今年の漢字「偽」と、大学の1年間

マイスターです。

2007年も終わりです。
日本漢字能力検定協会が毎年募集している「今年の漢字」、2007年は「偽」でしたね。
食品や政治事、耐震検査など、確かに様々な偽装問題が相次ぎました。

■「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会)
http://www.kanken.or.jp/event/index.html

上記のページによると、募集の結果1位となった「偽」の他にも、上位に「嘘」「疑」「変」「乱」「辞」など、あまり喜ばしくない文字がランクインしています。
うーん、世の中では、「あんまり良い年じゃなかったかも」という印象なのでしょうか……。
(ちなみに上のページには、1995年以降の「今年の漢字」も掲載されています。
「震」「倒」「毒」「末」「災」など、意外に、不吉な漢字が多いんですね……?)

ずっと大学関連のニュースを地味に見続けているマイスターですが、大学の周りでも、「偽」に関する話題がいくつかありましたね。

【ニセ学位】
■「ニセ学位:採用・昇進審査書類に記載の大学教員、延べ48人--文科省調査」(毎日jp:12月28日付)
http://mainichi.jp/life/edu/archive/news/2007/12/20071228ddm012040126000c.html

大学教員の採用・昇進の審査書類に、公的機関の認可を受けていない外国の「大学」が出した博士号などの学位(ニセ学位)を記載していた教員は、国公私立大・短大の43校延べ48人に上ることが、文部科学省の初の調査で分かった。このうち、4校は「採用・昇進の重要な判断要素になった」と回答している。

(上記記事より)

お金さえ払えばカンタンに学位を発行してくれるような大学、「ディプロマ・ミル(ディグリー・ミル)」。
こういったディプロマ・ミルで得た学位を、自分の学位として大学に申請し、職を得たり、昇進したりしている大学教員が全国で48人。調べれば、もっと判明するかも知れません。

きちんとした認証機関の認証を受けていないディプロマ・ミルが発行する学位は、実質的な価値がないのです。ですから正確に言えば、ニセ学位というよりも、「ゴミ学位」という方が実態に近いかも知れません。

こういった学位が日本の大学内でも通用しているという実態が、社会問題として最近大きく報じられました。

基本的に教員を採用する際は、査読論文や学会発表の質・量、教育に関するキャリアなど、総合的に判断をするでしょうから、学位は要素の一つでしかないと思います。
しかし「極めて重要な要素」の一つであるのは間違いありません。
大学によっては学則で、博士号の取得を教員採用の条件と定めているところもあるでしょう。
ですからこういった学位を取得して職や地位を得ようとする行為は、大いに問題です。

しかし考えてみれば学位というのは、その人のアカデミック・スキルの保証書のようなもの。にも関わらず「誰が保証をしたのか」に気を払わずに採用してしまった大学側にも、過失はあるように思われます。
大学というのは学位を発行する機関であり、それが大学の権威の大本にもなっているわけですから、こういった点には気をつけたいところです。

大学教員を目指して空いたポストに応募してくる人は少なくないでしょうから、その時点で、誰かが学位をチェックするような仕組みが合っても良いかもしれません。
きちんとした認証を受け、学位の質が証明できる大学を照合できる「ホワイトリスト」を、インターネットを使って国際的に構築しようという動きもあります。
確実に「偽」を見抜く体制を築く施策が必要です。

【ニセ学位審査】
■「名古屋市立大元教授を逮捕 学位審査で収賄容疑」(中日新聞:12月6日付)
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2007120602070004.html
■「名市大元教授、事前に打ち合わせ 学位ほぼ全員取得」(中日新聞:12月7日付)
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2007120702070277.html
■「博士号汚職 補佐役教授にも謝礼」(読売オンライン:12月8日付)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20071210-OYT8T00077.htm
■「2年前に告発文書、調査せず=名古屋市大」(時事ドットコム:12月6日付)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200712/2007120601075

大学が本来の機能を果たさず、社会を欺いていたという意味では、これも「偽」の問題です。
行われていることはディプロマ・ミルとほとんど変わりません。社会的信用を得ている大学の中で行われている分、より悪質と言えるかも知れません。

