影響を否定している。
「横浜市大:医学部長謝礼問題 別の教授も博士号取得の謝礼 過去5年、4~5人から」(毎日jp)記事より)

「教授は「審査自体が甘く、よほどのことが無い限り審査は受理する。便宜を図ることはない」と審査への影響を否定している。」
というのも、これはこれでどうかと思うのですが……こんな弁明、してしまっていいのでしょうか。うーむ。

公立大学ということで、横浜市の中田市長もコメントを出しています。

横浜市の中田宏市長は12日の定例記者会見で、「(学位授与での謝礼が)慣例化していたなら前近代的。大学の閉鎖的な内輪の論理が招いている」と厳しく批判した。
中田市長は「(医学部では)派閥争いが横行し、外部の人間までがかかわっていることを知っている。大学の自治の名の下に、破廉恥な行為がいまだに続いている」と体質に問題があるとの見方を示した。
その上で「自ら改善できなければ、大学の魅力が減退する。市に依存している面があり、自分たちの運命は自ら決める覚悟でしっかり対応してほしい」と注文を付けた。
また、市が大学に拠出している運営交付金について、「今回の問題と直接に結びつけて削減することはないが、問題の積み重ねで視線は厳しくなる。横浜市大の今後の方針を聞いて予算を講じる」と語った。
「現金授受『医学部の体質』」(読売オンライン)記事より)

この通り、明快にぶった斬りました。

それに比べると、大学側の対応はいまひとつです。

横浜市大の岡田公夫副学長は午後5時から記者会見した。「大学にとって重大な案件と受け止めている」と厳しい表情で語った。岡田副学長はコンプライアンス推進委員会の委員を務めている。
しかし、現金授受の事実や金額、趣旨など問題の核心部分になると、「隠すつもりはないが、今の段階では話せない」との弁明に終始した。
阿部管理部長も「個人情報や人権にもかかわり、不明な内容もあるため、ここで話すことは控えたい」と述べ、「調査中」「確認できていない」を繰り返した。
「現金授受『医学部の体質』」(読売オンライン)記事より)

事実関係の裏が取れるまで、個人名や具体的な額を出せないというのは、わかります。
無責任な対応は出来ないというのも、理解できます。

しかし、ではしっかりとした調査を進め、確実に問題を解決するための行動を取っているかというと、

横浜市立大の岡田公夫副学長は13日、博士号取得の謝礼金疑惑について事実関係と再発防止策をまとめた文書を文部科学省に提出した。しかし、この文書は再発防止策作りの主体やスケジュールがあいまいだったため、同省は「再発防止につながらない」などとして、至急計画を作り直し、提出し直すよう指示した。
「横浜市大の対策文書、文科省が『不合格』 謝礼金疑惑」(Asahi.com)記事より)

……とこのように、誰がやるのかも、いつまでにやるのかも、あいまいなままにしようとしているご様子だったりするのです。

というわけで、事実関係を明らかにすることも含め、すべてはまだまだこれから。

しばしば「膿を出し切る」という表現が使われますが、ここはむしろチャンスと考え、普段は触れられないような問題もすべて解決するよう徹底するのが良いと個人的には思うのですが、いかがでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。