教科書レンタルビジネスが、アメリカで市場拡大中?

マイスターです。

大学に入学して、最初にやるのは、教科書を買いそろえることです。
高校までは、必要な教科書を学校側が指定するので、悩む必要はありませんが、大学は若干、事情が異なります。

まず履修する授業が違いますから、使う教科書は人それぞれです。そして教科書の他、参考図書など「授業中は使わないが、読んでおくべき図書」というカテゴリーがあります。
教科書は手元に置いておいた方が良いでしょうが、参考図書の場合は、大学図書館で借りて内容を理解すれば済む場合も。
学生が使えるお金は限られているのですし、学習をサポートするために図書館が存在するのですから、借りて済むものは借りるなどして済ませたいところです。

ただ、図書館の蔵書は皆の共有財産ですから、当然ですが、長期にわたって占有することはできません。借りられる期間や冊数なども、制限されているのが普通です。
(※大学によっては、貸出冊数無制限のところもありますが)
「確かあの本に、使えるデータがあったな」なんて後で思っても、すぐにその本を参照できる保証はありません。

一度、図書館でチェックし、今後も手元に置いておきたいと思ったら買う。あるいは、必要なデータ等だけは写しをとる。学年が上がるにつれて、そんなスキルも身についていくのですが、入学直後はなかなかわかりませんよね。

そんな悩みをアメリカの学生も持っている、のかどうかはわかりませんが、こんなサービスが今、かの国で成長しているようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「教科書レンタルは儲かるビジネス?Kleiner PerkinsがCheggに投資」(TechCrunch)

創業5年目を迎えた教科書レンタルサイトCheggが、ここにきて売上を急増しているようだ。同社によると、一人の学生の年間の教科書購入額は平均900ドル。Cheggは教科書を売るのではなくレンタルすることによって、学生の年間の教科書費用をその70%から80%引きに抑える。
仕組みはこうだ:学生は自分が欲しい本をISBNや著者、書名、キーワードなどで検索する。1学期(3か月または半年)の教科書レンタル代は本の定価の20-30%で、注文すると1週間あまりで届く。学期が終わると、学生のところには送料受取人払いの宅配便ボックスが送られてくるので、それに教科書を入れて返却する。教科書に書き込みをしてはいけないが、蛍光マーカーの使用は許されている。
同社の創業は2003年で、最初はアイオワ州立大学の案内サイトだった。2007年の秋に、教科書レンタル会社に変身した。
その後売上は年商$10M(1000万ドル)に跳ね上がり、この情報をわれわれに伝えた筋によると、同社は最近Kleiner Perkinsからの二度目のラウンド…$15M(1500万ドル)…を完了した。そのときの評価額は$60M(6000万ドル)である。
(上記記事より)

教科書レンタルビジネスだそうです。

記事を読む限りでは、好調な様子。
これから、さらに事業規模を拡大させていくかも知れません。

日本で同種のビジネスが生まれるかどうかはわかりません。

アメリカでは以前から、「広告つきの無料教科書」という事業もあります。

■freeloadpress.com

日本でも、広告がついている代わりに無料で利用できるコピーやルーズリーフが普及してきていますが、教科書はまだ無料にはなっていません。
教科書を制作している側が、この事業にOKを出さないといけないので、ビジネスとしてのハードルが高いのかも知れません。
その点、「レンタル教科書」は、ビジネスを立ち上げる上で、もっと手軽そうにも思えます。

レンタル教科書が、いったいどういう仕組みで利益を上げているのか、詳細は存じ上げません。

学問分野によって、利益を上げられる分野と、上げられない分野があるような気もします。

そんなに毎年、内容が変わるわけではない学問・授業なら、1冊の教科書を数回貸し出すことも可能でしょう。
ある大学では最初の学期で使い、ある大学では同じ授業が次の学期にある……といった形で、学期のズレをうまく縫って流通させれば、利益が出そうです。
逆に、内容の変動が激しい学問分野の場合は、赤字になるかも知れません。

また、工学系の技術書や解説書などは、授業が終わった後も、ずっと手元に置いておきたくなるものです。自分がプロのエンジニアになった後も、幾度となく参照するかも知れません。
こういったものも、あんまりレンタルできない気がします。

そもそも、このビジネスによって著者が著しく不利益を被るようなら、「自分の本をレンタルしないでくれ!」という動きによって、ビジネス自体が存続できないことにもなるでしょう。
このように、いろいろ前提条件はありそうです。

ただ、そのあたりの問題をうまくクリアできるのなら、冒頭で述べたとおり、学生にとっては便利かも知れません。
大学図書館が担ってきた役割のうち、ある一部分を肩代わりしてくれると考えるなら、こういった商売もあり得るのかな、という気はします。
(大学図書館と競合関係になるのか、それとも互いを補完し合う関係になるのかは、やり方次第という気もしますが、アメリカではどうなのでしょうね)

ちなみに日本の大学教員の中には、自分の授業で、ご自身の著書を教科書に指定される方も少なくありません。
大学で教える学問には、正解はありません。極端に言えば教員の数だけ学問があるわけで、その意味ではご自身の著書を使って教えるのが一番手っ取り早いというのも確かです。
(たまに、授業では全然使わないのに、著書を買わせる方もいて、それはどうかと思いますが)

一方アメリカの場合、そういった行為を制限するルールを持つ大学も、あるようです。
つまり、自分の著書ばかりを教科書に指定するという行為は、自分の利益のための行為ではないかということで、チェックの対象になるということです。

アメリカのリベラルアーツ教育自体が、物事の見方を広く考えさせる授業であり、教科書の内容をマスターするというよりも、様々な意見をぶつけて議論させるプロセスそのものが授業の主目的だったりします。
また、(教科書になっているかどうかはわかりませんが)授業のために、日本とは比較にならないくらいの量の本を読むことが、学生には課せられます。
そんな点も、日米では違うので、アメリカのビジネスが日本で通用するかどうかはわかりません。

日本でこんなサービスが始まったら、果たして成功するでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • アメリカの教科書は日本のそれの5~10倍の値段ですから、こうした商売が成り立ちますが、日本でそのまま定価の20~30%だとわずか500円程度ですから利益を上げるのは難しいでしょうね。