マイスターです。
皆様は、もうご覧になったでしょうか。
読売新聞が20日、21日の2日間にわたって朝刊に掲載した特集、「大学の実力 教育力向上への取り組み」の調査結果のことです。
調査結果が掲載されることは以前から読売オンラインなどで予告されていましたので、気になっていた方も多かったのではと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「大学卒業率85%、出にくくなる傾向に…読売が初調査」(読売オンライン)
読売新聞が初めて行った「大学の実力 教育力向上への取り組み」調査で、これまで未公表だった全国約500大学の個々の中途退学率や標準修業年限での卒業率などが明らかになった。
昨年度の1年間の退学率は平均2・6%、卒業率は84・6%。卒業率は過去のデータより低く、入りにくく出やすいと言われてきた日本の大学が、欧米のように出口管理を重視しつつある傾向がうかがえる。
調査は、今年4月から大学院だけの大学を除く国内の全大学725校を対象に実施。499校の回答を得た。退学率や標準修業年限(4年、医学部など一部は6年)での卒業率は、うち約9割が答えた。
(上記記事より)
入学前教育やアドバイザー制度、学習支援センターの有無といった学習支援策や、FDの取り組み、教育成果の確認をしているか否かなど、大学の「教育力」に焦点を当てた、大がかりな調査。
大学改革などで知られる業界の代表メンバーで検討委員会を構成し、499校から回答を得たという、貴重なデータです。
中でも業界人の目を惹きそうなのは、「4年間の退学率」、「入学から1年での退学率」、「標準修業年限卒業率」の項目ではないでしょうか。
以前から、少なからぬジャーナリストやメディア関係者、教育関係者が問題として指摘していたこと。
それは、日本ではほとんどの大学が、卒業率や退学率を公開していないということです。
アメリカの大学について調べると、4年間の卒業率や退学率、さらには「初年度の退学率」といったデータまで公開されていたりします。
例え都合の悪いデータや、見栄えの悪いデータが混じっていたとしても、すべてをつまびらかにした上で、「本学ではこういう考え方のもと、こういった教育をしているんです」と説明しなければならないのが、アメリカ。
一方、「面倒見の良い教育をします」とか、「教育を重視します」とかいったキャッチフレーズは踊るものの、じゃあ具体的な退学率は? 卒業率は? と現状について質問すると、「それは教えられません」と答えるのが、これまでの日本の大学の現状でした。
これまで日米では、消費者として大学を選ぶ際に知ることができる情報量に、大きな差があるのが現状だったのです。
どのような数字であれ、行っている教育に自信があるのなら、きちんと統計的な数字は公開していいはずなのにとマイスターは思っているので、こうした現状が、とても不満でした。
大学が学生を鍛える教育機関である以上、大学を評価する上で、卒業率や退学率は本来、必要不可欠の要素のはずだからです。
例えば、「大学の実力」を語る上で、就職実績を掲げる大学は、少なくありませんよね。
では、
「就職率が非常に高く、毎年、日本を代表するレベルの企業に卒業生を数多く送り込む大学」
「就職率はそこそこで、卒業生の進路も、中堅を中心にそれなりのところが多い大学」
……の2つを考えてみてください。
ここに、
「入学者全体の3割が途中で退学し、最終的な卒業率は7割程度。4年間で卒業する学生は半数に満たない。就職率が非常に高く、毎年、日本を代表するレベルの企業に卒業生を数多く送り込む大学」
「退学者は5%以下。入学者の9割以上が4年間で卒業する。就職率はそこそこで、卒業生の進路も、中堅を中心にそれなりのところが多い大学」
……という情報が加わったら、見え方が全然違ってきますよね。
これは極端な例ですが、でも卒業や退学に関する情報を加えることで、それぞれの大学の教育方針が、より立体的に見えてくると思いませんか。
というか、卒業率や退学率がないまま就職先のことをあれこれ語っても、大学の教育を評価するには、不十分だと思いませんか。
上記で言うと、前者の大学は、一流企業に送り込めるほどに、学生を鍛え上げる大学でしょう。その代わり、途中でドロップアウトする学生も相当いますが、それでも良しとしている大学です。
後者は、必要最低限の学問を教え、確実に社会人として卒業させることを重視する大学かもしれません。
どちらの大学が良いかということではありません。この数字を見て、前者の大学を選ぶ人もいれば、後者の大学を選ぶ人もいるでしょう。大事なのは、そういった違いが客観的な実態とともに明確に打ち出されているということです。
こうした見え方ができて初めて、受験生も「どちらにしようかな」と選ぶことができるのではないかと思うのです。
さらに言うと、実際には「退学率が高く、卒業率が低く、しかも就職はあまりぱっとしない大学」という大学だってあると思います。就職状況だけ見ていたら、先ほどの2番目の例との違いがわかりませんよね。
でも実際には、そんな不十分な情報しかない状況で大学を選ばざるを得なかったのが、日本の高等教育の実情でした。
で、そんなタブー(?)に挑戦したのが、今回の読売新聞の調査だと思うのです。
20日付けの紙面では東日本の、
21日付けの紙面では西日本の主要大学について、
卒業率や退学率を含めた様々なデータが、大学ごとに掲載されています。
大学のパンフレットにも載っていないデータを知ることができるので、貴重な資料です。
大学関係者はもちろん、高校の進路指導担当者、塾・予備校関係者、受験生およびその保護者などは、見ていて損はないと思いますので、よろしければぜひご覧下さい。
大学にお勤めの方なら、大学図書館にバックナンバーがあるはずです。
ちなみに冒頭でご紹介した記事では、調査結果から↓こんなことが述べられています。
2004年(6年制は02年)4月入学者のうち卒業時までに退学した学生の率の平均は8・2%。中には40%を超える大学もあった。昨年度1年間の平均は2・6%。
うち最も学生が多い私立は3・2%で、日本私立学校振興・共済事業団の05年度調査の2・9%を上回った。入試が多様化して入りやすくなる中、経済的事情や学習意欲の不足から退学する例が増えている。
卒業率(6年制含む)は最高99%、最低46・6%と幅があり、平均84・6%。経済協力開発機構(OECD)の04年調査で日本は91%と30か国平均(70%)から突出していたが、今回調査で国際水準に近づきつつあることがわかった。
実力不足では卒業させない方針を打ち出す医学系、理系大もあり、卒業時の出口管理に重点を置く大学が増える傾向が数字に表れている。
(「大学卒業率85%、出にくくなる傾向に…読売が初調査」(読売オンライン)記事より)
この全体の数字も、何かと使えそうです。
かつて欧米などと比較して「入りにくく、出やすい」と揶揄されていた日本の大学が、「入りやすく、出にくい」ところに変わってきた……そんなことが言えるのかも知れません。
もっとも「出にくくなる傾向」の理由が、大学が教育体制を強化したからなのか、それとも学生の学力や学習意欲が下がったからなのかは、ここからだけではわかりません。
この話題、明日に続きます。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
この記事では「入りにくく出やすいと言われてきた日本の大学が、欧米のように出口管理を重視しつつある傾向がうかがえる。」とありますが、下記の調査では退学理由の約18.6%が「経済的困窮」であると述べています。
個々の大学の退学率の高低も確かに重要な指標ですが、それ以前に通いたくても通えない学生がこれだけの割合を占めていることを、より問題にすべきだと思います。
http://www.shidaikyo.or.jp/riihe/research/arcadia/0288.html
高等教育への政府支出が少ないことは兼ねてから問題にされています。高等教育のユニバーサル化が達成されたとはいっても、その基盤が極めて脆いものであることに私たちはもっと注意を払うべきではないでしょうか?