マイスターです。
小さいけれど大きな動きがありました。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「一般大学、初の海外勢 米テンプル大、09年度にも開設」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0421/TKY200704210251.html
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米ペンシルベニア州立テンプル大学の「テンプル大学日本校」が、09年度をめどに日本に学校法人を設立し、一般の大学を開設する。大学に校地・校舎の所有を義務づけた規制が4月から撤廃されたためで、海外の大学が法人設立を通じて日本に本格進出する第1号となる見通し。新大学の卒業生は日本の大学の学士号を取得できる。「大学全入時代」の学生争奪戦が激しくなりそうだ。
(略)
政府は03年から、構造改革特区にあれば校地・校舎が借り物でも大学の設置を認めてきたが、4月からこれを全国に拡大。投資負担を嫌って土地・建物の購入に二の足を踏んできたテンプル大は「(一般の大学開設に向けて)最大の問題点が解決した」(カーク・パタソン学長)として学校法人の設置と大学の開設を決めた。大学開設には、全学年がそろうまでの4年間定員割れが続いても耐えられるだけの資産を持つことや、現在は日本の基準を下回っている教員の増員などについて文部科学省と交渉し、大学設置・学校法人審議会で認可されることが必要。パタソン学長は「なるべく米国式の教育を提供できるよう、文科省と調整したい」としている。
(略)
一般の大学になると、教育水準を維持するため一定数の教員を確保することなどが課せられる。一方で法人税が優遇され、教員数や留学生の受け入れ数などに応じて補助金をもらえるなどメリットも大きい。
(上記記事より)
テンプル大学は現在、アメリカ合衆国ペンシルバニア州フィラデルフィアの州立大学として運営されている、アメリカの大学です。
しかし一方で、日本に「テンプル大学ジャパンキャンパス」を開設。およそ25年にわたり、日本でアメリカ式の教育を行ってきたことでも知られています。
■テンプル大学ジャパンキャンパス
http://www.tuj.ac.jp/newsite/main/indexj.html
しかし、この「ジャパンキャンパス」で学んでも、これまでは、アメリカの学位しか発行されませんでした。日本の大学設置基準に適合していないからです。
具体的には、おそらく↓このあたりを満たしていないのではないかと思います。
→<大学設置基準:第八章 校地、校舎等の施設及び設備等>
テンプル大学は2005年から「外国大学の日本校」として文科省から認定を受け、学割の発行などを行えるようになりましたが、学位はやはりアメリカのものです。日本のキャンパスで4年間学んでも、日本の学士としては認められません。アメリカに留学するのと同じです。
冒頭のニュースは、そのテンプル大学ジャパンキャンパスが、日本の学位を発行する一般の大学を開設するという内容です。「大学に校地・校舎の所有を義務づけた規制が4月から撤廃された」というのが、今回、日本の学位を発行することになった直接的なきっかけです。
これによって学位の扱いが変わるほか、法人税が優遇されたり、補助金がもらえるなど経営上のメリットも得られます。同校にとっては、念願だったことでしょう。
ところでテンプル大学は、アメリカでは評価の高い大学です。
例えば本校のMBAスクールは、MBAランキングで全米トップクラスです。
■「Rankings – Fox School of Business」(Temple University)
http://sbm.temple.edu/ranking/index.html
ジャパンキャンパスでも、レベルの高い教育が展開されています。
MBAの場合、世界的な教育基準として「AACSB認定」というものがあるのですが、この認定を受けているMBAプログラムは、日本では慶應義塾大学、名古屋商科大学、そして3テンプル大学ジャパンキャンパスの3校しかありません。
(AACSB:The Association to Advance Collegiate Schools of Business)
(参考)
■「国内で初めて国際的な第三者評価機関(AACSB)からの継続認証を取得(慶應義塾大学)
http://www.kbs.keio.ac.jp/school/news/050421.html
■「AACSB認証取得」(名古屋商科大学)
http://www.nucba.ac.jp/university/guide/aacsb.html
つまりこれまで「校地面積等が日本の設置基準に足りていないから文科省は認可していないけれど、世界レベルの教育評価基準は達成している」みたいな状況だったわけです。
そう考えると、逆に「MBAにとって、校舎面積の広さは本当にそこまで重要か?」みたいな疑問も当然わいてくるとことです。
で、話は冒頭のニュースに戻ります。
「大学全入時代」の学生争奪戦が激しくなりそうだ。
(「一般大学、初の海外勢 米テンプル大、09年度にも開設」(Asahi.com)より)
とあります。
上述したようにテンプル大学の日本校は、いくつかの面で非常に優れた教育を行っています。そうした部分に魅力を感じる方にとっては、確かに有力な選択肢になるでしょう。
