海外留学者の7割が戻ってきていない? 中国

マイスターです。

・年間5,000人の理工系学生を国費で海外大学院に派遣する中国(2007年03月19日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50298883.html

以前、中国の留学政策をご紹介したことがあります。
中国は国費を使って次々に優秀な学生を米国などに派遣し、国力の増強を図っている……という内容でした。

また、このときにご紹介した報道では、中国の国費留学生支援業務を総括する国家留学基金管理委員会(CSC)の張秀琴・秘書長へのインタビュー内容が紹介されていました。

張秘書長は、中国の国費留学生が帰国を渋るという風潮が一時あったことについて「最近は変わった。このところ中国の生活水準も上がり、帰国しない留学生はほとんどいなくなった。帰国すればいい仕事とと明るい未来が待っているというのに、外国にとどまる理由があるだろうか」と答えた。

(上記記事より)

これを読んでマイスターは、「うーむ、天安門事件などの影響も、もうないのかな。確かに母国の経済成長も著しいことだし、帰らない理由はないのかもなぁ。中国、勢いに乗っているなぁ」と感じたのでした。

……が、その感想をちょっと改めないといけないかもしれません。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「頭脳流出 中国ピンチ 海外留学生7割以上帰国せず」(フジサンケイビジネスアイ Yahoo!NEWS掲載)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070609-00000011-fsi-bus_all
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改革開放政策が始まった1978年以降に出国した留学生のうち7割以上が帰国しておらず、中国にとって「頭脳流出」が続いていることが、政府系シンクタンクの中国社会科学院が出版した「中国人材発展報告」(社会科学文献出版社)で明らかになった。留学した中国人は昨年まで累計で106万人にのぼるが、帰国したのは27万5000人と3割にも満たない。同報告はこの点が中国の今後の発展と安定に脅威になると指摘している。

(上記記事より)

帰ってないやんけ!

「帰国すればいい仕事とと明るい未来が待っている」とは、あんまり思われていないみたいですよ、張秘書長。
かの国の行政官は、どうやら現状よりかなり良いイメージを語っていらしたようです。勢いに乗っているどころか、依然として留学組からはそっぽを向かれたままだということがわかりました。

上記の記事には、さらに詳しい分析が載っています。

帰国した留学生の多くは近く定年退職する中高年(約15%)や人文科学系(約25%)で、中国が国家建設に必要と考えている科学技術系の帰国率は低いのが特徴だ。海外に留まっている約79万人のうち約20万人が職を得るなどし、永住許可や外国籍も取得している。

(上記記事より)

なんと、中国が最重要視している理工系人材が、一番「流出」しているようです。
中国の指導者達からすれば、笑い事ではすまない事態です。

留学組が帰国しない理由として、

同報告では、「人材流出の原因」として、収入や生活状況、子供の教育環境、民主的政策などを指摘。

(上記記事より)

といった記述があります。いずれも、確かにそうでしょう。

また、

中国で続く一人っ子政策への反発から、海外で2人以上の子供をもうけるケースも多そうだ。

(上記記事より)

という記述にも、考えさせられます。
今まで考えたことがなかったのですが、海外で二人以上の子供を産んだ方々は、国内に戻ったらやはり罰則があるんでしょうか。あるんでしょうね。
そうなると、いっそう、母国に戻りづらくなりますね。

こうなると、冒頭でご紹介した国費留学プロジェクトも見直しか、と思えてきますが、良く読んでみると、↓こんな記述があることに気づきます。

中国紙によると、2000年以降の留学生の総数は60万人に達しており、富裕層だけでなく中産階級の子弟にも留学生が増加しているという。公費留学生の帰国率は100%近いものの、帰国しない留学生は自費留学組がほとんど。教育省によると05年に留学した11万8500人のうち、90%までが自費留学だった。

(上記記事より)

国のお金で留学した方々は、ほとんど帰国しているのです。
というよりも、おそらく最初から、「帰国すること」が留学支援の条件として設定されているのだと思われます。さすがに、それでは帰らざるを得ませんよね。

以上のような事実を考えて見ると、冒頭でご紹介した「年間5,000人の理工系学生を国費で海外大学院に派遣」という計画や、張秘書長の発言の意図が、ちょっと違って見えてきます。
これって、単に留学生の数を増やすというだけではなくて

 「国費留学者の割合を増やす」
→「確実に帰国する留学生を増やす」

という意味合いを持っているのではないでしょうか。

ただ、そう簡単にはいかないだろうなという気もします。
「私費で留学したとしても、海外で働けばモトが取れる。私費留学の方が得な投資だ」という認識が変わらなければ、私費留学者は減らないでしょう。

つい最近も、人民日報に↓こんな記事が掲載されたようです。

■「海外留学帰国者の月給、たった3千元!」(人民日報 デイリーウォッチャー掲載)
http://crds.jst.go.jp/watcher/data/198-007.html

これでは、留学生達が帰ってこないのも無理ないことです。

以上、本日は中国の現状をお届けしま……

って、ちょっと待てよ?

留学生が7割が帰国せず……。
うーむ、初めて見たはずなのに、このデジャブな感覚は何!?
マイスターの、「同じことを以前にも書いた気がするセンサー」が反応しています!
(日常生活では全く役立たないセンサー)

で、見つけました。

(過去の関連記事)
「米国で理工系博士取得の韓国人、70%以上が帰国に否定的」(2006年12月25日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50275304.html

なんということでしょう。

中国も韓国も、留学生達の大半は帰りたがっていません!

「中国や韓国からは留学生がたくさん出ている。そういった若者達が、母国の国力向上に寄与している。それに比べて日本の若者は国内にこもるばかりで世界に飛び出さない。これでは、アジアの国々にいずれ負けてしまう……」

なんていう意見をしばしば耳にしますが、中韓の若者達は、飛び出したまま戻ってきていないようですから、ちょっと話が違ってきますね。
(もちろん帰国していなかったとしても母国に対する貢献度はあるでしょうが、かなり印象は違います)
こうなると、アメリカへの留学生が多いというインドあたりも、あやしいです。ほとんどがシリコンバレーあたりに定住したまま、戻っていないかもしれません。

日本の留学生達はどうなっているのでしょう?

「せっかく留学で学んだものが母国で活かされない」という点では、日本も中韓に引けを取っていないような気がしますが、それでも、戻ってきているのでしょうか?
うーむ、気になります。どなたか、データをご存じでしたら、教えてください。

とりあえず今後はどの国でも、「留学生をいかに増やすか」という課題同時に、「その留学生達に、いかに帰ってきてもらうか」が重要なテーマになりそうです。

以上、マイスターでした。