「学び直し」の機会を大学が提供

マイスターです。

大学は本来、若者のためだけの教育機関ではありません。
18歳人口の減少により、社会も、大学自身も、そのことを従来よりも強く意識するようになってきたと思います。
本ブログでも、これまでに様々な事例をご紹介してまいりました。

■シニアと大学(1) リタイアしても大学で学びたい!
■シニアと大学(2) シニアが大学の学びに触れる企画、増加中
■シニアと大学(3) 日本初、カレッジリンク型シニア住宅
■格安学費が人気? 5人に1人がシニア学生の大学
■それぞれの卒業式

さて今日は、こんな記事をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「『学び直し』のススメ」(Asahi.com)

育児や介護で離職した人、定年で退職した人、ニート、フリーター、現状に飽き足らない人……。そんな社会人向けに、各大学が「学び直し」の多彩な講座をもうけ、再就職や能力アップを支えている。人生経験がバラバラの男女が学友となるため、励ましあいの効果も大きいという。
「ご覧ください。これが世界最古の木造建築群です」
(略)帝塚山大は5月から8月まで、計120時間に及ぶ「英語による奈良観光ガイド」の養成講座を開いている。
月~木曜日は座学が中心。日本の衣食住、祭り、宗教といった日本文化や、名所旧跡の数々を学ぶ「奈良学」に加え、ガイド用の英語表現を教える。
金曜日が、名所を訪ね歩きながらの演習だ。講師の手本を聞いた後、受講者もガイドを実践することになるので、みんな真剣そのもの。
2期目の今回も定員を大幅に上回る志願者があり、筆記試験と面接で156人の中から女性21人、男性7人が選ばれた。関西の20~70代。主婦、英語塾講師、元大学教員、翻訳家をめざす人など。
(略)この講座は入館料や教材などの実費がかかるが、授業は無料。修了者が観光・旅行業界で活躍できるよう支援する狙いで、自治体や商工会議所などと連携している。
「09年秋まで計5期の修了者が130人近くにもなる。国際イベントが奈良である時は県や市から仕事をもらうなど、就職支援を強めたい」。講師陣のリーダー、小坂幸三教授は意気込む。
山形大は5~9月の週末を中心に「里地里山活動プランナー」を育てる講座を開いている。このプランナーは、自然豊かな里山の生かし方を知り、地域おこしや環境教育を企画できる人材のこと。講座は自治体や学校、農林漁業などへの就職希望者向きだ。
メーンキャンパスは、山形県戸沢村の角川(つのかわ)地区。300世帯を抱えるこの地区は、地域おこしのモデルとされ、農家の人たちを講師に招いてノウハウを追体験できる。
(上記記事より)

シニア向け……と限定しているわけではなく、若い離職者やフリーターなども受講対象。
教養……だけではなく、学びによって得られる「実益」にも注目。
座学だけではなく実習にも力を入れており、単なる「体験」を超えた本格的なカリキュラム。
しかも受講生の金額負担はほとんどなし。

そんな点が特徴的なこれらの取り組みは、文科省「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」の採択を受けたものです。

■「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」(文部科学省)

「各大学、短期大学、高等専門学校における教育研究資源を活用し、社会人の学び直しニーズに対応した教育プログラムを展開する優れた取組を支援するため」に、文科省が平成19年度から始めたこの取り組み。

平成19年度は、大学や短大、高専などから315件の応募があり、126件が採択されました。
複数の機関による共同申請も8件あります。
国からの委託事業という形で、各機関がプログラムを運営する形になっている点がポイントです。

採択された事業の一覧は↓こちら。

■「2.平成19年度『社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム』選定事業一覧」(文部科学省)

一覧を見ていただくとわかりますが、プログラムごとに設定された受講対象は、「特になし」から、「短大・準学士」、「学士」、「博士・修士」まで様々。

想定されている受講生のバックグラウンドも色々です。
例えば「博士・修士」を対象としている、筑波大学の「文化遺産を活用した地域再生のための学びなおし研修」の場合、

本事業は、1文化財関連業務に携わって来た社会人(地方公共団体等の専門職員、産業遺産等を所有する企業の担当者等)及び2まちづくり・観光関連業務に携わってきた社会人(都市計画コンサルタント・建築設計専門家・観光コーディネーター等)の両者を主たる対象とし、地域再生のために文化遺産を活用するための学びなおし研修を行う。
「文化遺産を活用した地域再生のための学びなおし研修:事業概要」より)

……と、かなり具体的な受講生イメージが、事業概要では述べられています。

単なる「教養のためのお勉強」ではなく、受講生達が「次」につなげられるようなプログラムにするために、プログラムの狙いや受講対象者、身に付く力の詳細などが提示されているということでしょう。

実施する大学や短大などの公式webサイトには、より詳しい説明が掲載されています。
例えば、記事で取り上げられている2つのプログラムの詳細は↓こちら。

■「英語による奈良観光ガイド人材養成プログラム:文部科学省委託事業 『社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム』」(帝塚山大学)
■「里地里山活動プランナー養成講座」(山形大学)

正式な学位に繋がる学士や修士のプログラムよりは気軽に参加でき、しかし、単なる公開授業よりは高い意識が参加者に求められる……そんな、これまでになかった部分に該当する取り組みなのかなと思います。
これまで大学と関わりがなかった方々に大学の持つリソースを活用してもらえるという点や、大学が受講生を通じ、地元の産業などに直接的に貢献していける点など、色々な部分で評価される事業ではないかと、個人的には思います。

今後、色々な展開もできそうです。
大学関係者の方は、ぜひ、他大学の取り組みを見てみてください。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。