マイスターです。
「大学改革」という言葉がよく使われますが、これが示す範囲は多様です。
学科や組織の名前を変えただけで「大学改革」だと言うところもあれば、本当にビックリするくらい抜本的に大学を改造するケースもあります。
学部学科の再編や、女子大学の共学化、大学名称の変更など、大きな変更にも色々ありますが、
「大学全体の教育コンセプトを見直す」というのが、一番抜本的でしょうか。
さて、そんな大学改革を巡って、福岡県の大学が揺れているようです。
【今日の大学関連ニュース】
■「福岡女子大改革に異議 反発の同窓生ら 『公開で議論を』 準備委が初会合」(西日本新聞)
県が設置する福岡女子大(福岡市東区)の「抜本改革に向けた準備委員会」(委員長・海老井悦子副知事)の初会合が16日、同市内であり、学部や学科構成など改革の具体的協議に入った。一方で、一部同窓生らは、名称変更や専門知識を持った女性リーダー育成などの大学の特色が変わりかねないことに反発を強めており、28日には「大学改革を考える県民の会」(坂田順子代表)の設立総会を予定。女子大改革をめぐる対立が表面化してきた。
同大学の改革をめぐっては、県が昨年7月、今後の在り方を検討する外部有識者の会議を設置。今年2月に「大学の特色をイメージできる名称変更」や「グローバル化にふさわしい女性リーダーの育成」など改革の方向性を提言した。
今準備委は、これを踏まえ、「大学と連携を密にしながら抜本改革に全力で取り組む」(海老井委員長)としており、10月をめどに大学改革の骨格となる「基本計画」を策定する方針だ。
現在の2学部(文学、人間環境学)5学科(国文学、英文学、環境理学、生活環境学、栄養健康科学)体制の見直しも、改革議論の対象となるとみられる。
◇ ◇
これに対し、同窓生や同大教職員の有志らは「提言の直前まで学生や大学関係者には内容を知らされず、改革に意見を反映できないのは納得できない」と反発。改革が、名称変更や学部学科の改編、一般教養重視の教育につながることに危機感を募らせている。
(略)この日も、準備委の事務局を務める県学事課に対し(1)準備委を公開する(2)県民の納得いく改革にするため広く意見を吸い上げる‐ことを求める申し入れ書を提出した。
だが、準備委は「大学の個別問題や教職員の処遇なども絡むので混乱を招く」として、協議は非公開で行われた。
(上記記事より)
というわけで、福岡県にある公立大学法人、「福岡女子大学」に関する話題です。
■福岡女子大学
福岡女子大学の前身は、「全国で初の公立の女子専門学校」として1923年に開校された福岡県立女子専門学校。伝統のある教育機関です。
1950年より福岡県が設置する公立大学として卒業生を送り出してきましたが、2006年に法人化。
公立大学法人福岡女子大学となりました。
その福岡女子大学に「改革」が必要だとするのが、福岡県。
■「福岡女子大学改革検討委員会」(福岡県)
「福岡女子大学改革検討委員会」を平成19年7月に設置し、これまで7回にわたる検討委員会や、パブリック・コメントを実施し、それらを受けた「提言」をまとめています。
共学化はせず、国際教育、教養教育を重視するなど、これまでの教育コンセプトを変えなければといった意見の他、新しい名称として「福岡女子国際教養大学(仮)」といった案も出ています。
こうした検討委員会の議論を受けて、「抜本改革に向けた準備委員会」が設置され、改革の実施に向けて動き始めた、というのがこれまでの経緯のよう。
こういった改革についての議論に、当の教職員が全然関われていないという声が、冒頭の記事で紹介されているわけです。
確かに検討委員会のメンバーは他大学の関係者や財界人などで構成されていて、「特別委員」として唯一、福岡女子大学の理事長(兼学長)のお名前が末尾に入っているのみ。
改革の進め方を見る限り、福岡県の側は、大学の自浄作用、自己改革力にはあまり期待していないのだろうという様子がうかがえます。
もちろん、だからこそ「改革が必要だ」と県側は考えるのでしょう。
確かに、大学のガバナンスには欠点があると思います。
これは一般論ですが、例えば大学の学部学科は通常、増えることはあっても、減ることはありません。学部学科が再編されても、それによって「不要な教員」が出ないよう、受け皿となる分野が用意されます。大学では重要事項はすべて教授会で議論し決定することになっていますが、教員の多数決で決めたら、そういった結果になるのはある種、当然ですよね。
外部の人間にしか見えない部分というのは、あるでしょう。大学の民主的な意志決定プロセスには、秀でている部分がたくさんある反面、弱点があるのも事実だと思います。
しかしそうは言っても、大学を改革した際、それを実行し、支えるのは当事者である教職員です。
また、現在まで大学で学生に触れ、教育や研究に携わってきたのも、教職員達です。
どの教育分野が在学生達に人気だとか、どの分野に強みをもっているかということについても、当事者達にしかわからない部分はあるでしょう。
個人的には、教職員を巻き込んで議論を進める部分もあった方が、最終的には成功するのではと思います。
それに、県の改革の進め方には、ちょっと恣意的な部分もあるように思います。
例えば、パブリック・コメントを募集していたのは、たったの二週間。大学という、中長期にわたって存在し続ける機関の将来を決定するには、ちょっと短すぎるようにも思います。
「国際教養」というコンセプトも、日本全国を見れば確かに流行の分野ではあるのですが、地元にしてみたら、降ってわいた感があるでしょう。
マイスター個人としては、リベラルアーツ教育は非常に重要だと思いますし、むしろ高校生達に推奨もしています。方向性としては、悪いとは思いません。ただ、「リベラルアーツ教育こそ重要なのだ!」と、心から思えるようなスタッフでなければ、これは成功しないと思います。押しつけでは、本当のリベラルアーツ教育は実行されないのではないかと思います。
(とはいえ、この種の改革で、「全員が納得」なんてのは、まずないだろうとも思うのですが……うーん)
外部から意見を出す部分と、内部から意見を出す部分、それぞれを活かす方法がないものでしょうか。
何事もバランスが大事ですが、大学の改革を進めるにあたり、誰がどこでどのように関わるのがベストなのかという問題、なかなか難しそうです。
以上、記事を読んでそんなことを考えた、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
こんばんわ、いつも楽しみに拝見させてもらってます。
今回、福岡女子大学の話が出ましたが、
ついこの前、この大学の先輩とこの話題について話をしました。
「提言の直前まで学生や大学関係者には内容を知らされず、
改革に意見を反映できないのは納得できない」
先輩も全く同じ事を言っていました。
学生の立場からしたら、
「いきなり改革の話が出てきて、名称変更、学部学科の改編なんて、どういうこと??」
って感じだそうです。
あとはやはり「女子大の特徴が失われちゃうじゃん!」ってのも言ってましたね。
いわゆる「有識者」の方々にはぜひ慎重に事を運んでいただきたいと思います。
毎日拝見しています。近年はずいぶん変わったとは言えども、大学経営という情報の幅が少ない分野で、よくこれだけ毎日コメントを続けられるな、と本当に関心して読んでいます。
研究力を評価するCOEと教育力を評価するGPが使い分けが加速している、というコメントにはなるほどな、と思いました。確かに予算上そういう頭の整理をするとすっきりします。
深刻なことになってます。
http://blog.livedoor.jp/kidsna/