マイスターです。
入試シーズンも終わりを迎えようとしていますが、その入試に関して興味深い報道がありましたので、ご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「工学部 国語必須に 京大、09年度入試から」(京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2007031400199&genre=G1&area=K10
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京都大学が2009年度入試の実施科目を発表しました。その内容が、興味深いです。
工学部は、学力低下が指摘される状況を踏まえ「理系であっても総合力が必要で、国語の力が基本になる」(西本清一副学長・工学研究科長)とし、1979年の共通一次試験(現在の大学入試センター試験)の実施を機に2次試験から外していた国語を必須とした。工学系で2次試験に国語を課している例は東京大があるが、関西の主要な大学ではない。西本副学長は「論文を書くにも英語を使うにも国語力は欠かせない。文理融合で人材を育てるというメッセージ」と話している。
(上記記事より)
どの学問でも必ず必要になるのが、読解や記述を行うための基礎的な文章論理力です。
だから全学部で国語の学力を問う、工学部とて例外ではないよ、ということでしょう。大学としての方針が、単純明快に表れています。
(工学部の場合おそらく古典や漢文はなく、現代文のみの試験なのかな、と推察します)
「国語力」の重要性については、マイスターが今さら指摘するまでもないでしょう。
特に今は、ちゃんとした文章を書けない大学生の増加が指摘されています。
学生の国語力をなんとかしなければ、と感じている方は多いはずです。
ですから入試の時点で基本的な論理力を問うという方針は、悪くないのではないかなとマイスターは思います。
もっとも、京大のように入試の時点で学力を問うのではなく、「入学してから国語力を伸ばす」という教育方針を持っている大学もあると思います。
入試科目に加えるにしろ加えないにしろ、入学後に国語教育を行うことは大事です。
ちょっと話がそれますが、アメリカの大学のカリキュラムを見ていると、ほとんどの大学で「English 101」という授業が設けられていることに気づきます。
ご存じの方も多いと思いますが、アメリカの大学では、履修コードがその授業の難易度を表しています。100番台は初年時用の基礎科目で、200番台、300番台と数字が上がるにつれ高学年用の、専門的な内容を含む科目になっていきます。
ですから「English 101」というのは、もっとも基礎的な英語のクラスですね。
この「English 101」、留学生用なのかと思いきや必ずしもそうではなく、文章力を鍛えたい学生が結構履修するのだそうです。大学によっては全学生必修になっていることもあると聞きます。
「文章読解や文章作成というのは、大学で学ぶに当たって非常に重要かつ基本的な能力であるから、学ばせるべきだ」という方針が大学にあるのでしょう。
話を戻しますが、日本の大学でも「日本語基礎」とか、「日本語読解」「日本語の文章作成」とかいった授業がもっとあってもいいのではないかとマイスターは考えるのです。
実際、国語表現に関する授業を設ける大学が少しずつ出てきているようです。
「そんなの大学教育がやることじゃない」と思う方もおられるでしょうが、長い目で見れば、大学でも最初に日本語の使い方を実践的に教えた方が、絶対にプラスになると思うのです。
ただし、国語力というのはそう簡単に身に付くものではありません。時間がかかるものです。
ですから、高度なレベルの授業を1年次から展開したいと考える大学は、京大や東大のように入試の時点で基礎的なレベルに達しているかどうかを問えばいいと思います。
「本学では、文章の力を重視しています」という、受験生へのメッセージにもなりますし。
ところで冒頭の報道には、続きがあります。こちらも興味深い内容です。
経済学部は、論文選抜(50人)を、論文選抜(25人)と理系選抜(25人)の二つに分け、論文選抜は論文・国語・外国語、理系選抜は国語・数学・外国語の3科目を課す。論理的表現力をみる論文入試と、数学的な思考をみる理系型入試とに明確に分けて、多様な学生選抜をめざすという。
(冒頭記事より)
経済学には数学力が大事、これもよく言われることです。
しかし実際には多くの大学(特に私立大学)において、十分な数学力を持たない学生が経済学を専攻しているように思えます。その理由の一つが、数学の学力を問わない「文系」の入試の仕組みにあることは言うまでもありません。
数学力も入学後に鍛えられればいい……とは思います。しかし数学的な論理力の強化にも、やっぱり時間がかかります。しかも悪いことに、文系型入試を行う学部には、高校生の時点で既に相当な数学コンプレックスを抱いてしまっている学生が多いようです。
ですからこれも国語と同じで、初年時から高度なレベルの授業をしたいのであれば、入試で数学力を問うていいのではないかと思います。
もっとも、「入試科目を増やすと受験生が減る」という、いかんともしがたいジレンマがあるようですから、すべての大学がそういう方針を打ち出せる訳ではないでしょう。
その点、京大経済学部のように「半分の学生は数学で。もう半分の学生は他の科目で」のような入試方式にすれば、多様なタイプの学生が集まり、入学後もお互いにいい影響を与え合うのではないかな、という気はします。
それぞれの大学で、色々と検討されてみてはいかがでしょうか。
というわけで今日は、入試科目に関する京大の取り組みをご紹介しました。
マイスターでした。
慶應経済は数学と社会で2:1くらいの入学者を目指しているようですね。
数学はスタートラインによって内容がガラッと変わるので「文系」の経済学部で数学力を伸ばすのは難しいのでは……。予備校のような習熟度別授業でも導入すれば別ですが,そうすると入学前に数学を頑張ってきた学生のGPAが下がるし……。