「銀行の窓口業務に博士はいりません」 韓国の報道から

マイスターです。

日本ではしばしば「大学院に行くと就職しづらくなる」という理由により、周囲から進学に反対されることがあります。人文・社会科学系の学部、それも特に博士課程へ進学する場合は、それが顕著なようです。
学歴を積み上げれば積み上げるほど就職で不利になることがある。だから大学院への進学を躊躇してしまう。これは日本でしか見られない不思議な現象(?)とされています。

……と思っていたのですが、どうやらお隣、韓国でも同じようなことが起き始めているようです。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「銀行の窓口業務に博士はいりません」(朝鮮日報)
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/18/20070318000019.html
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ウリ銀行の窓口サービス(預金の出し入れなど)担当職員採用の書類審査で博士号取得者3人が脱落していたことが分かった。350人の募集に1万350人が殺到した今回の採用には博士3人、修士200人以上が応募し話題となっていた。

この業務は昨年までは高卒か短大卒の女性が主に応募する職種だった。しかし、1年目の給与が年間2300万ウォン(約285万円)と正社員の3400万ウォン(約421万円)に比べて少ないだけで、定年も保障されていることから、志願者のレベルが例年になく高まった。しかしソウルの有名女子大、有名私立大、地方国立大の博士号取得者3人は書類審査を通過できなかった。修士200人に関しても、書類審査を通過したのはわずか20%だった。米国公認会計士(AICPA)5人と税理士3人も全員脱落した。外国の大学出身者で書類審査を通過したのは70人中わずか10人に過ぎない。

ウリ銀行のイ・サンチョル副部長は「博士号取得者が窓口での顧客サービスに満足するとは考えられなかった」と話す。大きな抱負を持つ高学歴保持者よりも親切に対応する社員の方が良いというのだ。
(上記記事より)

記事によれば、上記のウリ銀行の他、国民銀行でも同様の現象が起こっているそうです。

このように、銀行の窓口員に大学院卒業者(それも博士!)が多数応募してくるということはつまり、韓国における大学院生の人数と社会の需要が、全然合っていないということなのでしょう。

日本でも、大学院生を増加させる方針を進めてはいるけど、その後の彼等のキャリアをどうするんだ、といったことが議論になります。ただそれでも、銀行の窓口員を希望する方はあまりいないでしょう。
この記事から察する限り、韓国の博士が置かれている状況は、どうやらけっこう厳しそうですね。

で、銀行側としては、予想外に高学歴な面々が応募してきたので驚いたのですね。
応募してきた博士、修士の方々の能力と、彼等が持っているであろう労働観が、実際にやらせる予定の仕事と全然マッチしていないように思えたわけです。
で、その結果、上記のような対応を取った……のです。

○「博士号取得者が窓口での顧客サービスに満足するとは考えられなかった」

○彼等はこの仕事にやりがいを感じず、不満を覚えることだろう。そして、すぐ辞めてしまうに違いない。

○それは困る。だったら最初から博士なんて採らない方がいい。

……ということなのでしょう。

あぁ、日本で文系の博士が直面するのも、こういった意見なんでしょうね……。

選ぶのは企業の側です。
応募者を選別する際、企業がいかなる理由で落としたとしても、別に外部の人間がどうこう言うことはできません。
採用活動やその後の社員教育にもコストがかかります。本当に辞められてしまったら、会社にとっては損失です。辞める確率が高い人間は採用しない、というのは、もっともな理由ではあるのです。

ただ、やっぱり個人的には、落とされる大学院卒業生の方々が気の毒です。
そして同時に、結果的には韓国社会全体にとって、良くない結果を生むように思います。

「博士号取得者が窓口での顧客サービスに満足するとは考えられなかった」
というのは、企業側の思いこみに過ぎません。
実際には博士と言っても、人によって労働観は違うはずです。

博士号を取って様々な仕事を探したけれど見つからず、
「窓口員でもいい、できるところで精一杯がんばろう!」
と決意をしてきた方だっていたかも知れません。
なのに「博士」を理由に一括でふるい落とされるのです。落とされた側はさぞかし、やるせない思いでしょう。仕事がないからこういう募集にまでチャレンジしているのに、今度は、自分の強みがあだになっているというのですから。

それに上記の例では、彼等は書類選考の時点で落とされているんです。
面接で労働に対する意見を聞かれた結果で落とされるのならまだしも、そうではないのですね。
これじゃ、「こんなことなら大学院なんて行くんじゃなかった……」と、落とされた側が考えても、無理はありません。

企業の採用担当者が、仕事内容に比べて高学歴すぎる人材を敬遠してしまう気持ちは分からなくはありませんが、しかしこのような状況が続けば、韓国の学生も日本のように、そのうち「就職がないから、大学院に行くのはやめたら?」と周囲に言われるようになってしまうかも知れません。

あるいは、学歴を積まれた方は、海外に行って戻ってこなくなるかも知れません。

(過去の関連記事)
・「米国で理工系博士取得の韓国人、70%以上が帰国に否定的」
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50275304.html

上記の記事で、米国で学位を取った理工系の人材の多くが、韓国に戻ってくるのを躊躇しているという内容をご紹介いたしました。
もしかすると、理工系以外の分野や、韓国国内で学位を取った方々においても、今後は同じような動きが進むかもわかりません。
(日本の人文・社会科学系の博士達が海外に流出しているかどうかは、あいにく存じ上げませんが……どうなのでしょうか?)

いずれにしても韓国社会にとって、様々な損失を招く結果になる可能性があるんじゃないか、なんて、マイスターは思ってしまうのです。
杞憂ならいいのですが、日本も同じようなことが起きているだけに、心配です。

(過去の関連記事)
・大学院生に特化した職業紹介会社
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50272393.html

■DFSHR
http://www.d-f-s.biz/graduates/

↑日本でもこうした大学院生達の就職事情を改善させようと、専門のマッチングサービスが生まれたりしています。
韓国でも(ひょっとすると日本以上に)こうしたサービスの需要があるのではないでしょうか。

しかし、ポスドクのキャリア対策が十分行えないと、日本でもこういうことがより深刻な問題になるのだろうな、と考えさせられる報道です。

以上、お隣である韓国の、あまり他人事と思えないニュースをご紹介しました。

マイスターでした。