何より今後、テンプル大学に続いて、海外の大学が日本の教育に正式に参入してくることが考えられます。リベラルアーツに強い大学、ロースクールに定評のある大学、コンピューターサイエンスで評価の高い大学などなど、まずは自分達の得意な分野でやってくるのではないかと個人的には想像します。
これまで海外の大学が日本にやってこなかった理由の一つとして、間違いなく「大学設置基準」の存在があったはずです。特に校地の取得基準は、かなり高いハードルになっていたのではないでしょうか。この部分がクリアされるとなれば、本格的に日本への参入を考える可能性はあります。
そうなったとき、本当に「『大学全入時代』の学生争奪戦が激しく」なるかどうかは、日本側の大学次第です。
「アメリカから来た○○大学には、十分な校地や広々としたグラウンドはないけど、どう考えても日本の大学より魅力的な教育を行っている」
……なんて考える人達は、日本の大学ではなく、新しくやってくる海外の大学を選ぶでしょう。そう思わせないだけの魅力が日本の既存の大学にあれば、そちらを選ぶでしょう。それだけのことだと思います。
個人的な意見を言いますと、広い校地や充実した運動施設などは、なんだかんだいっても質の高い教育のためには重要だと考えます。特に学士教育の段階ではそうでしょう。
しかし、校地さえあれば常に質の高い教育ができていることになるのかというと、それば嘘だと思います。またキャンパスの設備が充実している方が常に教育的に優れているかというと、必ずしもそうとは限らないと思います。
例えば、関わっている教職員の能力やカリキュラムの完成度が高ければ、校地が広いだけで人に魅力のない大学よりも、良い教育を行えることがあるかも知れません。校地や校舎が直接、教育をしてくれるわけではありません。いくら広くて魅力的なキャンパスがあっても、関わっている人やカリキュラムに魅力がなければ、それはただの公園です。
海外の大学が来るからといって、急に日本の大学が淘汰されるとは思えません。しかし油断していると、少しずつ市場からの支持を奪われていく可能性がある……とマイスターは思うのです。
海外の大学が参入して来ることには。個人的には賛成です。日本で暮らす人達にとって、魅力的な学びの選択肢が増えるのは好ましいことだからです。
結局のところ、日本の大学も、それに負けないような魅力を磨いていけばいいというだけの話なのかな、と思います。お互いに刺激を与え合いながら切磋琢磨できるのなら、それが誰にとっても一番いい方向なのではないでしょうか。
以上、マイスターでした。
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(過去の関連記事)
・黒船来航? 文部科学省より『外国大学の日本校』として正式に指定を受けている大学(2006年01月11日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50131590.html
・「英オックスフォード大、日本に初の分校設立を検討」(2006年05月10日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50193767.html
・少しずつ増えていく外国大学日本校と、課税の問題(2006年09月30日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50248397.html
今後、外国大学日本校が多く上陸してくる可能性があるとしたら、日本にあるインターナショナルスクール(小、中、高)の位置付けも変わる可能性がありますか?語学のみならず、教育の仕方に大変関心があり、子供の進学を希望しているのですが、市の行政の対応は、かなり悪いです。たとえば公立の中学校に入りたいなら、小学校を一年生からやり直さないといけないと言うのです。
今後テンプルでは幼稚園からのインターナショナルスクールを開設します。ただし、インターの場合、どこでも学費が年間200万円以上します。そのため、需要が低い為に学校数は少ないです。インターを卒業して公立の学校に行く人はいないと思います。それだけ、インターでは高いレベルで教育が行われている訳で、卒業生はみんな海外の大学へ進学する人が殆どです。最終目標が海外の大学であれば、インターは意味があると思いますが、最終的に日本の大学に入れるのであれば、日本の教育で最良の学校に行かせるのが一番だと思います。コストの面でも。でも、アメリカの大学と日本の大学では比べ物に成りませんよ。アメリカの方が質的に断然上です。
kayさん、お返事ありがとうございます。 日本にあるインターも様々だと思うのですが、将来アメリカの大学を目指すとしたら、どの程度の英語力、その他を習得する必要がありますか?ASIJの先生に伺ったところ、たとえインターに進んだとしても、日本人が相当の英語を習得するのはとても大変なことであると聞きました。その上、中途半端な英語、日本語になる可能性があり、それは思考力を乏しくするといわれました。インターで過ごし、英語をネイティブなみにするのであれば、学校のみならず、夏休みなどには、海外のサマースクールに参加するなど、お金も時間も相当かけなければならないといわれました。そういうことができないのならば、やはりインターに行く事は、無理ということになるでしょうか?