「一等より才能ある10等」 変化している大学入試

マイスターです。

ちょっと興味深く感じた記事がありましたので、ご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「一等より才能ある10等を」(中央日報)
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=94282&servcode=400&sectcode=400
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ソウル大・入学管理本部のキム・キョンボム研究教授と9人の専門委員は、3、4年前から全国の才能ある高校生を対象にしたモニタリングを行なってきた。▽数学など特定の分野で優秀な生徒▽平均点の高い生徒--などいくつかのサンプルをまとめたのだ。

中学校時代まで数学はよくできたが、他の科目の成績が低めだった生徒(最近ソウル大数理統計学部に入学)がいた。その生徒は、高校に入って以降進級するほど成績が良くなった。入学管理本部の関係者は、教師に会い生徒に関する情報詳細を聴取したりもした。

大学に入学した後も、その生徒の「専攻への理解度」は平均値を上回った。キム教授は「大学入学修学能力試験(修能、日本の大学入試センー試験に相当)の内申で最上位グループの生徒のほかにも、特定の分野で才能を見せる生徒を発見しなければならない。10等グループにも一等より才能が優れている生徒がいる。それを可能にする入学査定官制度はソウル大が進むべき方向だと結論付けた」と述べた。

(上記記事より)

「一等より才能ある10等を」って、ソウル大学関係者が考えるコンセプトを、わかりやすく表現している言葉だと思います。

もちろんソウル大学ですから、10人枠があったら、そのうち少なくとも9人は、修能試験の高得点者で充足させるでしょう。
でも、世の中に散らばっている「才能ある10等」にも、余さずソウル大学に進学してもらいたいんだ! ということなんだと思います。

そう言う意味では、欲張りというか、野心的なコンセプトです。

記事の続きでは、こういったコンセプトを、入試方式や大学側の体制の整備、および高校情報データベースの構築といった、具体的なアクションにつなげていくという動きが取り上げられていますので、ご興味のある方は冒頭記事のリンク元をご覧ください。

ところでこの「一等より才能ある10等を」って、日本で大流行しているAO入試の考え方に通じるものがありますね。

(ちなみに、数稼ぎのために行われるAOではなく、本来の、大学にあった学生を戦略的に獲得するために行われるAOのことです。こういう注釈が必要なくらい、大学によって、AO入試の在り方は二極化していますよね……)

冒頭の記事を読んでマイスターは、以前、某中堅大学の入試関係者から聞いた話を思い出しました。

それは大体、以下のような内容です。

ウチの大学の学生の多くは、そんなに勉強ができるタイプの子ではない。
高校まで、クラスの真ん中か、それよりやや下の成績を修めていた学生がほとんどだ。

でもそんな中にも、勉強はそんなに優秀ではないけれど、他を引っ張る行動力があったり、特定の分野で力を発揮したり、リーダーシップを持っていたりという学生が混じっていた。
そういった、特定の分野で存在感を発揮するような学生がわずかでもキャンパスにいることで、その周囲が触発され、キャンパスの空気が作り出されていた。

でも、今は、それも難しい。

かつてはわずかにいた「勉強はできないけど存在感がある」学生を、名門私大がすべて、AO入試でつり上げてしまっているからだ。

この先、本学には、「勉強も得意ではなく、行動力もない」といった学生しか、来ないのではないだろうか。

ここ数年、キャンパスにいる学生達から、覇気が失われている気がする。以前なら必ず学年に何人かはいたリーダータイプの学生がいない。
それは名門私大が、どん欲にそういった学生をAO入試で選び抜き、自分の大学に入学させているからではないのか……

この話は、マイスターにとっては結構、衝撃的でした。
なるほど、確かにAO入試の普及にともなって、そういうことも起きているかも知れない、と実感できたからです。

この話をしてくれた大学の方は、AO入試の普及に対して、大変な脅威を感じているとのことでした。
ちなみにその大学では、ちょっと前までAO入試を行っていなかったそうです。やはり学力試験を伴わない入試の導入に対して、学内の批判的な意見が強かったからです。
でも上記のような観点のもと、

「他の大学が優秀な人材を奪っていくのを、指をくわえてみすみす見逃しているわけにはいかない」

ということで、これからはAO入試を戦略的に展開していくとおっしゃっていました。

名門大学が「一等より才能ある10等を」というコンセプトを徹底する。
それは他の大学からすると、自分のところに入学するはずだった「光る人材」をもぎ取られていくということなのかも知れません。

これは、ソウル大学の話と日本のAO入試、双方に共通する視点ではないかと思います。

AO入試というシステムを以前から持っているアメリカでは、入試はしばしば「スカウト」に例えられます。優秀な生徒がいれば大学のAO担当者が飛んでいき、奨学金の条件などを提示して、他の大学ではなく自分のところに入学してくれるように交渉する、のだとか。
日韓両国でも、大学入試はそういった方向に動いてきているのでしょう。

「すべての受験生を、同じ試験で公平に選び合格させる」というのは、大学側に余裕があった時代の話。
今は「優秀な学生がいるなら、ぜひ積極的に誘いたい」という考え方がベースにあるでしょう。

マイスター個人としては、上記のどちらも大事な考え方なので、一般入試とAO入試それぞれを組み合わせて、最終的にその大学が求める人材を確保すれば良いんじゃないかと思います。

学問分野によって度合いに差はあるでしょうが、「一般入試だけ」では、これからの人材獲得は立ちいかないような気が、個人的にはするのです。

以上、マイスターでした。