上記の報道の他、メディアによって↓こんな調査結果も発表されました。

■「医学博士号謝礼:国公立大、65%は調査・注意せず--毎日新聞調査」(毎日jp:12月25日付)
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2007/12/25/20071225ddm041040008000c.html

意外に、偽者は多いのかも――と、国民に思われてしまいそうな、残念な調査結果です。
2008年以降、こうした慣習も見直されていくと良いのですが。

【ニセ診療】
■「昭和大医学部の5医師、虚偽診療で受験資格取得」(MSN産経ニュース:12月6日付)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/071206/crm0712061101007-n1.htm

日本内科学会が7月に実施した認定内科医の資格試験で、昭和大医学部(東京都品川区)第1内科の医師5人が虚偽の診療実績を示す書類を同学会に提出し、受験資格を不正に取得していたことが6日、分かった。

資料は別の医師が書いたカルテの内容を流用。自分が担当した患者の症例のように装っていた。内科学会は5人を合否の判定対象から外し、今後3年間は受験を認めないことを決めた。昭和大側の責任も重いとして、第1内科の医師全員について来年度は受験申請を受け付けないことにした。
(略)5人のうち1人は講師で、昭和大はこの講師と上司の第1内科教授の計2人を厳重注意処分としたが、講師以外の医師4人は学会から処分を受けたことを理由に学内の処分は見送った。

(上記記事より)

医学部の話題が続いてしまってすみません。
でも、1年分のニュースを見直していたら、結果的にこうなってしまったのです。
しかも、どれもこれも最近の話題ではないですか。
うーむ、医療の世界には、特に厳しい目が向けられた年だったのかもしれません。

【ニセ留学生】
■「中国人、佐大に不正入学 大学院へ5人 偽造卒業証明使う」(西日本新聞:11月21日付)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/kyushu/20070624/20070624_004.shtml

佐賀大大学院(佐賀市)の中国人留学生5人が、偽造された中国の大学の卒業証明書で入学していたことが24日、分かった。佐賀大では昨年10月、工学系研究科の男性研究生が「ブローカーから買った」という卒業証明書で入学していたことが発覚。大学院に在籍する中国の私費留学生34人を中国側に照会して、新たな不正入学が判明した。

(略)中国の大学の卒業証明書は様式が統一されており、「透かしを含め、本物と見比べても分からないほど精巧な作り」(同課)だったが、佐賀大は中国の大学への確認をしていなかった。

(上記記事より)

学生が入学時出してくる学位でも、偽造の問題がありました。

前述の教員のニセ学位問題も含め、ここまで書いて思ったのですが……大学の代わりに国内外学位の正当性を照会してくれるビジネスとかがあったら、重宝されそうですね。

(過去の関連記事)
・韓国 学歴詐称が社会問題に(2007年08月22日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50335844.html

↑以前の記事でご紹介したのですが、韓国には既に同様のサービスがあるそうです。

……と、大学の「偽」に関するニュースをご紹介しました。

まだ探したらいくつか出てきそうですが、暗い気持ちで新年を迎えるのもどうかと思いますので、このくらいに。

しかし、問題は解決されなければなりません。
ここでご紹介したような問題が、1年後には完全になくなっているようにしようではありませんか。

以上、マイスターでした。

 *  *  *  *  *

<ご挨拶>

個人的に、2007年は雑誌での連載や対談、各種の講演、さらに転職と、色々あった転機の年した。
これもみな、普段からブログを読んでくださる皆様、そしてその上で、様々な助言やご指摘をしてくださる皆様のおかげです。
改めて、厚く御礼申し上げます。

さて、2008年、このブログもちょっとした転機を迎えます。
書く内容はまったく変わりませんが、おそらく現状よりも多くの方々に読まれることになると思います。
近日中にご連絡しますので、楽しみにしていてください。

2007年も一年間、本ブログをごひいきにしていただき、ありがとうございました。
2008年度も、どうぞよろしくお願いいたします。

マイスターでした。