OECD、大学での学習成果を測る国際基準をつくる?

マイスターです。

経済産業省の「社会人基礎力」、
文部科学省の「学士力」など、
大学で学んだ成果を評価するためのモノサシづくりが、流行っています。

工学系の「JABEE」のように、専門教育に関して、大学が行っている教育が適切かどうかを評価する仕組みもあります。このように、特定の職能(JABEEの場合はエンジニア育成)に関わる部分は、評価軸も比較的作りやすいでしょうが、漠然と「大学生の学習成果を測る」と言われると……大変です。
「良いエンジニア」の定義は設定できそうですが、「良い大学卒業生」の定義は決めづらいでしょうから。

そんなわけで個人的には、現在はまだ「社会人基礎力」にも「学士力」にも、何となくピンと来ていません。

そんな中でまたひとつ、新たな指標が増えそうです。
それも、国際的に。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「大学評価へ国際調査 基準づくり OECD検討」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/international/update/1008/TKY200710080319.html
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経済協力開発機構(OECD)が大学での学習成果を評価するための国際的な調査の検討に入った。順調に準備が進めば2011年から実施されるという。OECDが15歳を対象に00年に始めた国際学習到達度調査(PISA)は既に国際的な学力の指針となっており、「高等教育版PISA」は大学を評価する新基準になる可能性が高い。

専門家による検討会議は4月に米国、7月にフランスで開かれた。今月には韓国でより具体的な構想について詰める。

制度や進学率の違いが大きいため国ごとの比較は当面は困難で大学や学部ごとに評価した方が良いという点や、調査は学部課程の修了段階がふさわしいとの点で合意。調査する学力としては、(1)分析的推論力や批判的思考力など、専攻を問わず必要な能力(2)専門分野に特定される能力(3)責任感やリーダーシップなどの「対人能力」が挙げられている。

このうち専門分野では、国際的な標準が比較的はっきりしている経済学と工学をまずは対象とし、そのほかの社会科学や人文科学の分野にも将来広げることを検討することになった。

大学を評価する指標としては卒業生の数や教授陣の論文が引用された回数などが利用されているが、「学生に身についた能力」を測る「物差し」は事実上なかった。OECDは「大学版PISA」の導入によって、大学を選ぶ学生や大学自身に加え、高等教育政策の決定にも、より客観的なデータを提供できると考えている。OECDのアンドレア・シュライヒャー教育局指標分析課長は「各国政府が多額の資金を高等教育に支出しているにもかかわらず、その効果を測る手段は少ない」と話す。

(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

OECDによる「PISA」は、各国の15歳を対象に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー、問題解決を調査するものです。

この「PISA」の結果で高得点をたたき出し、国際社会で一躍注目を集めたのがご存じ、フィンランド。
PISAの発表以降、世界中の教育者や政治家、研究者達がフィンランドに視察に出かけたわけで、このことからも、その影響力の大きさがおわかりでしょう。「PISAショック」なんて言葉も生まれました。

事実上、中等教育段階での、国際的な学力指標になっています。

(よく「日本の子供の数学力は世界トップレベル」とか、「このままでは日本の教育水準はBグループに」みたいな報道がありますが、そういった記事が引用しているのは大抵、PISAの結果です)

そんな「PISAショック」が、今度は大学教育で起きるかも知れません。

ただ、高等教育の場合、中等教育のようにうまくはいかない気もします。

そもそも、高等教育の位置づけや仕組みが、国によって全然違います。
大学が3年制という国もあれば4年制の国もあります。
入学する年齢も違いますし、卒業する年齢も違います。

アメリカ、日本、ドイツやインド、中国、シンガポール……国によって、そもそも大学の社会的役割が違います。当然、大学で行われる教育のスタイルも、期待されている成果も、違うはずです。

これだけでも、大学教育を一つの指標で測ることが困難であることが想像できます。
さらにこの上、学問分野別の違いが加わるわけですから、大変です。

現在のところ、

(1)分析的推論力や批判的思考力など、専攻を問わず必要な能力
(2)専門分野に特定される能力
(3)責任感やリーダーシップなどの「対人能力」

……などが、指標の案として挙げられているようです。

なんとなく、どれもアメリカの大学、特にリベラルアーツ・カレッジが得意としているような能力であるような気がします。
日本の大学のように、専門教育を比較的早くから始めるところは、不利になりそうです。

(そもそも(1)と(3)については、高校までの段階で既に結構な差がついてしまっているような気がしないでもありません。日本の初等・中等教育は、子供達の批判的思考力やリーダーシップを、むしろ伸ばさないようにしているとすら、マイスターには思えます)

というか、確かにこれらは大事な能力ですが、どうやってこれを国際的に比較するのか、今ひとつ想像がつきません。これ、数値にできるのでしょうか。
これから、何かうまい方法が編み出されるのかも知れませんが……うーむ、どうするんだろう。

ちなみに「研究力」の比較では、従来から「論文引用数」や「主要科学メディアに掲載された論文の数」のような考え方で、「社会に与えたインパクト」を測る方法がとられてきました。
同じ考え方にもとづき、大学の教育力も、「その国への留学を希望する学生の数」とか、「主要な機関で活躍している人物の出身大学」とかいった、社会に与えたインパクトで比較することはできるかも知れません。
その場合、英語圏の大学が圧倒的に有利になりそうですが……。

このように、何かと気になるOECDの動き。
どのようなものが出てくるのかまだわかりませんが、いずれにしても各国の政策に与える影響は大きいでしょうから、日本の我々も無視できません。
今後の展開を気にしていきたいところです。

以上、マイスターでした。